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第2話【問題用務員と年越しパーティー】

 用務員室が大層賑やかである。



「母様、このドレスはいかがですか?」


「ゆ、ユフィーリアさん、あの、私にはこのドレスは派手じゃないかなぁなんて……」



 1000年続く名門魔法学校を創立当初から騒がせる問題児の巣窟に、純真代表の永遠聖女様と今年入学したばかりの女子生徒がドレスを見繕われていた。言わずもがな、リリアンティアとリタの2人である。

 来たる年越しパーティーの際に着るドレスの相談に、リリアンティアとリタが同時に押しかけてくるという事案が発生した訳である。普段から賑やかな用務員室もさらに賑やかさが増す。


 2人の現在の格好を眺めるのは、問題児筆頭と名高い銀髪碧眼の魔女――ユフィーリア・エイクトベルだ。雪の結晶が刻まれた煙管を咥え、縫い針と縫い糸を片手に悩ましげな表情を見せる。



「リリアは少し地味かな、もう少し花飾りとか足すか。レースと、スカートの下のパニエを穿いて膨らみを持たせた方がよさそうだな」


「こちらでも十分だと思いますが……」



 リリアンティアはその場でくるんと1回転して、ドレスの出来栄えを見る。


 彼女が身につけているドレスは、雪のように純白の可愛らしい意匠デザインのものだった。随所に飾られた白い薔薇とレース素材、控えめな胸元の辺りに結ばれた色鮮やかな赤いリボンが目を引く。さながら雪のように美しい童話のお姫様を想起させた。

 ふんわりと盛られたドレスのスカート部分は何重にも布が重ねられてメルヘンチックな見た目となっており、11歳という年齢のリリアンティアにはよく似合うドレスとも言えた。さらにそこへスカートを広げる為の下着を追加することで、より乙女チックさが増すという計算もあるのだ。


 純白の花飾りを追加で作り始めるユフィーリアは、



「いいんだよ、リリア。可愛いのはお前の年齢だけに許された特権だぞ」


「そうでしょうか。身共は可愛いですか?」


「おうよ、可愛い可愛い。アタシが手を加えるんだからもっと可愛くなるぞ」



 リリアンティアの方向性が決まったところで、さてお次はリタである。



「アイゼ、何でリタ嬢にこんな露出の高いドレスを選ぶんだよ」


「だって、ネ♪」



 リタの剥き出しの肩にそっと触れたのは、南瓜頭の美女――アイゼルネである。問題児随一のお洒落番長がリタを飾り立てた訳だが、大人の魅力溢れるおねーさんが選ぶものは若者には少々刺激が強かった様子である。

 それが鎖骨も大きく開き、胸元に大きな切れ込みも刻まれているせいで少女らしい慎ましやかな膨らみも確認できるセクシーな意匠であった。さらにロングスカートに刻み込まれた大きなスリットから輝く太腿が覗き、ヒールの高い靴が彼女の小さな足を飾る。完全にセクシー路線であった。


 長手袋で自分の胸元とスカートを押さえてお目目をぐるぐると回すリタは、



「あ、あの、あにょ、これはさすがにあうあう」


「リタちゃん、とっても似合ってるわヨ♪」


「止めなさい、アイゼ。若い子を揶揄うんじゃねえよ」



 ユフィーリアはとりあえず身体に巻けるぐらい大きな布を転送すると、リタの身体を隠すように巻き付ける。布で身体が隠れたことでリタはあからさまに安堵の息を吐いていた。



「何だってこんな露出多めのドレスを選んだんだよ、お前じゃあるまいし」


「だっテ♪」



 アイゼルネはユフィーリアとリタに顔を寄せてくると、



「リタちゃん、ハルちゃんをダンスに誘いたいって言ったのヨ♪ それならちょっと背伸びした大人の格好をして、ハルちゃんをメロメロのメロにするのヨ♪」


「ほーう、リタ嬢は勇気があるな」


「いやでもッ、こ、こんな格好は聞いてないです……!!」



 リタは涙目で訴えてくる。


 確かに、リタの年齢を考えると背伸びをしすぎな格好な気がする。彼女の勇気ある行動には称賛すべきだろうが、この格好で年越しパーティーのダンスに誘おうものなら相手は間違いなく血の海に沈むことになるだろう。あまり女性の肌に耐性のない純情ピュアボーイを虐めるような真似は避けるべきだ。

 そんな訳で、このドレスは残念ながら没である。いや、ユフィーリアも顔を真っ赤にしたハルアを見てみたい気もするが、まず何より最初に彼は同じようにリタへ布を被せたあとに、絶対零度の声と眼差しで「……誰がリタにこの格好をさせたの?」と疑いをかけてくるはずだ。まだ死にたくねえ。


 ユフィーリアはドレスの型録カタログを手繰り寄せると、



「リタ嬢も若いんだから、変に背伸びをしなくてもいいんだよ。ほら、この辺りでどうだ」


「わあ……」



 リタの身体を覆い隠している布を剥ぎ取ると同時に魔法を発動、彼女の服装が一瞬にして変わる。まさにおとぎ話の魔女のような鮮やかさであった。


 鎖骨や胸元、太腿などを大胆に見せた露出過多のドレス姿から一転して、優しいレモンイエローの生地が目を引く可憐なドレス姿に変身を遂げた。両肩は剥き出しではあるものの、首元から胸元にかけて純白のレース生地が覆い隠し、上品さを後押しする。控えめな胸元を飾るのは向日葵ひまわりの造花だ。

 波打つスカートは前後で長さが違い、さながら魚の尾鰭のようである。腰に縫い付けられたドレスよりもやや濃いめの黄色いリボンがたなびき、動くたびに優雅に揺れる。スカートから伸びた華奢な両足を、細いリボンが足首まで絡みついた真っ白い靴が飾り立てる。


 随所に金糸の刺繍を施したドレスに、リタは緑色の瞳を輝かせた。



「す、凄いです、綺麗……!!」


「せっかくの年越しパーティーだからな」



 ユフィーリアはそっとリタに近寄り、耳に唇を寄せる。



「ドレスの色な」


「? はい」


「ハルの目の色のお揃いにしておいたからな」


「ほにゃぉう!?!!」



 リタの頭から『ボン!!』みたいな音が聞こえてくるぐらいに真っ赤になった。恋する乙女は可愛い。



「終わったぁ?」


「終わったかね?」


「あ、エドと親父さんも終わったか?」



 すると、隣の居住区画の扉が開かれて、エドワードと冥王第一補佐官であるアズマ・キクガが申し訳なさそうに顔を覗かせた。

 彼らもまた年越しパーティーの衣装について相談していたのだ。というのも、今回は珍しくキクガが「洋装がしたい訳だが」なんて言い出したので身長が近いエドワードが相談に乗っていた訳である。


 キクガはどこか嬉しそうに、



「エドワード君は洋装に詳しい訳だが。私服のセンスもいいので、今度から洋装に挑戦したい時は相談したい」


「キクガさんはお着物が似合うんだからいいじゃんねぇ。俺ちゃん、身長のせいで着物の丈が合わないんだからぁ」


「おや、高身長の人でも着ることが出来る着物はある訳だが。何だったら年明けにどうかね?」


「え、いいのぉ? 和装も興味あるからお願いしちゃおうかねぇ」



 どうやら2人してお洒落に関して意気投合したらしい。方向性が違うから互いに相談できるようだ。

 思わぬところで仲良くなったエドワードとキクガを、ユフィーリアは微笑ましげに「そっかぁ、よかったなぁ」と頷く。エドワードが好むお洒落は未成年組には似合わないので、ここで同系統の服を好む者同士で交流を作っておくのもいいだろう。


 ユフィーリアは「で?」と首を傾げ、



「どんな感じにしたんだよ」


「まあ元がいいからねぇ、シンプルにタキシードとコルセットにしたよぉ。あと首元のクラバットは俺ちゃんのこだわりぃ」


「貴族みたいな格好だな。いやでも親父さんは品があるから似合うのか」


「当日は髪型も決めれば完璧よぉ」



 エドワードはどこか清々しげな表情で言う。キクガを着飾るのがよほど楽しかったらしい、自分がこだわった部分を興奮気味にお伝えしてくる。

 当日はエドワードがこだわり抜いた格好をしたキクガを見ることが出来るとは楽しみである。父親が珍しい格好をしている、ということで息子のショウの反応も楽しみだ。


 すると、



「ユフィーリア!!」



 どばん!! と用務員室の扉が勢いよく開かれる。


 誰かと思えば、何故かお怒りの表情のショウが用務員室にどすどすと足を踏み入れてきた。何かあったとしか言えない態度である。お散歩に出掛けていた場所から走って帰ってきたのか、肩で息をしていた。

 その後ろからついてきたらしいハルアが、ツキノウサギのぷいぷいを抱っこしたまま不安げに顔を覗かせる。後輩が怒っている理由は分かっているようだが、困惑している様子だった。


 ショウはユフィーリアの手を取ると、



「お笑い、やらないか」


「何て?」



 突拍子もないお誘いに、ユフィーリアは困惑せざるを得なかった。

《登場人物》


【ユフィーリア】可愛い後輩と可愛い娘的な聖女様の為にドレスを仕立てるぜ、えんやこら。

【エドワード】洋装の相談に乗れて嬉しい。

【ハルア】後輩の暴走を止められなかった。

【アイゼルネ】はしゃぎすぎると変な方向に振り切れる。

【ショウ】お怒りモードでご帰還。突拍子もないことを思いつくことは多数。


【リリアンティア】ドレスを仕立てることになり、ユフィーリアに相談しにきていた。

【リタ】ハルアをダンスに誘いたいので、ドレスを頑張って調達しようと相談に来たら暴走したアイゼルネに巻き込まれた。

【キクガ】珍しく洋装がしたくて、身長の近いエドワードに相談しに来た。

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