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第7話【異世界少年と迷探偵の真実】

 事件解決である。



「はい推理対決の結果は満場一致でショウさんの勝ちですの」


「こっちでも確認取れたよ。確かに服毒自殺をしてるね」


「やりました」



 第三席【世界法律セカイホウリツ】のルージュと現場を確かめていた第一席【世界創生セカイソウセイ】のグローリアによる勝利宣言を経て、ショウはピースサインを天高く掲げて喜びを露わにした。


 部屋に残された記憶をグローリアが魔法で再生して被害者が服毒自殺を図ったことを確認し、事実であることを裏付ける為に第四席【世界抑止セカイヨクシ】のキクガが冥府の台帳を確かめてからの勝利宣言である。ここまでやって往生際が悪くトンチキ推理説を推すのであれば、今度は拳で治療の出番である。

 そして現在、魔法列車に仕掛けられた呪術を用いて作られた血液爆弾の撤去作業も行われていた。第二席【世界監視セカイカンシ】のスカイが爆弾の位置を特定し、第五席【世界防衛セカイボウエイ】の八雲夕凪が誤爆を防ぐ為に結界を張り、第七席【世界終焉セカイシュウエン】のユフィーリアが絶死の魔眼で爆弾解除という最強の布陣が敷かれていた。これは解除もあっという間に終わりそうである。


 エドワードは名推理を披露し、なおかつ重篤な事件も予見して未然に防いだショウの頭を撫でて労う。



「ショウちゃんさすがだねぇ、頭いいねぇ」


「どやです。もっと褒めてください」


「うーん、ハルちゃんにやられると殴りたくなるけどショウちゃんだと許しちゃう不思議ぃ」


「何でよ!?」



 後輩差別とも取れる発言に、ハルアはエドワードに抗議の声を上げた。



「いやでも本当に凄いよ。こんな大事件、レティシア王国で起きていたら間違いなく死人が大勢出たはずだし」


「この功績は後世に語り継がれなくとも、何かご褒美ぐらいでもあげるべきですの。そうですの、ここはわたくし主催のお茶会にご招待」


「金一封以外は認めないからね」


「舌馬鹿は黙っとけッスよ」


「殺すぞクソアバズレ」


「英雄殺しは重罪じゃのぅ」


「ルージュ様、今までお世話になりました。冥府の刑場でもお元気でお過ごしください」


「存在そのものを消し飛ばすぞ」


「ショウちゃん、何も聞かなかったことにしようねぇ」


「オレ、今ならルージュ先生を殺しても誰にも責められない気がするんだ」


「ルージュ先生、学んでないわネ♪」


「怖いユフィーリア、助けて……」


「どうしてそこまで責められなければならないんですの!?」



 周囲から即座に言葉でボコボコにされ、ルージュは目を剥いた。ついでに言えばショウからは酷く怯えられていた。

 舌馬鹿のルージュが主催するお茶会など地獄でしかない。出される飲食物は全て猛毒の類、それを食さねば解放されないという冥府の法廷待ったなしな最悪の行事に参加なんてしたくない。ショウは語彙力最強だとしても胃袋は一般人と何ら変わらないのだ。


 エドワードの背中に隠れてガタガタと震えるショウに、今まで放置されていたポンコツ迷探偵から賛辞の言葉が送られる。



「見事だ、お子様のくせにやるな」


「何ですと、この野郎。お子様のくせにとは余計な一言なんですよ、ルージュ先生主催の死のお茶会にご招待しましょうか?」


七魔法王セブンズ・マギアスが第三席【世界法律】主催のお茶会!? 一介の探偵には畏れ多くて参加できないが!?」


「しまった、この人ちゃんとしたルージュ先生しか見たことないから悪口にならない」



 ヴァラール魔法学院に在籍していれば嫌でも分かるのだが、ルージュの舌馬鹿は学内では非常に有名である。学院長のグローリアや植物園の実質管理者であるリリアンティアでさえ「勝手に毒草を摘んでいく」と辟易しているぐらいだ。採取禁止の毒草を摘んで紅茶に加工し、あまつさえ他人に振る舞うという悪魔の所業に及ぶのだ。生徒はおろか、同じ七魔法王でさえ迂闊に近寄ることはない。

 しかし、そんな彼女でもちゃんと司法の最高峰である第三席【世界法律】の冠をいただいているのは事実だ。一般的な魔法使いや魔女は、彼女の七魔法王としての姿しか見ていない。「命が惜しいから参加しない」という拒否ではなく「恐れ多くも七魔法王とお茶を飲むなんてとんでもない」という畏まった意味での拒否と取られるのは当然だった。


 声をかけてきたポンコツ迷探偵ことシェイブは、軽く咳払いをしてから口を開いた。



「此度の推理対決は惜しくも君の勝ちだ。次は負けないとも」


「次も負けるんですよポンコツすぎて他人に迷惑をかけている自覚がない探偵略してポンコツ迷探偵さん。トンチキな推理を披露するぐらいなら漫談の道にでも進んだらいいんじゃないですか? 阿呆なお話を聞かされるこちらの身にもなってくださいよ」


「相変わらず口が悪いな、このお子様は!?」


「そんなお子様に言い負かされるなんて情けない大人ですね」



 ぐうの音も出ないほど言い負かされ、シェイブは肩を落としていた。事実、トンチキな推理しか出来ないポンコツ迷探偵など他人に迷惑をかける未来しか見えないので、この場で強靭な精神力をポキポキに叩き折っておいた方が世の為にもなる。



「うう……長いこと勤めていた職場を辞して憧れだった探偵なんて初めて見たが、まさかこんなお子様にも負けるとは……」


「大人しく勤務を続けていた方がよかったのではないですか」


「いや今も何かしらには関わっているのだがな」


「関わっているんですか。じゃあなおさら名探偵なんて名乗るのを辞めて真面目に働いた方がいいですよ」



 ショウは思わずツッコミを入れてしまった。


 こんなポンコツでもちゃんとした社会人なのが意外である。『人は見かけによらない』という言葉がまさに当てはまると言えよう。

 そう思うと、このポンコツで仕事も出来なさそうな人材をどこの企業が雇うのか気になってくるのが問題児の小悪魔後輩のショウである。もはや小悪魔を華麗に通過して『性悪』の単語が似合いそうなものだが、それは気にするべきではない。



「一体どこにお勤めだったんですか?」


「ああ、軍隊だ。レティシア王国の魔法軍隊に籍を置いていた」


「なるほど、軍人さんなら脳味噌まで筋肉が詰まっていて安直な推理しか出来ないのも頷けますね」


「いや、これでも指揮官をしていてな。今は後進の育成として何度か詰所に行くぐらいだ」


「何と」



 ショウは驚愕した。真っ赤なお目目がまろび出るのではないかというぐらいに驚いた。


 シェイブの職場は、まさかの軍隊であった。しかも世界的に有名で最も巨大な組織の指揮官だったとは完全に想定外である。後進の育成に励んでいるということは、かなり上位の立場にいた指揮官だったに違いない。

 指揮官とは現場の兵士に指示を飛ばし、時には戦場の行末までも見通して兵士を動かさなければならない。つまりは頭のよさが肝である。こんなトンチキ推理をやらかす馬鹿タレが簡単になれるようなものではない。


 首を捻ったショウは、



「え、と。縁故採用とか、そう言ったことで?」


「これでも一兵卒から試験を経て上級指揮官の地位に就いていたのだが」


「賄賂とか送ったのでは?」


「そんなことをする訳がないだろう。指揮官は兵士の命を預かる責任ある立場だぞ」



 心外なと言わんばかりの態度を見せるシェイブに、今度はショウがぐうの音も出ないほど黙らされた。

 嘘だと思いたかったが、どうやら姿勢を見る限りでは間違いなく指揮官として従軍していたのだろう。回答にも迷いはないし、何より「指揮官は兵士の命を預かる責任ある立場だ」と言ってのけるぐらいだから、指揮官という己の職務に誇りを感じ取った。


 悔しそうにシェイブを睨みつけるショウに、このポンコツ迷探偵は顎を撫でながら言う。



「いやしかし、これは実にいい逸材に出会ったものだな」


「何ですか。所詮はお子様な俺を笑いたいんですか。もしかしてあの推理もわざとでしたかこの野郎」


「いいや本気だが」


「よく上級指揮官なんてなれましたね」


「探偵の推理と戦場に於ける指揮官は頭の使い方が違うのでな」



 ショウの嫌味にも軽く返すシェイブは、



「ところで、よければ指揮官の試験を受けてみないか」


「は?」


「別に指揮官になれと言っている訳ではない。資格として持っていると、今後も何かと職場では有利になるだろうよ」


「え?」



 思わぬ提案を受け、ショウは赤い瞳を瞬かせたのだった。

《登場人物》


【ショウ】事件解決に導いた、正真正銘の名探偵。頭のよさでは大人顔負けである。

【エドワード】後輩差別? してないしてない、これは愛の鞭だって。

【ハルア】後輩差別なのではないでしょーか。オレだって可愛い後輩でしょーが。


【シェイブ】実はレティシア王国にて魔法軍隊の指揮官を務めていた魔法使い。現場を知った叩き上げの指揮官であり、それなりに優秀だった。かねてより推理小説マニアで探偵に憧れがあり、職場を辞して探偵事務所を開いたが閑古鳥が鳴いているという事態に陥っている。そりゃそうだ。

【七魔法王の皆様】ルージュの死のお茶会を何とでも阻止しなければならないという使命感に駆られている。

【アイゼルネ】今回することは特に何もない。

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