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第5話【問題用務員と城改造】

「壁の向こうや絵の向こうに特定の部屋を作りたい場合、まずは対象の広さをどれほどに設定する作業から始めます。魔法式はこんな感じでね、狭い部屋なら狭い部屋と仮定して……」



 キンと冷えた空気の中、グローリアの朗々とした声が響く。


 防寒対策をしっかりと施し、冬用の長衣の上からさらにコートを羽織ってマフラーと耳当てまで完全に装備したグローリアは、問題児が校庭に作った氷のお城の前で授業を執り行っていた。

 彼の担当授業は『空間構築魔法』と『時間操作魔法』などの分野であり、氷のお城の存在は授業道具として最適だったのだ。何せ中身は何もないのである。扉の向こうに魔法で部屋を作る行為は空間構築魔法の十八番だ。


 熱心に授業へ耳を傾ける生徒たちに向けて、グローリアは「まずはお手本だね」と言って氷のお城に向き合う。



「これは氷像だから、前提として中身に空洞はない。氷をお城の形に加工しているだけに過ぎないから、扉も可変式じゃない。空間構築魔法で大事な部分はまず扉をどう意識するかってところで、この扉を可変式にしなきゃ中に入れないんだよね。魔法式の最初の部分に『扉が動く』という情報を入れないと、たとえ扉の向こうに部屋を作ったとしても入れないで終わっちゃうんだ。ここが難しいところかな」


「先生、扉がどう動くのかという式も必要ですか?」


「扉の動きにこだわりとかあるんだったら必要だね。空間構築魔法に於ける『扉が動く』という情報は、扉の形状によって自動的に計算されるものだから、あえて片側だけの扉だけを動かしたいという場合はそういう情報も必要になってくるかな。もしくはこの扉は偽物で、本来はこう上下移動式で開けたいっていう時も同様だね」



 長々とした授業の説明だが、生徒たちはよく理解しているのか熱心に授業の内容を羊皮紙などにメモしていた。あのクソ長い説明を熱心に聞けるとはさすがである。

 空間構築魔法は便利な魔法だが、技術がそれなりに必要な魔法である。選択授業でも3学年から選択可能であり、特に高学年になると学院のあちこちで空間構築魔法を応用した自分だけの研究部屋を作る生徒が多くなる。自分だけの部屋を作ることが出来るのは楽しいので、まあまあ人気な分野だ。


 そんな授業風景を、連日のように雪かきをしながらユフィーリアとエドワードは行く末を見守る。



「よくやるな、あれで空間構築魔法の授業をしようだなんて」


「いい感じに利用されてるじゃんねぇ」



 氷のお城に至るまでの道のりで生徒がすっ転ばないように、と意図を込めて校庭の雪を掻いていく問題児ツートップ。昨日怒られたばかりなので余計なことはしないが、どうしても授業風景に注目してしまう。

 今は、グローリアが氷のお城の扉に手をついて空間構築魔法の実演をしているところだった。生徒たちに空間構築魔法について説明しつつ、魔法を行使。薄紫色の光が弾けたと思うと、氷のお城に反射して消える。


 その魔法が合図となり、ただの氷像だったはずのお城の扉が内側に向けて開いていく。本物の扉のように。



「わあ」


「凄い……!!」



 生徒たちの感嘆の声が聞こえてくる。


 内装に興味が出てきたユフィーリアとエドワードは、雪かき用のスコップを担いで授業の最後尾から成り行きを観察する。

 生徒たちによって構成された壁から垣間見えたのは、全体的に青色で構成された玉座の間である。城に合わせて設定された高い天井、その天井から吊り下げられる青く透き通った照明器具。最奥に位置する雛壇やその上に据えられた玉座まで全てが氷のままだった。空間構築魔法であえて氷の状態を維持しつつ、玉座の間を構築したのだ。


 その美しさは、問題児でさえ息を呑むほどだ。空間構築魔法に於いて一家言を持つ学院長の才能あってこそである。



「学院長って凄い魔法使いだったんだねぇ、いつもは未成年組に負かされてるのにぃ」


「忘れちゃいると思うから言っておくけど、グローリアは七魔法王セブンズ・マギアスの第一席【世界創生セカイソウセイ】なんだよな。つまり世界を生み出すぐらいには空間構築魔法に明るいんだよ」



 下手な業者に高い金を払って部屋の増改築を執り行うよりか、学院長のグローリアに土下座で頼み込んだ方が理想通りの部屋に作り替えることが出来ると言われているほどである。空間構築魔法ではユフィーリアでさえ敵わない。

 普段は問題児の問題行動の餌食にされがちで、何かにつけて怒鳴り散らしている訳だが、学院長だってあのように格好いい一面は持ち合わせているのである。まあそんな真面目な場面など数えるぐらいしか見ないのだが。


 ユフィーリアは「ところで」と言い、



「城の横に立ってる雪像は何だ? 顔はグローリアだけど身体がムキムキマッチョになってるし」


「ショウちゃんとハルちゃんが『昨日の雪像がダメなら合成獣キメラを作ってやる』と息巻いてぇ、顔は学院長の身体が俺ちゃんって感じの雪像を作ったらしいよぉ」


「また怒られるんじゃねえの、あれ」


「さあねぇ、下品じゃないからいいんじゃないのぉ?」



 氷の城の横で満面の笑みを浮かべたムキムキの学院長がサイドチェストを披露している雪像を清々しい表情で見上げる未成年組と、彼らを止めることが出来ずに膝をついて絶望気味なアイゼルネの姿が確認できたが、ユフィーリアとエドワードは特に言及することなく雪かきの作業に戻るのだった。

《登場人物》


【ユフィーリア】空間構築魔法は使えるものの、やはり広さの定義など面倒なので業者に任せてしまう。過去に何度かグローリアに空間構築魔法を使ってもらってリフォームしたことがある。

【エドワード】どうせ空間構築魔法を使うなら学院のどこかしらに筋トレ用の施設でも作ってくれないかねぇ。


【グローリア】空間構築魔法を使わせたら右に出る魔法使いはいないほど得意。特に得意な方式は部屋の模様替え。頼めば割と簡単に引き受けてくれる。


【ハルア】ショウと一緒に雪像作り。昨日みたいな雪像はめちゃくちゃ怒られたので、今回は人の姿を模ったものをチョイス。

【ショウ】ハルアと一緒に雪像作り。このあと人型は飽きたので、ドラゴンの雪像をハルアと一緒に作り出して学院長を驚かす。

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― 新着の感想 ―
やましゅーさん、こんにちは!! 新作楽しく読ませていただきました!! アイゼルネさんが膝をついて絶望しているシーンには、不憫さにかけては学院長先生といい勝負だと思いました。アイゼルネさん、貴女は悪く…
ほえー、なんか難しいことやってるんだな。今回はグローリアのカッコいいところ見せたな。まぁどうせ次で化けの皮剥がれるんだろうけどね! アイゼさんよくやったよ・・・はい、紅茶
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