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第1話【異世界少年と雪遊び】

 その日は朝から、あいにくの雪模様であった。



「ゆーきや」


「こんこーッ!!」


「あーられーや」


「こんこーッ!!」


「ふっても、ふっても、ずんずん」


「こんこーッ!!」


「ハルさん、何かおかしくないか?」


「こんこーッ!?」


「そんな『本当に!?』みたいな勢いで言われても」



 ヴァラール魔法学院の問題児――じゃなかった、用務員のハルア・アナスタシスとアズマ・ショウの2人は中庭で雪かきの真っ最中だった。

 というより、すでに雪かきという作業に飽きて遊び始めていた。学院側から支給された大きなスコップは放置し、雪が降り積もる中庭で雪だるまを作り始めている。ふわふわと幻想的な綿雪が舞う中、ゴロゴロと雪に塗れながらも大きな雪玉を作っていく。


 分厚い手袋で雪玉をぺしぺしと叩いて形を整えるハルアは、



「でもさショウちゃん!!」


「何だ?」


「『こんこん』ってどういう意味なの!? 変な言葉だよね!!」


「ああ、それか」



 ショウは雪だるまの手の代わりとして拾ってきた枝を雪玉に突き刺しながら、



「元々は『来い来い』が訛ったみたいな感じだ。だから要約すると『雪よもっと降れ』という意味になるな」


「そうなんだ!! 異世界特有の言葉だと思ったよ!!」


「特有ではあるが、ちゃんと意味の通った言葉だなぁ」



 左右のバランスを確認しながら、ショウは雪だるまの腕として見繕った枝の位置を調整する。上手く突き刺さなければ不格好な雪だるまになってしまう。

 ハルアの方は胴体部分に該当する雪玉作りが終わったからか、次は頭部の作成に取り掛かっていた。雪で真っ白になった中庭にしゃがみ込み、まずは手袋で覆われた両手を器用に使って小さな雪玉を作成する。ぎゅぎゅっとその雪玉を強めに固めてから、ゴロゴロと転がして大きくしていった。


 雪玉を転がすハルアは、



「異世界のお歌って面白いよね!!」


「そうだろうか」


「何かね、ついつい口ずさんじゃうものが多いよね!!」



 雪降る冷たい日でも、ハルアの笑顔は晴れやかなものだった。


 確かに、ショウの元の世界では耳に残りやすい曲が多いような気がする。主に商品の宣伝時なんかで幾度となく繰り返されるものだから、ふとした弾みで鼻歌が漏れて恥ずかしい目に遭ったことは両手の指では足りないぐらいに経験した。

 それだけではなく、元の世界の音楽は歌詞などにも特徴的な部分があった。語彙が豊富だからこそ直接的な言い方になったり、遠回しになったりなど多岐に渡る。あまり暗い歌を選ぼうものなら止められそうだが。



「ショウちゃん、もっと異世界のお歌を教えてよ!!」


「教えたいのは山々なのだが……」



 ショウはハルアが転がす雪玉を一瞥し、



「ハルさん、雪玉が大きくなりすぎてるぞ。それでは頭でっかちで歪な雪だるまになってしまう」


「こんこーッ!?」


「もはやそういう鳴き声と認識しているのか?」



 奇声を上げたハルアは、手元の雪玉を前に頭を抱えた。

 お話に夢中になりすぎたのか、ハルアが転がしていた雪玉は胴体部分を遥かに上回るほど巨大になりすぎた。これでは胴体部分の雪玉に乗せた際、頭が異常に大きな雪だるまとなってしまう。


 ショウは落ち込んだ様子のハルアの肩をポンと叩き、



「ハルさん、また作ればいいだろう。まだ雪は降っているのだから」


「ごめん、ショウちゃん。頭はもうちょっと待っててくれる?」


「俺も顔を作る為の石を探さなきゃいけないから、異世界の歌はまたあとで教えてあげよう」


「そうしてくれると嬉しいな」



 そんな訳で、未成年組はまず雪だるま作りに注力するのだった。


 雪かき?

 そんな作業を、問題児がする訳ないのである。



 ☆



 数分後、見事な雪だるまが中庭に鎮座していた。



「完成!!」


「ああ、見事な雪だるまだ」



 しんしんと雪が降り積もる中庭にドンと鎮座する雪だるまを前に、ショウとハルアは清々しいほどの笑みを見せた。「一仕事終えた」と言わんばかりに汗を拭う仕草さえしている。


 中庭に降臨なさった雪だるまは、なかなかの大きさを誇っていた。どっしりと風にも負けないような重量感のある胴体部分には、真横から細い枝の両腕が生えている。胸元を飾る小石たちは蝶ネクタイを形作るように配置され、ついでに丸々とした腹の部分にはボタン代わりとして少し大きめの石が2個ほど埋め込まれていた。

 そして頭部は大きくつぶらな目を演出する為に形の整った石が埋め込まれており、小石によって構成された口はにっこりと笑みを描いていた。ツンと尖った鼻先は、中庭の噴水に垂れ落ちることで作られていた氷柱を突き刺した。本当は人参がよかったのだが、食べ物を無駄にする訳にはいかない。


 手袋に付着した雪を払い落とすハルアは、



「ショウちゃんショウちゃん、異世界のお歌は!?」


「あ、そうだ。すっかり忘れていた」



 ハルアに指摘されたことで、ショウはポンと手袋に覆われた手を叩く。



「ええと、どんな歌がいいんだ? 異世界にはいっぱい素敵な歌があるのだが」


「雪が降ってるから雪の歌がいい!!」


「なるほど」



 ハルアからのリクエストに、ショウは記憶の中で該当するような曲を探る。


 雪にまつわる歌も、元の世界にはたくさんあったはず。しかもこの時期ならではの事柄を取り扱った曲も広く知れ渡っていたような気がする。

 ただ、それらの曲はどうにもハルアの気分と合致しないだろう。ここは子供から大人まで知っている、有名な夢の国の住人たちの歌を抜粋するべきだろう。


 ショウは「よし」と頷き、



「この歌は俺の元いた世界でとても有名で、世界中の子供たちが真似するぐらいだったんだ」


「どんなの!?」


「ユフィーリアと同じように氷の魔法が得意なお姫様がいて、とても綺麗な氷のお城を作るんだ」


「おお!! お城いいね!!」


「そしてその際に」



 キラッキラと期待に満ちた瞳を向けてくるハルアを前に、ショウは咳払いをする。そのお姫様の自信と威厳を再現するかのように背筋を伸ばし、胸を張った。



「『少しも寒く』――」


「馬鹿言ってんじゃないよ、ショウちゃん」


「あれぇ!?」



 ハルアからの辛辣な台詞に、ショウが目を剥いて驚きを露わにした。

 世界的にも有名なお姫様を再現する為にちょっぴり真似をしてみたが、歌詞の1節を口ずさんでみたらまさかの反応である。それまでの期待が嘘のように消えていた。


 戸惑いが隠せないショウは、



「え、ダメだったか? どこがダメだった?」


「氷のお城を建築しておきながら『少しも寒くない』なんて宣うのは、ちょっと体温が普通じゃないよ。ユーリみたいに冷感体質を患ってるお姫様だったらまずいよ」


「魔法を知っている方からの目線で厳しいご意見をいただいてしまった」



 そもそもショウの元の世界では魔法というものが存在しないから、氷のお城が建築された際に目を輝かせたものである。「こんな凄い魔法が使えるなんて!!」と子供ながら憧れるのだ。

 ところが、この世界では魔法という未知の存在が身近にある。本気になれば氷のお城を建築するどころか、世界を永久凍土に変えることだって夢ではないのだ。自信と威厳、抑圧されていた環境から解放された影響で強気になったことからのあの歌詞だとは思うのだが、魔法を知っている見識者からすれば「病院行きな?」になるのか。


 ハルアは「でもさ!!」と言い、



「氷のお城は凄いね!!」


「ああ、確かに凄いな。あれは本当に立派なものだった」


「オレも見てみたいな!!」



 ニッと笑うハルアは、



「ユーリに頼んだら出来るかな!?」


「ああ、なるほど。ユフィーリアなら出来そうだな」



 問題児筆頭である銀髪碧眼の魔女は、氷の魔法を得意としている。頼めば氷のお城さえ簡単に作ってしまうだろう。

 外観に関してはショウが捕捉して、形を整えれば問題ないだろう。この目であのおとぎ話のような氷のお城が見れるのが楽しみだ。


 ショウとハルアは「早速頼みに行こう!!」と口を揃え、ヴァラール魔法学院の校内に駆け込むのだった。

《登場人物》


【ショウ】元の世界である魔法とか技術とか、そろそろ再現できるじゃないかって思っている今日この頃。そういやあの氷のお城、ユフィーリアなら再現できるのでは?

【ハルア】ユフィーリアのおかげで魔法の知識はある。異世界の文化と知らずにショウの歌へ真面目に突っ込んだ。専門家からすればちょっと思うところがある歌の内容みたいだった。

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― 新着の感想 ―
やましゅーさん、おはようございます!! 新作、今回も楽しく読ませていただきました!! >「こんこーッ!?」 雪やこんこんをここまで面白く笑えるものに変えてしまうとは、やましゅーさん家のハルア君、恐…
わぁ・・・元気だなぁ。こっちはもう寒くて寒くて外に出掛けたくない。思えば自分が子どもの時もあんなに元気だったのだろうか(遠い目)
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