第10話【問題用務員と的当て副学院長】
「あのー」
副学院長のスカイは宙吊りにされていた。
彼に関して言えば、魔銃を開発しただけで落ち度は何もない。訓練用の魔法兵器なのだから訓練に使われるべきであって、間違ってもそこら辺に魔法染塗料をぶち撒けて楽しむなんて問題行動は避けられるべきである。魔銃を使った問題行動、そしてそれに対する責任は使用者にこそ生じるべきだ。
ただ、その使用者の感覚が常識的であるならば宙吊りにされることもない。彼が宙吊りにされた原因は、魔銃の使用者が阿呆だからだ。
「何でボク、宙吊りにされてんスかね」
「え?」
副学院長を縄で縛り、魔法で生やした氷柱に括り付けて宙吊りにするユフィーリアは青い瞳を不思議そうに瞬かせるだけだった。
「いやだから、何でボクは宙吊りにされてるんスかねって」
「的当てにしてやろうかなって」
「何でぇ!?」
宙吊りにされたスカイは、縄のおかげでミノムシみたいになった身体を前後に揺らして叫ぶ。
「ボク何も悪くないよねぇ!?」
「悪くないな」
「じゃあ何でこんなことするんスか、おかしくないッスか!?」
「おかしいな」
ユフィーリアは軽量系魔銃を構える。副学院長を縛るまでに軽量系魔銃にはたっぷりと魔法染塗料を充填しておいた。
「副学院長にもこの魔銃の楽しさを味わってほしくて」
「もう十分に味わってんスよ!! 何故なら開発者だからァ!!」
「いやぁ、まだまだ味わい足りないだろ。な? そうだろ?」
ぎゃーぎゃーと喧しく吠えるスカイに、ユフィーリアは同意を求めるようにコテンと首を傾げた。
魔銃を使って賭け試合なんぞに臨み、それでまだ楽しさが抜けていないのだった。俗にいう『戦闘ハイ』というあれであった。
七魔法王を相手にしたものは思う存分に堪能したから、今度は魔銃の開発者である副学院長で楽しんでやろうという算段だった。その理屈はおかしい。どうしてこうなったのか、誰もユフィーリアの思考回路を読むことが出来ない。
ユフィーリアは清々しいほどの笑顔を見せると、
「それ〜☆」
「あばばばばばばばおぎゃばッ、ちょ待、口の中に塗料ががばばばばばばばば」
軽量系魔銃から放たれる真っ赤な塗料の餌食になり、スカイは悲鳴を上げる。残念ながら彼を助ける人物も、問題児を止める人物もいなかった。ただ静かに両手を合わせるぐらいしかなかった。
理由は単純である。賭け試合で見せたユフィーリアの強さに、誰も敵う訳がないと理解していたからだ。あの猛獣を止められる人物はユフィーリアが愛する嫁ぐらいのものだが、肝心の嫁はうっとりした表情で応援するばかりである。
それからスカイは魔法染塗料を浴びせ続けられた結果、塗料に込められた転移魔法が発動して逃げることは叶ったのだが、満面の笑みの問題児に追いかけられて地獄を見る羽目になった。最後まで可哀想である。
《登場人物》
【ユフィーリア】戦闘ハイになっちまった戦闘狂。キラキラの砂浜で追いかけっこをしているような雰囲気が似合いそうな笑顔で副学院長を追いかけるものの、やってることはただのいじめっ子。
【スカイ】今回の犠牲者。可哀想。