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第1話【問題用務員と賭け試合】

 最高責任者のカーシムから提案されたのは、賭け試合である。



「訓練用の魔法兵器エクスマキナと言われておりますが、実際に使っているところを見なければ購入者も想像つかないでしょう。魔法兵器の性能を確かめる意味でも、最適な催し事ではありませんか?」



 朗らかな笑顔で提案してくるカーシム。その後ろで従者のイツァルが妙案だと言わんばかりの表情で頷き、「さすがのご慧眼でございます」とまで褒め言葉を投げかける始末である。


 アーリフ連合国では賭け試合など大して珍しい催し事ではない。むしろ頻繁に賭け試合が開催され、国のあちこちでかなりの盛り上がりを見せるのだ。ユフィーリアも何度かアーリフ連合国の賭け試合に参加したし、観戦したこともあるのでどういうものかというのは理解している。

 参加した側で言うと、基本的に規則無用で何でもありな無法地帯である。アーリフ連合国内のみならず、世界各国の荒くれ者が参戦するので最終的には血みどろの争いを繰り広げる羽目になるのだ。「今って戦争してたっけ?」というぐらいに熾烈な争いになる。


 とはいえ、別につまらない催し事ではないので大歓迎だ。しかも前提が魔銃バレットの使用である。何でもありの無法地帯にも秩序がもたらされ、意外と楽しいことになりそうだ。



「いいけど、誰と戦うんだ? お前のところの私設部隊?」


「貴様ッ、カーシム様に何て口を!!」



 ユフィーリアの態度にイツァルが目頭を吊り上げるも、カーシムに「お止めなさい」と一喝されて渋々と引き下がった。



「用務員の皆様の実力に、ぼくの私設部隊をぶつけるのは力不足でしょう。一瞬で転がされて賭けにもなりません」


「手加減するぜ?」


「それは金品を賭けてくれた人々にも申し訳が立たないでしょう」



 カーシムは「ですので」と手を叩き、



七魔法王セブンズ・マギアスvs用務員、というのはいかがでしょうか?」


「ほわ!?」


「ユフィーリア様は用務員側で参戦、副学院長であり開発者のスカイ様は魔法兵器エクスマキナを隅々まで理解していらっしゃるでしょうから参戦はなし。5人と5人による賭け試合はなかなか見応えがあると思いませんか?」



 カーシムからの提案に、ユフィーリアの口から変な声が漏れた。


 七魔法王セブンズ・マギアスは全人類から神様の如く崇められている、偉大な7人の魔法使い・魔女の集団だ。たとえ彼らの中身が順番に『魔法馬鹿』『マッド発明家』『舌馬鹿の変態』『天然』『狡猾エロ狐』『お子ちゃま』『問題児』だったとしても、外面の良さと魔法の実力だけで今もなお権力を維持しているのだ。

 そんな相手に真っ向から挑んでも勝てる訳がないのだ。負ける未来がすでに確定されている。



「アタシが七魔法王セブンズ・マギアスの敵に回ったらボコボコにする自信があるんだけど、本当に大丈夫か?」


「魔法の使えない七魔法王は脅威でもないよぉ?」


「そもそも魔法を使われたところでお暴力で捩じ伏せれば問題なし!!」


「いつものことネ♪」


「殺ることは変わらないです」



 真っ向から挑んで負けるのは、七魔法王たちである。世界中から神様よろしく崇められている彼らでも、お暴力の前にはひれ伏すしかないのだ。

 そもそも、問題児こと用務員は七魔法王最強と名高い第七席【世界終焉セカイシュウエン】とつるんでいる連中である。魔法の実力よりも身体能力の方に才能を振った暴れん坊どもに、知的な七魔法王が勝てる訳なかった。一瞬でのされて終わりである。


 さらに、当然と言えば当然なのだが、七魔法王側からも抗議の声が上がった。



「ちょっと待って!? さすがに問題児相手に勝てる訳がなくない!?」


「挑戦してみなければ始まらないじゃないッスか」


「スカイは黙ってて。高みの見物を決めるなら魔法工学の来年度の予算を減らすからね」



 ヴァラール魔法学院の学院長にして七魔法王が第一席【世界創生セカイソウセイ】のグローリアが、とんでもねー提案をしてきたカーシムに詰め寄る。



「商売の為に七魔法王セブンズ・マギアスを使おうと考えているなら、こちらとしても断固として抗議させていただきます。我々の名前は商品ではありませんが」


「ですが、用務員の方々は乗り気な様子ですよ?」


「馬鹿じゃないの問題児!? 乗り気にならないでよ!?」



 それまで威厳たっぷりに「断固として抗議させていただきます」なんて最高責任者に正面から対峙していたグローリアだが、問題児がノリノリなことを指摘されて態度がいつもの調子に戻ってしまった。どこまでも格好つかない第一席である。


 一方の問題児はノリノリだった。気分も最高潮、ワクワクした面持ちでどの魔銃バレットを使うのか協議している。賭け試合の参加者として自分たちがまるで商品の如く宣伝されることよりも、敵として七魔法王が立ちはだかるという遥かに面白い部分があるので気にした様子もない。

 あの神々と同等以上に崇拝されている七魔法王と、真正面からぶつかり合ってボコボコに出来るなど滅多にないチャンスである。こんな面白いことなど、問題児にとっては見過ごせないのだ。


 ユフィーリアは満面の笑顔で「悪いな、グローリア」と形だけの謝罪をし、



「今から七魔法王セブンズ・マギアスの連中をぶちのめすって考えただけでワクワクが止まらねえんだわ」


「日頃の恨みをここで晴らす気!? 問題児の方が悪いんじゃないか!!」


「何言ってんだ馬鹿野郎、この前の劇型魔法絵画シアターズの件はまだ許してねえからな」


「それは首から下を中庭に埋められたから帳消しでしょ!?」



 グローリアは金切り声を上げるも、ユフィーリアはまだあの恐怖の劇型魔法絵画の事件は許していなかった。魔法の実験として使用するのであれば人目のつかない場所に保管しておくべきだろう。

 あの事件に関して言えば、グローリアの首から下を中庭に埋めて公開処刑にしてやったのだが、死ぬほど怖い目に遭わされたのでまだ許していない。このスカした学院長殿に心的外傷でも負わせてやって、初めて溜飲が下りるのだ。それまでは絶対に許してやらない。


 きゃんきゃんとなおも喧しく吠えるグローリアを無視していたユフィーリアだが、



「ふむ、なるほど。つまり、今回はユフィーリア君たちとは敵同士という訳かね?」


「あ゛」


「あ!!」



 キクガのその一言により、グローリアの表情はパッと明るくなり、逆にユフィーリアは顔を顰めた。


 七魔法王セブンズ・マギアスをボコボコにする実力を持っている問題児ではあるが、それは相手の大半が身体能力が著しく低い魔法使いや魔女どもだからである。身体能力が高い相手には互角ぐらいの実力かもしれない。相手の程度にもよるかもしれないが。

 だが、七魔法王が第四席【世界抑止セカイヨクシ】のキクガは実力が未知数すぎる。頭脳明晰、身体能力も優秀、勤務態度も真面目、息子に関わる人類全てを息子認定するような天然な性格を除けば『完璧超人』とも呼べる人物である。どんな手段を用いてくるか分かったものではない。敵として立ち向かうのが恐ろしすぎる。


 しかし、キクガという心強い味方が出来たグローリアは、ふわふわと笑う冥王第一補佐官に縋りついた。



「そうだ、キクガ君がいた!! 君に任せるよ!!」


「承知した。共に問題児狩りと洒落込もう」


「うん!!!!」


「おい汚えぞ、グローリア!! どうせ親父さんに全部任せる腹積りだろ!?」



 キクガの言う『問題児狩り』というものが妙に怖くて仕方がないが、お荷物を最低でも3人ぐらい抱えて問題児と相対しなければならないのだから、いくら優秀な人材であるキクガでも骨が折れるはずだ。問題児でも勝機はある。

 ただ、キクガ1人に戦いを押し付けようとする小狡い魂胆は見過ごせない。ユフィーリアが抗議の声を上げると、グローリアはツンとそっぽを向いた。こいつムカつく。


 むしろキクガという味方をつけたことで、グローリアは情けなくも開き直った。



「ただでさえ身体能力に秀でた君たちを相手にするんだから、これぐらいのハンデぐらいはもらわないとね!!」


「親父さんがいなかったら一瞬でボコボコのくせによ!!」


「ふーんだ、何とでも言いなよ!!」



 やり取りがさながら10歳児ぐらいなのだが、そんなことはユフィーリアとグローリアにとって些事である。「絶対にボコボコにしてやるからな!!」「そっちがボコボコになるんだよ、キクガ君にね!!」「お前がやるんじゃねえのか!!」というやり取りまで発展したが、誰も止める人物がいない。同じ問題児でさえ2人を放置していた。



「父さんが敵か。負けないぞ」


「息子たちの実力を把握しておくいい機会な訳だが。手加減なしで挑ませてもらおう」


「それ俺ちゃんたちも入ってる訳じゃないよねぇ?」


「息子の1人かな!?」


「おねーさん、ちゃんとパパがいたのだけれド♪」


「? 用務員のみんなは義理の息子と義理の娘だろう?」


「キョトンとした顔で言われても困るのよぉ、キクガさん。正気に戻ってぇ」



 むしろユフィーリアを除いた問題児は、キクガが敵になることを歓迎していた。特に実子であるショウは父親に挑むことに乗り気である。



「それでは30分後に開始といたしましょう。それまでは作戦会議と準備運動を済ませておいてください。それと副学院長のスカイ様は戦場に次いでご相談があるので、こちらまでおいでください」



 有無を言わさずカーシムが話を中断してしまったので、賭け試合は決定事項となってしまった。呼び出しを食らった副学院長のみを引き連れて、世界で1番の大富豪様は悠々とした足取りでその場から立ち去る。

 こうして問題児と七魔法王による賭け試合が、大々的に執り行われることになってしまった。金持ちの道楽とは怖いものである。

《登場人物》


【ユフィーリア】かつてアーリフ連合国で女性専用の賭け試合で無双した。かなり稼げたのでまたやりたい。

【エドワード】かつてアーリフ連合国で男性専用の賭け試合に参加したことがある。荒事はあまり好きではないがかなり稼げたし、何だかんだ人気が高いのでまたやりたい。

【ハルア】かつてアーリフ連合国で未成年限定の賭け試合に参加して優勝した。ガッポガッポだぜ。

【アイゼルネ】ユフィーリアが賭け試合に参加した時にラウンドガールをした。チップ稼げて満足。

【ショウ】賭け試合なんてアングラなことがあるんだなぁ。今度は見てみたい。


【キクガ】賭け試合は、元の世界で若い時に何度か参加したことがある。ルール無用の時は容赦なく人を殺すし、ルックスも相まっておじさんたちから大人気。稼いだ金は大学の授業料と生活費に使っていた。

【グローリア】賭け試合に参加できるほど鍛えている訳ではないが、観戦はしたことはある。ユフィーリアとエドワードが参戦した時は大いに稼がせてもらった。

【カーシム】賭け試合も運営できる大富豪。金で殴ることが出来る唯一の魔法使い。

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まさかの問題児VS七魔法王だぁ!これはアツい! 果たして七魔法王は問題児のお暴力にどう立ち向かうのかぁ!? デュエル開始ぃぃぃぃ!
やましゅーさん、おはようございます!! 新作、今回も楽しく読ませていただきました!! 夢にまで見た、最高のドリームマッチがまさか現実になるとは・・・。 最初見たとき、ものすごく驚き、思わず「よっしゃ…
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