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第2話【問題用務員と最終回的なアレソレ】

※最後までスクロールして読んでください。

 事の経緯を説明したら納得してくれた。



「魔眼風邪ぇ? 何年振りぐらい?」


「300年振りぐらい」


「そんなに引いてなかったのにぃ、今になって引くなんて災難だねぇ」


「あれよ、今年は久々にたくさん使ったから」



 魔眼風邪まがんかぜに関して慣れっこな様子のエドワードとアイゼルネは、それぞれ口を揃えて「とっとと目薬で治しなよぉ」「危ないわヨ♪」なんて言ってくる。


 それは分かっているのだが、先程から目薬が見当たらないのだ。執務机の引き出しをガタガタゴソゴソと捜索中なのだが、なかなか魔眼風邪を治す為の目薬が出てこない。もしかしたらなくしてしまったのかもしれない。

 魔眼風邪を治す為の目薬は魔法薬に該当するので、なければ自分で調合しなければならないのだ。この絶死の魔眼が発動したまま、視界にあらゆる糸が入り乱れる状態で繊細な作業を求められる魔法薬の調合は勘弁してほしい。


 執務机の引き出しからとりあえず中身を全部引っ張り出すユフィーリアは、



「そうは言っても目薬が見つかんねえんだよ。どこにやったか覚えてる?」


「使用期限が来たとかで捨てたんじゃないのぉ?」


「確か目薬らしき小瓶を捨ててるところを、ほんの100年前に見たわヨ♪」


「うわ本当に捨ててやがった。ちくしょう」



 ユフィーリアは過去の自分を殴ってやりたくなった。おそらくだが、魔眼風邪など滅多に引くものではないので「もう使わねえだろ」とタカを括って捨ててしまったのだ。

 まさか魔眼風邪に再び罹患するとは誰が思っただろうか。というか300年前にかかってから「もう風邪引かないだろ」と判断するのはおかしい。長い人生、どこかしらで風邪は引くのだから簡単に薬品を捨てるのはよくないと学ばないのか。


 ゴシゴシと目を擦るユフィーリアは、執務椅子の背もたれに身体を預けて瞳を閉じる。先程から視界を横切る糸の群れが鬱陶しくて仕方がない。



「もうダメだ、今の状態で魔法薬なんか調合できねえし」


「アイゼは出来ないの!?」


「魔女さんだから魔法薬を作ってあげられないんですか?」



 ショウとハルアが、用務員の中でユフィーリアを除いた唯一の魔女に問いかけてみる。が、



「おねーさんでは無理ネ♪ 魔眼風邪の魔法薬ってとっても難しいのヨ♪」


「かなり工程もあるしぃ、何より失敗したら失明する恐れがある魔法薬だからねぇ。あんまり安易に調合しちゃうと大変だよぉ」



 アイゼルネに断られる他に、エドワードからもご丁寧な説明が添えられてきた。それほど魔眼風邪を治す為に必要な魔法薬は、調合が難しい魔法薬である。

 魔法薬の調合手順に記載されている階級も最高難度1歩手前の位置にあり、流し込む魔力の量も桁違いだ。ただでさえアイゼルネの保有魔力は少ないのに、魔眼風邪を治す魔法薬を調合するのに必要な魔力は全部を使っても足りないという恐るべき事実がある。無理に作って魔力欠乏症マギア・ロストを引き起こされても困る。


 そうなると、もう頼める人物が限られてくる。



「グローリアか、副学院長に何とか調合してもらえねえかな」


「ルージュ先生は!?」


「あいつに任せてみろ。紅茶を劇物に変えるような舌馬鹿だぞ、うっかり変な薬品を入れて失明なんてことになるぞ」



 ハルアの提案を、ユフィーリアは一蹴する。


 多忙を極める学院長と副学院長に頼むのであれば、まだそれほど忙しくはなさそうな魔導書図書館の司書である真っ赤な淑女に頼んだ方がいいのだろう。ただ、あの魔女は毒物を平気で紅茶に投入する舌馬鹿である。魔法薬にも余計な劇物を投入して失明させられれば溜まったものではない。

 あの魔女には悪いが、口に含むものや人体に作用する為の薬品に於いて信用はしていない。優秀な魔女であることはユフィーリアも分かっているのだが、目が見えなくなるという恐怖と戦う羽目になるのは嫌だ。



「では、リリア先生に頼むのは? 保健室の先生で治癒魔法が得意だろう、風邪を治すのも簡単では?」


「魔眼風邪って他と違うから治癒魔法でも治らねえなぁ。魔力回路が摩耗する時と同じだよ」



 ショウの提案も、ユフィーリアは断らざるを得なかった。


 強力な治癒魔法の使い手である保健室の聖女様、リリアンティアでも魔眼風邪の治癒は出来ない。普通の風邪だったら治癒魔法で完治できるだろうが、魔眼風邪は通常の熱が出て鼻水と咳に悩まされるような風邪の類ではないのだ。

 感覚的には魔力回路に老廃物が溜まるのと同じである。魔力回路がボロボロに傷ついた場合は治癒魔法で治療は出来ず、代わりに専用のマッサージで悲鳴をあげさせられる羽目になる。魔眼風邪も魔力回路が関係してくるので、治癒魔法は適用されない。


 やはり魔法薬を誰かに調合してもらう他はない。さて、どうすればいいか。



「よし分かった、さっきのように終わらせまくってグローリアに用務員室へ来てもらうか」


「わざわざ自分から怒られにいく必要はぁ?」


「どうしてそんな発想が出来るの!?」


「学院長の胃に穴が空きそうネ♪」


「さすがだ、ユフィーリア。学院長がどうしたら怒るのか正しく理解しているな」



 強烈なストレスによって学院長の胃袋に穴でも空きそうなものだが、そんな事情など知らない問題児筆頭は早速世界を終わらせることにした。

 魔眼風邪の状態では先程のように、何か希望に満ち足りた表情でどこかに向かおうとする状況で終わるだろう。よく知らないが何度かやれば学院長も怒って用務員室に襲撃するのではないか。


 さて、それでは実践である。鋏を手にしたユフィーリアは、



「ほい、終焉っと」



 そんな軽い調子で、世界を終焉に導く。



 ☆俺たちの戦いは、これからだ――――――――!!

































































「おい何か海が見えたんだけど、誰か転移魔法でも使ったか?」


「使える訳ないじゃんねぇ」


「ここから海ってだいぶ距離あるよ!!」


「それにどこの海かも分からないわヨ♪」


「何で少年漫画の打ち切りみたいな最後で終わるんだ……」



 断ち切った糸を繋ぎ合わせて世界の動きを再開させるも、何故か目の前にどこまでも広がる海の幻覚が見えたことに問題児は戸惑いが隠せなかった。

 ヴァラール魔法学院から近場の海までかなり距離があり、転移魔法でも使わなければ海を臨むことなど不可能である。海洋魔法学実習室は海に飛び込んでしまう形になってしまうので、キラキラと綺麗な海面と遠くに見える水平線は拝めない。あと、あの光景を再現できる海に心当たりがない。


 ユフィーリアは頭を抱え、



「綺麗な海が見えるようになるし、希望に満ち足りた表情でどこかに行こうとするし、世界の終焉なんて初めてやったけどこんな強制的に洗脳魔法じみたことが発動するのか?」


「もう1回やったらどうなるんだろうねぇ」


「今度は落ちる!?」


「どこからヨ♪」


「あまり落下するような終わり方はなかったような気がするけどな……」



 どこか遠い目をするショウは、



「ああいった終わり方の定番といえば、どこかに走っていくだとか決意を新たにした表情でそんな宣言をすることだが」


「ショウ坊、知ってんの?」


「いやまあ、打ち切りというか、物語が途中で中断になってしまうから都合よく最後を締め括ろうとしたらあんな風になるというか……」



 何か知っている風なショウに解説を求めると、彼もまた全力で困っている様子だった。「まさか自分がこんな打ち切りみたいな最後を味わう羽目になるとは思わなかった」と小声で言っていたが、何を言っているのかユフィーリアにはさっぱり分からなかった。


 打ち切りがどうのとか意味不明だが、とりあえず学院長がまだ来ないので続行である。何度あの綺麗な海の幻覚と向き合う羽目になるのか、今から考えただけでも気が滅入る。

 そもそも問題行動を止めればいいだけの話である。でもこれが面白いので終焉しちゃうのが問題児なのだ。


 銀製の鋏を掴み直したユフィーリアは、



「もういい、来るまで耐久レースだちくしょう」


「もう止めなってぇ、ついに変な幻覚を見始めちゃうからぁ」


「次はどんな幻覚になるんだろうね!!」


「楽しんじゃってるわネ♪」


「せめて次はいくらかマシな打ち切りがいいな……」


「だから打ち切りって何だよショウ坊」



 そんな訳で、サクッと終焉である。



「ほい終わり」



 ☆俺たちの戦いは、これからだ――――――――!!








































































「いや何で廊下に飛び出してんだよ!?」


「あの時間で俺ちゃんたちに一体何が起きたのぉ!?」


「怖い!!」


「身体が勝手に動いちゃウ♪」


「どうして……どうして……」



 断ち切った糸を繋げてみたら、用務員室から何故か廊下に飛び出していた。記憶にある限りだと清々しい表情を浮かべて廊下を走ろうとしていたのだが、何故そのような行動に陥ったのか不明だ。

 まさに『身体が意図せず動いた』と言ってもいい状況である。世界の終焉ってこんなおかしなことになってしまうのかと考えると怖くて仕方がない。


 すると、



「ユフィーリア、君って魔女は!!」



 廊下に怒号が響き渡る。


 顔を上げると、怒りの表情を浮かべた我らが学院長殿がどすどすと荒々しい足音を立ててこちらに向かっていた。ようやく学院長の誘導に成功したようである。

 何度も何度も世界を終焉させては復活を繰り返し、その果てに異変に気付いた模様である。世界の終焉は彼にも何らかの影響はあったようだ。あんな清々しい表情で廊下を走ろうとしたり、謎の海が見えたりしたのだろうか。



「さっきから何してるの!? 何か色々とおかしいんだけど!?」


「いやぁ、実は風邪引いちまってさ」


「はあ!?!!」


「そ、そんなに怒らなくてもいいだろうがよ……いや怒るか……」



 割と本気で怒鳴られたことに珍しく反省の姿勢を示すユフィーリアは、怒れる学院長にこれまでの経緯を語るのだった。

《登場人物》


【ユフィーリア】海が見えたり、走り出したり、終焉ってこんな怖いものだった?

【エドワード】世界が終わるたびに自分が自分ではない行動をするのが怖い。

【ハルア】世界の終わりってこんななの? だとしたら凄えね!!

【アイゼルネ】強制的に行動を制限されるのだから、あの覚えていない空白期間に果たして自分に何が起きたのか。

【ショウ】何で打ち切り漫画みたいに世界が終わるんだ。もう少しこう、厳かな感じで終わらないものなのか。


【グローリア】何か急に世界が終わったり再開したりを繰り返していて仕事にならないので駆け込んだら、魔眼風邪の概要を聞いた。

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[良い点] やましゅーさん、おはようございます!! 新作、今回も楽しく読ませていただきました!! 今までに読んできた小説にはない斬新な書き方に驚きましたが、打ち切りや最終回のあれこれというワードを初…
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