第10話【問題用務員と改竄】
授業終了の鐘と同時に鳴るものが増えた。
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正面玄関に設置された巨大な人形が、回転しながら音楽を奏でる。
その周囲を飛び交うのは、金髪縦ロールのプロペラで空中を舞う人形型魔法兵器だ。巨大な人形の周りをぶんぶんと飛び回っていたが、時折、文章を描くように整列をしたり何かの模様を描いたりしている。高度な魔法式を組み込まれていた。
それらを見やる生徒は、
「魔法工学専攻の生徒、また大変なの作ったよな」
「不気味な人形だけど、飛びながら文字を作ったり模様を描くのは凄いよね」
「あれどうやったらあんなの作れるんだろう」
「副学院長が教えてるから嫌でも上達するんじゃない?」
どこか感心したような口振りで、その人形たちによるショーを眺めていた。
いつも通りの日常である。生徒は授業を受け、教職員は勤勉に働き、世界は平和だ。
決してあの魔法兵器が副学院長であるスカイが自ら組み上げたものではなく、元々はヴァラール魔法学院を破滅に導く為に送り込まれた魔法兵器であるだなんて誰も思わない。知る由もないのだ。
「ちょっとスカイ、あの魔法兵器をどうにかしてよ」
「何で? いいじゃないッスか、別に。ちょっと飛び方を教え込まないといけないッスけど」
「飛び方の種類を増やさないでよ。せめて金髪縦ロールのプロペラで空中浮遊するのは止めて、面白いんだよあれ」
「じゃあケツからホバリングさせる? 見た目はおならで飛んでるように見えるんだけど」
「発想がクソガキなんだよ。君は副学院長である自覚を持って」
そんな内容の会話が、人形型魔法兵器のショーのすぐ近くで交わされていた。彼らの会話内容はあたかも副学院長を筆頭とした魔法工学専攻の生徒が作った魔法兵器の話だが、彼らが関与したのは改造のみである。最初からあの魔法兵器を作った訳ではない。
「……ユフィーリア」
「何だ?」
そんな人形たちのショーを見に来た問題児たちは、ぼんやりとそれらを見上げていた。
問題児だけは記憶にあるのだ。この魔法兵器が魔法工学専攻の生徒が作った訳ではないと。出所の不明な魔法兵器で、学院長がどこぞから実験を頼まれたから導入されたものであると。
それがいつのまにか、副学院長や魔法工学専攻の生徒が協力して組んだ魔法兵器という記憶に改竄されている。何か大きな力が働いたとしか思えない。それが出来るのは、七魔法王の第七席【世界終焉】の名を冠するユフィーリアぐらいのものだろう。
じっとショウはユフィーリアを見つめ、
「ぐっすり眠って起きたら、あの魔法兵器を作ったのは副学院長ということになっていたのだが、夜中に何かしたのか?」
「さあな。魔法兵器を改造したから返却できなくて、そのまま副学院長が権利ごと買い取ったんじゃね?」
雪の結晶が刻まれた煙管を吹かし、ユフィーリアはそんなことを嘯く。
「ユフィーリア」
「何だよ」
「終わらせたか?」
「何のことだ?」
「まさかあの魔法兵器を作った犯人が夜中にヴァラール魔法学院を襲撃して、こっそり処分しただろう。都合が悪くなるからみんなの記憶を絶死の魔眼であれこれしたな?」
「…………」
じいっと穴が開くほど見つめられ、ユフィーリアは反応に困った。これは面倒なことになった。
「そういや、親父さんが教えてくれた素敵な台詞があったな。ちょっと披露してもいいか?」
「ああ」
「……お前のような勘のいいガキはあまり好きじゃねえなァ」
「ユフィーリア、やっぱり何かしてるではないか。どうして何も言ってくれないんだユフィーリア酷いぞ何を隠しているんだ」
「あーあー聞こえなーい聞こえなーいきーこーえーなーいー」
肩を掴んでガックンガックンと揺さぶる最愛の嫁から全力で視線を逸らし、ユフィーリアは適当に笑って誤魔化すのだった。
《登場人物》
【ユフィーリア】真実を闇に葬った。
【ショウ】世界終焉の従者になったので終焉は適用されず、副学院長が改造したはずの魔法兵器を副学院長が最初から組み上げられたことにされていて混乱。
【グローリア】いつのまにかあの魔法兵器あったけど、どうせスカイが作ったんでしょ。
【スカイ】何かいつのまにかあの魔法兵器あったけど、どうせボクが作ったんスよねぇ。