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第12話【異世界少年と晩餐会】

 晩餐会ばんさんかいである。



「わあ!!」


「お料理がいっぱいです!!」


「キラキラしてて綺麗だねぇ」



 王宮の関係者に案内され、ショウたち3人は晩餐会の会場までやってきた。


 すでに晩餐会に招待された客人が大勢いるようで、絢爛豪華な会場は招待客で犇めいていた。ショウと同い年ぐらいの少年が銀盆に硝子杯グラスを大量に載せて、招待客に飲み物を勧めている。硝子杯に満たされた飲料に気泡が見られるので、発泡酒か何かだろうか。

 そして肝心の料理だが、龍帝国らしい雰囲気の漂う品々がずらりと台座に並べられている。巨大な皿に盛り付けられた野菜炒めやとろみのある液体のかけられた麺、大きめのせいろには小肉包シアォ・ロゥバオや海鮮饅頭などが詰め込まれている。どれもこれも美味しそうで、ショウの口内は早くも大洪水が起きていた。


 ハルアと揃ってどれから食べようかと吟味していると、小柄な給仕が素早く駆け寄ってくる。差し出されたのはお酒の入っていそうな雰囲気の硝子杯だ。



「お飲み物はいかがですか?」


「これってお酒ですか?」


「一応そうですが……」



 給仕を務める少年は「何か?」とキョトンとした表情で首を傾げる。


 ショウは未成年なのでお酒が飲めない。ハルアも同様に、未成年なのでお酒を飲むことが出来ないのだ。法律が許さない訳である。

 ましてこの場は王宮主催の晩餐会だ。公の場で法律をぶち破るような真似をすれば、保護監督責任を負う立場である七魔法王セブンズ・マギアスが第七席【世界終焉セカイシュウエン】に悪評が寄せられかねない。あまりはっちゃけた行動は控えるべきだろう。


 ショウは申し訳なさそうに、



「すみません、未成年なのでお酒はちょっと……」


「龍帝国では13歳からお酒は飲めますが?」


「え、そうなんですか?」



 給仕の少年に言われ、ショウは赤い瞳を瞬かせる。


 国によって掲げる法律は変わってくる。ショウが知っている法律はあくまでヴァラール魔法学院内だけなので、龍帝国や他の国での法律が果たして『18歳未満は飲酒はダメ』と統一されているのか分からない。

 でも龍帝国では13歳から飲酒が許されるのであれば、じゃあ15歳であるショウも許されるのではないでだろうか。だってせっかくの異国の地である、普段とは違ったお料理を楽しむなら少しぐらい許されてもいいのでは?


 と思っていたのだが、ショウの脳天にエドワードの手刀が叩き落とされて現実に引き戻された。



「ショウちゃん、お子様が大人の味を楽しもうだなんて思わないことだよぉ。大人になった時の楽しみが減るじゃんねぇ」


「い、今のはちょっぴり痛かったですよエドさん……」


「正気に戻す為の痛さだよぉ」



 エドワードはショウの肩越しから腕を伸ばし、小柄な給仕が差し出してきた硝子杯を1つだけ手に取る。それから「ごめんねぇ」と言い、



「この2人にはジュースをお願い。お酒を飲んだら何するか分からないからねぇ」


「かしこまりました」



 給仕の少年は恭しく頭を下げると、足音を立てずに人混みの中に消えてしまった。暗殺者だろうか。



「いいじゃん、龍帝国は13歳から飲酒が許されるんでしょ!!」


「俺もハルさんも大人の味覚デビューしてもいいのではないでしょうか!?」


「酔っ払ったら何するか分からないって言ったじゃんねぇ。全裸でスパイダーウォークでもしてみなさいよぉ、首を刎ねられるだけで済まないよぉ」



 ぶーぶーと文句を垂れるショウとハルアに、エドワードは硝子杯の中身を口に含む。「ん、林檎酒シードルだぁ」とちょっとご機嫌だった。


 ややあって、先程の給仕が2つ分の硝子杯を両手に握って戻ってくる。それらをショウとハルアにそれぞれ手渡してから、また招待客に食前酒を配り歩く仕事に戻っていった。

 給仕の少年から手渡された硝子杯には、エドワードが飲んだものと同じ色合いの飲み物が満たしていた。ぷつぷつと液体の中に浮かぶ気泡が炭酸飲料であることを示している。匂いを嗅ぐと、仄かに林檎の匂いがした。


 ショウは硝子杯の中身を僅かに傾け、



「ん、林檎のサイダーだ」


「美味え!!」


「お揃いだねぇ」



 ショウとハルアは林檎のサイダーを、エドワードは林檎酒をそれぞれ楽しむ。爽やかさのある林檎としゅわしゅわとした炭酸水の相性が抜群にいい。舌を刺激する炭酸特有の痛みが心地よく感じる。

 お酒を飲む硝子杯と同じものを使っているからか、何だかちょっとお酒を飲んだような酩酊感を味わう。ちょっぴり楽しくてショウの口から鼻歌が漏れる。


 すると、



「龍帝陛下のおなーりー」



 声が会場中に響き、銅鑼どらが鳴らされる。

 しゃん、しゃん、という鈴の音があとから続く。さながらそれは、高貴なる人物の足音の如く。


 そうして現れたのは、龍帝であるフェイツイと七魔法王の面々だった。彼らが姿を見せるなり、招待客は万雷の喝采で迎え入れる。



「あ、ユフィーリアだ」


「お顔は見えないけどぉ、嫌そうだねぇ」


「これからご飯だって言うのにね!!」



 行列の最後に続く、さながら喪服のような真っ黒い衣装に身を包んだ銀髪の魔女――ユフィーリアの姿を眺めながら、ショウたち3人は声を潜めて言う。これから食事の席だというのに、黒い薄布の向こうに隠された彼女の面持ちはどこか引き攣っている。


 彼らが向かう先にあったのは、会場の最奥に位置する高台だ。小さな階段を上ると、真っ白なテーブルクロスが敷かれた長机が置かれている。真ん中に龍帝を座らせ、左右で挟むようにそれぞれの七魔法王セブンズ・マギアスが椅子に座った。

 なるほど、これが客寄せパンダ状態か。他人に見られながら食事をする様子など、確かに嫌なことこの上ない。ユフィーリアはおろか、他の七魔法王も表情には出されていないものの心底嫌そうな雰囲気はある。


 全員が席に座ったところで、龍帝たるフェイツイが硝子杯を片手に立ち上がる。



「今宵は余の生誕祭に駆けつけてくれたこと、喜ばしく思う。この場には余が選び尽くした料理の数々、多くの美酒を用意した。心ゆくまで楽しんでくれ」



 フェイツイはそれから片手に握った硝子杯を掲げて、



「乾杯」



 音頭を取る。


 その音頭に合わせて、招待客も「乾杯」と明るい声で返した。あちこちから硝子杯をぶつける音が聞こえてくる。

 今日は龍帝様の生誕祭だったのか。だからユフィーリアも七魔法王として式典に参加する必要があったし、ショウたちも龍帝国の観光を国賓扱いで楽しむことが出来たようだ。そういえば、いつかは七魔法王は各国の王様の結婚式とか生誕祭とかには参加しなければならないから云々とか言っていたような気がする。


 ショウは先輩2人を見やり、



「いえーい、かんぱーい」


「かんぱーい!!」


「乾杯です」



 3人で硝子杯をぶつけ合い、龍帝様の生誕をお祝いした。それぐらいの気概は持ち合わせるのだ。



「さぁて、まずは何から食べようかねぇ」


「ガッツリ肉から!!」


「わあ、ステーキがある」



 ずらりと並んだ料理の中にはその場で料理をして、温かいうちに提供するものもある。ステーキなどはその代表例だ。屈強な料理人の男が鉄板で塊の肉を焼いており、じゅうじゅうと油が弾けるいい音を奏でていた。

 調理に勤しむ料理人の男を見れば、彼の顔には爬虫類を想起させる鱗が浮かんでいた。フェイツイの頬にあったものと同じような形である。よく見ると料理人だけではなく、給仕や荘厳な音楽を奏でている音楽家の頬にも鱗が浮かんでいた。


 ショウはそんな彼らを一瞥し、



「龍帝様とお揃いの鱗ですね」


「ああ、龍帝様は竜人だからでしょぉ」



 料理人から焼きたてのステーキを受け取ったエドワードが、ショウの何気ない言葉に応じる。



「龍帝国に昔から伝わるお話でねぇ、龍が人間に一目惚れをして自分の子供を生ませたんだって。それが竜人の発生起源だってさぁ」


「なるほど」



 ショウは納得したように頷き、



「エドさんの獣人と同じような感じですかね」


「ちょっと違うねぇ」



 エドワードはステーキを口に運びながら答える。ステーキのお肉が柔らかかったのか、その顔は綻んでいた。



「俺ちゃんたち獣人はねぇ、魔力はあるけど魔法を使う為の魔力回路がないのよぉ。だから魔力がいくらあっても魔法が使えないのねぇ」


「そうなんですか」


「竜人はねぇ、獣人と逆なんだよねぇ。魔法を使う為の魔力回路はあるけどぉ、生まれ持っての魔力がない訳よぉ」


「ほほう」



 ショウは赤い瞳を輝かせる。


 獣人は魔力を備えている代わりに魔法を使用する為の魔力回路がなく、逆に竜人は魔力が存在しない代わりに魔力回路が搭載されている。これは確かに真逆の立ち位置である。

 魔力回路はどうにも出来ないが、魔力はどうにでもなる。外部で抽出した魔力の補助装置を用いれば、魔力が少なくても魔法を使うことが可能だとユフィーリアから教えてもらった。竜人は補助装置さえあれば魔法を使うことが出来るが、獣人は魔力の補助装置さえあっても魔法を使うことが出来ない。この壁は大きいだろう。



「じゃあエドさんも竜人の方がよかったんでしょうか。見た目も屈強だし」


「そうでもないねぇ」



 エドワードはステーキのお代わりをもらいながら、



「魔力回路はねぇ、第2の血管って言われてるんだよねぇ。損傷したらまず致命傷になるしぃ、簡単に治せるものじゃないんだよぉ」


「そうなんですか」


「ユーリでも魔力回路を傷つけられたらねぇ、魔女を引退せざるを得なくなるよねぇ。ユーリは魔法を使わなくても強いからさぁ、傭兵やりながら各国をさすらうことぐらいやりそうだけどぉ」



 魔力回路を傷つけられれば、どれほど高名な魔女でも引退を考える。それほど致命打となり得る場所なのだ、魔力回路というものは。

 簡単に治せるものではないとすれば尚更大事にしなければならない。怪我は回復魔法や治癒魔法で治せたとしても、魔力回路はどうにもならないのだ。これは搭載されても困るものである。


 ショウもエドワードと同じようにステーキをもらい、



「じゃあ、エドさんは魔力回路はほしくなかった?」


「ほしくはなかったねぇ。幼い頃からあんな天才魔女の側にいたら自分と比べちゃうってぇ。それなら魔女様が出来ないようなことをやってやろって思うよぉ」



 エドワードは「まあ、無駄な足掻きだったけどさぁ」と遠い目で呟く。


 そう考えてしまうと、ショウも魔力回路を持っていなくてよかったかもしれない。あんな近くに魔法の天才がいたら、いつか自分自身と比べてしまう。引けに感じてしまう汚い自分が出てきてしまう可能性も考えられた。

 ならば、いっそ冥砲ルナ・フェルノで元気に空を飛んで、気に入らない人物を燃やしてぶっ飛ばす方がまだ気が楽だった。昔のように魔法に憧れたものだが、こうも魔法に馴染んでしまうと考えも変わってしまうものか。


 もきゅ、とショウはステーキを口に運ぶ。口に入れた途端、お肉の柔らかさと脂の甘さに目を見開く。



「美味しい……!!」


「でしょぉ、これ美味しいよねぇ」



 今まで難しい話をしていたのが嘘みたいな切り替え方である。もう美味しいお肉しか頭の中に残らなかった。



「ショウちゃん、難しい話は終わった? お料理まだまだいっぱいあるよ!!」


「わあ、ハルさん。凄いたくさん持ってきたな」


「片っ端からいただきました!!」



 取り皿を片手に戻ってきたハルアは、大量の料理に満面の笑みを見せていた。並んである料理を全て制覇する勢いである。



「ショウちゃんも早く一緒に制覇しようね!!」


「俺ちゃんも絶対に制覇してやろぉ」


「2人とも気合が凄い。これは負けていられないな……!!」



 晩餐会に並べられた大量の料理を制覇すべく燃える先輩たちを追い、ショウはとりあえず柔らかなステーキの消費に取りかかるのだった。

《登場人物》


【ショウ】もしも〜魔法が〜使えたら〜、ユフィーリアみたいに氷の魔法とか炎の魔法とかの属性魔法に興味がある〜♪

【エドワード】もしも〜魔法が〜使えたら〜、身体能力向上魔法と筋力増強魔法でどこまでやれるか試したい〜♪

【ハルア】もしも〜魔法が〜使えたら〜、そ〜らを自由に〜と〜びた〜いな〜♪

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― 新着の感想 ―
[良い点] やましゅーさん、お疲れ様です!! 新作、今回も楽しく読ませていただきました!! ついに始まった晩餐会。晩餐会のメインディッシュというか、七魔法王への親交を深めるために準備していたものとし…
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