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第4話【問題用務員と大喜利】

 今回の創設者会議も凄え退屈である。



「くあ」



 ユフィーリアは欠伸を噛み殺すこともなく、普通に特大級の大欠伸をする。誰もが振り返る銀髪碧眼の美人が台無しである。


 会議は主に第一席から第四席が積極的に意見交換をしているのだが、第五席、第六席、そして第七席は会話に入れない。八雲夕凪は適当に相槌を打つだけだし、リリアンティアは会話についていけていないし、ユフィーリアはそもそも会話に混ざる気配もない。

 ちなみに意見交換をしているのは、今月の各々が持っている予算についてである。第四席のキクガが関係ないはずなのに意見交換へ積極的に参加しているのは、金銭関係で強いからだろう。実際、何か余計な書籍を購入しようとしていたらしいルージュに「これはどういう教科でどういう勉強に役立つのかね」と問い詰めている。まだ時間がかかりそうだ。



「リリア、平気か」


「あう、ううあああ」


「ダメだな、こりゃ」



 ぷすぷすと脳天から煙を発するリリアンティアを心配したユフィーリアが声かけをするも、聖女様は奇声を漏らすだけだった。


 予算会議に白熱する第一席から第四席の会話内容に何とかついていこうという気概は見せるものの、元より学がないリリアンティアである。文盲で読み書きもショウに習いながらようやく簡単な文章程度なら読めるようになった頃の娘に、予算などという金勘定の計算など無理な話だ。

 リリアンティアを教祖とするエリオット教の経理事情は、数字に強い修道女が数十人単位で運営してくれているのでリリアンティアが関わることはほとんどない。保健室の予算はヴァラール魔法学院に常駐する修道女たちがまとめてくれているので、お金に触れることがあまりないのだ。


 そんな訳で、ぷすぷすと煙を吹き出すリリアンティアの姿を見かねたユフィーリアは、追加でお茶を入れて回っていたアイゼルネを呼び止める。



「悪い、アイゼ。リリアにジュースを追加してやってくれ」


「あらリリアちゃン♪ そんなに悩んだら風邪をひいちゃうわヨ♪」


「みゅみゅみゅみゅみゅ」


「ダメかもしれねえ」



 ついに謎の場所と交信を始めてしまいそうな勢いがあったので、ユフィーリアはアイゼルネにジュースの追加を要求する。リリアンティアの前に置かれた硝子杯グラスはすでに空っぽだった。



「リリア、残りの話はアタシが聞いておくからショウ坊とハルと一緒に遊んでるか? 出ててもいいぞ」


「にゃにゃにゃにゃにゃにゃ」


「謎の交信を始めたと思ったら、今度は猫語を受信しちゃったか」


「お疲れネ♪」



 空っぽだったリリアンティアの硝子杯に新しいジュースを注ぎ、アイゼルネは苦笑する。確かにこの調子では働きすぎではないかと勘繰ってしまう。

 とにかく彼女をこの話題から離すべきだ。小難しい話に割って入っても、ある程度の知識がなければついていくことなど不可能である。


 とりあえずハルアとショウの未成年組にリリアンティアを連れ出してもらおうとユフィーリアは背後を振り返り、



「パンはパンでも食べられないパンはパーンダ」


「全部答えを言っちゃってんのよぉ、ハルちゃん」



 ユフィーリアの座る椅子のすぐ後ろに設けられた傍聴人用の小さな椅子は、全部で4つ並べられている。

 そのうちの1つはアイゼルネが座るべきものだから空いた状態となっており、残りの2つにハルアとエドワードが腰掛けてくだらないやり取りを繰り広げている。最後の1つにショウが座っていたはずなのだが、何故か今はそこは空席になっていた。


 分かりやすく言えば、ショウがいなかった。



「どこに行った?」



 トイレか何かに出かけてしまったのか、と会議室にぐるりと視線を巡らせると、ショウは簡単に見つかった。



「…………」


「…………」



 予算増額をおねだりする副学院長のスカイを「無理だって言ったでしょ」と厳しい言葉でバッサリ切り捨てる学院長の、その後ろ。

 いつのまに移動したのか、ショウがポツンと佇んでいた。何をする訳でもなく、ただ紙束を片手にした状態で棒立ちしている。特に被害がないからか、それとも単純に気づいていないからか、グローリアも他の七魔法王も何も言うことはない。


 すると、



「…………」



 ショウが抱えていた紙束に何か文章を書き込むと、それを頭上に掲げる。



『大喜利:第一席【世界創生セカイソウセイ】が最初に作り出したものとは?』



 愉快なクイズを出題し始めてしまった。



「…………?」



 ユフィーリアもさすがにクイズの意図が読めずに、ただ首を傾げるしかなかった。


 大喜利と言えば理解は出来る。お題に沿った内容で面白い回答が出来ればいいのだ。

 ただ、この創設者会議の場で、予算関係の真面目な内容を取り扱っている中で面白い回答を要求する大喜利が始まってしまうのはいかがなものか。確実に笑わせにきているではないか。



「母様、ショウ様は何をなさっているんですか?」


「クイズだよ。第一席が最初に作ったものは何だってさ」


「ええ……何でしょうか……?」



 リリアンティアは大喜利をよく理解していないようで、面白い回答をそっちのけで真面目に答えを探し始める。それはそれでいいとは思う。大喜利の回答は千差万別である。


 ユフィーリアも何か答えを出した方がいいのかと頭を悩ませていると、背後で紙に筆記用具を走らせる音が聞こえてきた。

 視線をやると、ハルアが真剣な表情で紙束に鉛筆を滑らせている。もう大喜利に対する回答を見つけたらしい。


 そして、ハルアが出した回答がこちらである。



『おかしのいえ』



 そんな訳あるかい。



「ぷッ」


「ユフィーリア? どうかした?」


「いや、あの、ふふッ」



 あまりにもくだらない回答で思わず笑ってしまったユフィーリアは、グローリアに異変を問われて「何でもねえ」と苦し紛れに誤魔化す。でも笑いが漏れている時点で誤魔化せていない。


 柳眉を寄せたグローリアは、ユフィーリアの後ろで『おかしのいえ』なる回答を掲げるハルアを見つける。紙束の表面に大きく書かれた癖の強い文字を眺め、たっぷり考えてからパッと自らの背後を振り返っていた。

 そこでようやく、彼は大喜利のお題を掲げていたショウと目が合う。ショウはグローリアが振り返った瞬間に紙束を自分の背中に隠して明後日の方向を見上げ、下手くそな口笛を吹きながら誤魔化していたが態度がトドメとなっていることに気づいていない。



「ショウ君、何してるの?」


「何もしてないですよ」


「大人しくしててって言ったよね?」


「大人しくしてるじゃないですか」



 屁理屈を捏ねるショウに、グローリアは早々に口論を諦めて「大人しくしててよね」と注意してから予算云々の会話に戻っていた。スカイやルージュ、キクガも会話を一時中断していたが、グローリアが戻ってきたことで予算のやり取りについて会議が再開される。


 真剣な空気が戻ってきた中で2問目の大喜利が飛んでくるかと思いきや、ショウは紙束に触れる気配もない。何かを待っているような雰囲気である。

 ネタ切れを心配したが、今度はユフィーリアの背後からシャシャシャシャッという紙に鉛筆を走らせる音が聞こえてくる。1問目の大喜利ではくだらない回答で場を和ませたハルアが、今度は大喜利の出題者になったらしい。


 そして出題された大喜利だが、



『大喜利:めいおう第一ほさかんが思わずゆるしちゃったざいにんのおかしたつみは?』



 どうやら頑張って『冥王第一補佐官』と書こうとしていたようだが、書けずに子供のような文字で終わってしまったらしい。



「は?」


「何してんスか、あれ」


「何ですの、一体」


「私が思わず許してしまった……?」



 予算関係の議論で白熱していたはずのグローリア、スカイ、ルージュ、キクガの4人だが、ハルアが掲げた大喜利を発見した影響で会話を止めてしまう。しかも大喜利の内容に揃って首を傾げていた。

 さすがに怒られるかと思ったが、意外にも「え、何だろう」「軽い罪なら許しちゃうんスかね」「この朴念仁がそんな寛容に思えませんの」「私の何を知っているのかね」と真面目に答えを出そうとしていた。大喜利のことをクイズか何かだと思っているようである。


 ハルアの掲げる大喜利に対する回答を掲げたのは、今もなおグローリアの背後を陣取るショウである。



『サプライズパーティーのネタバレ』



 さらに白目を剥いた学院長の簡易的な絵まで添えてある。



「ふへッ」


「あ、またショウ君!!」


「邪魔はしてないですもん」



 ユフィーリアが笑い声を漏らしたことがきっかけとなり、グローリアがショウに「大人しくしててって言ったでしょ!!」と怒る。何度も注意しているからか、若干の苛立ちが見て取れた。



「いい加減にしないと今度は追い出すからね!!」


「大喜利がダメなら何ならやってていいんですか、変顔ですか?」


「大人しく椅子に座ってなさい!! 巻き込むならハルア君だけにして!!」



 グローリアに一喝されたショウは、不満げな顔をしながらも大人しく自分の席に戻ってくる。残念なことに、大喜利は強制終了となってしまった。


 ただ、その後もハルアとショウによる2人きりの大喜利対決がちょっとだけ面白かったので、ユフィーリアは創設者会議そっちのけで未成年組による大喜利対決を観戦していた。

 特に『大喜利:スカートが捲れた時、下着には何と書かれていた?』に対するハルアの『こんにちは、第2のハルア・アナスタシスです』が妙にツボって撃沈し、ユフィーリアもグローリアから怒られる羽目になった。

《登場人物》


【ユフィーリア】静かな中で未成年組が阿呆なことをし始めるので笑いを禁じ得ない。意外と笑い上戸。

【エドワード】未成年組の大喜利バトルで知れず腹筋が鍛えられる羽目になった。

【アイゼルネ】どうしてこの状況で大喜利バトルを始めてしまうのか、この未成年組。

【ショウ】『大喜利:好きな子に振り向いてもらうにはどうすればいい?』という題材でハルアの回答である『後ろに立って名前を呼べばいい』に笑ってしまった。不覚である。

【ハルア】『大喜利:副学院長が思わずボツにした魔法兵器はどんなもの?』に対するショウの回答『全人類がみんな猫になる眼鏡(アレルギーが発症するため)』に納得してしまった自分がいる。


【グローリア】あまり大喜利に触れたことはないが、とりあえず未成年組が馬鹿なことをしているということだけは理解した。

【スカイ】魔法工学の予算がほしいのでそれどころではない。

【ルージュ】魔導書解読学の予算がほしいのでそれどころではない。

【キクガ】金銭関係の資格を所有しているので、予算関係で大体相談されがち。

【八雲夕凪】一応これでも学はあるので植物園の予算は確保している。ただ植物を枯らすので予算を持っていても意味がない。

【リリアンティア】数字にもあまり強くないので、お勤めしている修道女たちに経理関係は丸投げ。お金に強かったらエリオット教も無償提供とかしていない。

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― 新着の感想 ―
[良い点] やましゅーさん、おはようございます!! 新作、今回も楽しく読ませていただきました!! 大喜利って、見るとすごく楽しいですけど、あんなに面白い回答をお題を出されてすぐに思いつけるというのは…
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