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第3話【異世界少年と折り紙】

 案の定と言うべきか、早々に未成年組は会議の参加に飽きていた。



「週末に龍帝国りゅうていこくで龍帝陛下の生誕祭があるから、参加しなきゃいけないんだよね」


「じゃあ渡航許可も必要になるッスねぇ」


「近頃は渡航許可が降りるのも時間がかかりますの」


「余裕を持って申請しておいた方がいい訳だが」


「服装にも気を配らんといけんかのぅ。儂、和装しか持っとらんのじゃが」


七魔法王セブンズ・マギアスの正装でよろしいのではないでしょうか。新しく仕立てるとなれば時間もかかります」


「まあ、七魔法王の正装で何か言われることはねえだろ。他の国での式典にも同じような格好で参加してるし」



 言葉通り、公になったところで何の支障もない会話の内容である。


 どうやら龍帝国と呼ばれる場所で国家元首の生誕祭が執り行われるから、七魔法王としてユフィーリアたちもお祝いに駆けつけなければならないらしい。世界中から神々の如く崇められる魔女・魔法使いの集団で偉大なる魔法使いたちなので、そう言った国家元首の生誕祭などには参加しなければいけないようだ。

 偉大な魔女や魔法使いは、祝福する側に回る。持っている人間は持たざる人間に与えなければ平等にはならないのだ。七魔法王は持っている人間としての代表格で、祝福を与えることで他国に箔をつける訳である。


 まあそんな難しい内容を理解したところで、その従僕であるショウたちには与えるもクソもない。



「難しいお話ばっかりだね」


「だなぁ」



 ショウとハルアは椅子に座りながら、足をぶらぶらと手持ち無沙汰に揺らしていた。


 退屈である。非常に退屈である。

 確かに事前に「あまり楽しくない」と聞いていたのだが、これほど退屈な会議内容だとは思わなかった。現に創設者会議へ臨むユフィーリアも退屈なのか欠伸を繰り返しており、配られた会議案内の羊皮紙の裏側に落書きをし始めるという事態に発展していた。


 こんな退屈な会議をする必要があるのだろうか。彼らは時間が有限だから全然構わないだろうが、ショウとハルアの遊びたい盛りの未成年組にとっては退屈極まりない会議である。



「エドさんは暇じゃないんですか」


「俺ちゃんは大人だからねぇ、別に退屈でも全然平気だよぉ」


「大人の余裕って奴ですか」



 大人しく会議の内容を聞いているエドワードに、ショウはいっそ尊敬の念すら覚えた。さすが大人である、こんな意味のなさそうな会議にも真剣に出席するとは素晴らしい忍耐力だ。

 アイゼルネはアイゼルネで、創設者会議のお茶汲み係として出動して忙しそうにしていた。ルージュによる毒草ブレンド紅茶を振る舞われずに済んだからか、会議に臨む七魔法王たちも表情に余裕が出ている。優秀なお茶汲み係が会議に参加してくれて嬉しそうであった。


 退屈に耐えかねたハルアは、



「ん」


「ん?」



 真っ黒なツナギの衣嚢ポケットから紙束を取り出したハルアは、それをまとめてショウに渡してくる。


 紙束は多種多様な色に染められており、正方形をしている。俗に言う折り紙である。

 以前、折り紙が購買部に売っていた際に大量購入して、ショウの元の世界の知識を参考して色々なものを折って遊んだものである。ハルアもショウの折り紙作品を気に入ってくれて、大いに喜んでくれたのは記憶に新しい。


 ショウはハルアから折り紙の束を受け取ると、その1枚を手に取って作品を折り始めた。しっかり折り目をつけて、順調に折り紙を折っていく。



「はい、鶴」


「鶴さん」



 数分と置かず、ショウの手のひらには立派な折り鶴が乗っていた。折り紙の中でも代表作品である。



「ハルさんは本物の鶴を見たことあるのか?」


「ないよ。綺麗で寒いところに行かないと見れないって聞いた」


「そうかぁ。俺も見たことないな」



 鶴は寒い場所に生息している印象なので、正確なところはいまいち理解していない。そもそも元の世界では鶴を見ることが出来るような環境にいなかったので、仕方がないと言えば仕方がない。


 折ったばかりの折り鶴で真剣に創設者会議へ臨むエドワードにちょっかいをかけるハルアを置いて、ショウはさらに折り鶴の制作に励む。

 2羽、3羽と順調に折り鶴を量産していき、ショウの膝の上には大量の折り鶴が転がった。これを紐で通せば千羽鶴にでもなるだろうが、あいにく折り鶴をまとめるような紐は用意されていない。


 なので、



「鶴」


「ん?」


「鶴、鶴、鶴鶴鶴鶴鶴」


「うわうわうわ」



 退屈そうな表情で創設者会議に臨んでいたユフィーリアの脇に、大量の折り鶴を置く。大量の折り鶴が突如としてやってきたからか、ユフィーリアは青い瞳を丸くして驚きを露わにしていた。



「どうした、この大量の鳥は」


「鶴鶴鶴鶴鶴鶴鶴鶴鶴鶴鶴鶴」


「待て待て待て待てまだ増やすのかおい」



 1匹ずつ丁寧に折り鶴を机に並べていき、最愛の旦那様を困惑の渦に叩き落とすショウ。この数え切れないほど折られた大量の折り鶴に、問題児筆頭も持て余しているようだった。


 大量の折り鶴で囲まれて困り気味なユフィーリアをよそに、ショウは新たな折り鶴作成に挑む。今度は鋏が必要な工程になってくるので、ハルアから文房具の鋏を借り受けた。

 あとは今まで折ってきた折り鶴と手順は同じである。途中で鋏によって切り込みを入れる箇所があるのだが、そんな複雑な工程ではない。鋏を使用したあとはまた丁寧に折っていき、ようやく作品が完成する。



「はい、足の生えた鶴」


「ぶふッ」



 完成した作品を前に、ユフィーリアは笑いを堪え切れずに噴き出していた。


 机の上に置かれた折り鶴には、何と足が生えていた。しかもガニ股である。両の翼を広げたその姿は通せんぼをしているようで、間抜けを通り越してどこか気持ち悪い。

 いわゆる『きしょ鶴』である。これらを複数個繋げた状態でダンスを踊らせる動画などをよく見たことがある。元の世界の学校で、授業中にこのきしょ鶴を折ってダンスをさせ、周りの生徒を笑いの渦に叩き落としたことがある戦犯がいたのを思い出した。


 試しにショウはきしょ鶴の翼を指で摘み、左右にゆらゆらと揺らしてみる。



「ほらユフィーリア、鶴が踊っているぞ」


「待っ、待って、ふへッ、なん、それッ、ふくく」



 どうやらツボに入ってしまったらしいユフィーリアは、懸命に笑いを堪える。だがどうしても笑い声が漏れてしまい、終いには机に突っ伏して震え出すという体調不良を疑われてしまうような結末を迎えた。



「ショウ君、退屈だからって気持ち悪いものを作らないでよ」


「気持ち悪いと言われたのでさらに激しく踊らせておきますね」


「踊らせるな、止めて、ちょっと面白いんだよ」



 グローリアから注意を受け、ショウはさらにきしょ鶴を左右に激しく揺らして踊らせる。その単純な行動が真剣な創設者会議の場に笑いをもたらし、グローリアとスカイが机に突っ伏して笑いの渦に沈んだ。



「ショウちゃん、他には作れないの?」


「作れるぞ」



 ひとしきりきしょ鶴で遊んだショウは、ハルアにせがまれるまま折り紙別の作品を作り出す。


 今度は折り紙を2枚使った作品だ。多少複雑な手間はかかるが、慣れれば簡単である。

 ショウが折り紙で作品を作る様を、七魔法王の面々が静かに観察していた。世界的に有名な魔女・魔法使いたちの集団に興味を持たれるだけの折り紙の腕前はないが、魔法を使わずに作品を生み出せる折り紙の文化が珍しいのだろう。極東地域でも豊穣神として有名な八雲夕凪でさえ折り紙を見たことがないようで、興味深げな眼差しを送っていた。


 そうして出来上がった作品が、



「手裏剣の完成だ」


「すりけん!?」


「飛び道具だ。これを投げて相手を倒すんだ」



 2枚の折り紙を組み合わせて完成したお手製の手裏剣に、ハルアが「凄えね!!」と琥珀色の双眸を輝かせて言う。


 折り紙で作っただけなので殺傷力はなく、ましてや紙なのでそこまで飛びもしないだろう。ショウも手裏剣で他人の眉間を狙うような真似はしたことがない。

 ただ、ハルアからの期待の視線が凄まじい。「これを投げて相手を倒す」というショウの雑な説明を間に受けているようだった。これは期待に応えなければいけないだろうか。


 手裏剣を構えたショウは、



「えい」



 どうせそこまで飛びやしないと決めつけて、適当な力加減で手裏剣を投げる。



「だッ」


「あ」



 投げたお手製の折り紙手裏剣、見事に学院長の眉間に突き刺さって倒してしまった。


 紙製なので突き刺さることはないのだが、折り紙手裏剣がぶち当たったことでグローリアは机に突っ伏して震える。地味に痛かったようである。ちょっと先端が曲がった手裏剣が、円形の机の上を転がった。

 ショウはどうしていいか反応に困った。だってそこまで飛ぶとは思っていなかったのだ。眉間に折り紙手裏剣が突き刺さって相手を倒してしまうなど、一体どんな幸運があればいいのか。


 手裏剣のダメージから復活したグローリアは、



「この作品は没収。大人しくしてて」


「はい……」


「ショウちゃん、手裏剣で学院長を倒しちゃうなんて凄いね!!」


「たまたまだ、あれは……」



 強めに「大人しくしてて」と言い渡されてしまい、ショウは仕方なしに大人しく創設者会議の内容を聞くことにした。

《登場人物》


【ショウ】折り紙では一般的な作品は折れる。最高の作品は何枚かの折り紙を組み合わせて作った紙風船。

【ハルア】手先は器用だが頭はよろしくないので、折り紙の手順を教えられてもすぐに忘れる。ぐしゃぐしゃに丸めた折り紙を「ボール!!」と言い張った猛者。


【ユフィーリア】折り紙の趣味まで見つけたら多分用務員室が折り紙の作品で溢れ返るかもしれない。

【エドワード】ハルアに折り鶴で攻撃されてもひたすら耐える。あとでぶっ叩こう。

【アイゼルネ】お客様用に出すタオル作品と同じような要領だったら出来るかもしれない。タオルでうさぎを作ったら未成年組から「教えて!!」とせがまれた。


【グローリア】手裏剣が眉間に突き刺さって地味に痛い。

【スカイ】折り紙にハマったらユフィーリア以上の超大作を作り上げるかもしれない。

【ルージュ】大量の折り鶴を生産したショウにちょっとドン引き。あの折り鶴をどうするつもりなのか。

【キクガ】折り紙とは懐かしい。亡き妻がマトリョーシカみたいになった折り紙製の箱をプレゼントしてくれた時は嬉しかった。

【八雲夕凪】ショウから狐の折り方を教えてもらい、興奮のあまり妻の樟葉に見せびらかしに行った。

【リリアンティア】折り鶴は平和の象徴と教えてもらったので千羽鶴に挑戦しようと試みるも、1人ではどうにもならないのでショウとハルアにも手伝ってもらいながらちまちま作っている。細かい作業好き。

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― 新着の感想 ―
[良い点] やましゅーさん、おはようございます!! 新作、今回も楽しく読ませていただきました!! >「鶴鶴鶴鶴鶴鶴鶴鶴鶴鶴鶴鶴」 時折暴走機関車のハルア君を超えるほどの突拍子のない行動に出る、ショ…
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