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第2話【問題用務員と円卓会議場】

 そんな訳で、創設者会議である。



「創設者会議はどこでやるんだ?」


「ヴァラール魔法学院の地下」



 地下に繋がる階段を下りながら、ユフィーリアはショウから投げかけられた何気ない質問に応じる。


 ヴァラール魔法学院の地下は、大規模な儀式場がいくつも作られている。地下には上質な魔力が大量に含まれているので、規模の大きな魔法の運用に適しているのだ。申請すれば誰でも使うことが出来る儀式場だが、会議をするのに向いていない。

 会議室といえば机や椅子があって、ちゃんと腰を落ち着けて話をする場所である。儀式場にあるものといえばせいぜいが明かりの為の燭台ぐらいのものだし、生徒も利用する儀式場で大事な創設者会議などをすれば誰が来るか分かったものではない。


 なので、



「普段は隠されてるんだよ。創設者会議の時だけ出てくるんだ」


「そんな仕掛けがあったのか」



 ショウは驚いたように赤い瞳を丸くし、



「では居場所を知ってしまったら、侵入し放題だな」


「うーん、無理かな」


「魔法の天才であるユフィーリアでもか?」


「アタシでも無理。ていうかやる意味がない」



 雪の結晶が刻まれた煙管を咥えるユフィーリアは、真っ白な煙を吐き出すと共に答えを返す。



「会議室の鍵はグローリアしか持ってねえし、侵入するのに厳重な封印が施されてんだよ。色々な魔法が絡み合って鍵以外じゃねえと解除されないから、無理やり解こうとするのも面倒臭い。つーか、机と椅子以外にほぼ何もない場所だから面白くもねえし」


「そうなのか。仕掛けが解けたら楽しそうだとは思ったが……」



 ちょっとだけしょんぼりした様子のショウには大変申し訳ないが、ユフィーリアも面白みのない場所へ無理やり侵入する労力は使いたくない。


 創設者会議で使われる会議室は学院長のグローリアしか鍵を持たず、解錠も施錠も彼しか行えないのだ。様々な魔法が複雑に噛み合わさって普段は隠匿されており、創設者会議の時だけ出現する訳である。

 もちろん、ユフィーリアも無理やり侵入しようと思えば出来るのだが、会議室にあるものは机と椅子だけで面白みの欠片もない内装である。魔法を解除して無理やり侵入したところで楽しくないし、もしそうやったとしても「何してんの?」と学院長から嘲笑されるだろう。説教すらない。


 ヴァラール魔法学院の地下空間にやってきたユフィーリアは、



「ほら、あそこに見える扉がそう」


「意外とちゃんとした扉だねぇ」


「あんなのあったっけ!!」


「会議があるから出現したのネ♪」


「確かに記憶のない扉がある」



 ヴァラール魔法学院の地下空間に並ぶ大小様々な儀式場のその先――等間隔に設置された燭台の小さな炎がぼんやりと照らす、仰々しい見た目の扉がポツンと鎮座していた。

 儀式場そのものに扉はないので部屋の中を覗き込めば何をしているのか分かってしまうが、廊下の先に出現した仰々しい両開き式の扉は触れてはならないような雰囲気がある。扉の表面には魔導書を広げた女神の姿が彫られており、この先にある部屋が非常に重要なものであると暗に告げていた。


 儀式場が並ぶ地下空間には似つかわしくない扉である。もっと日の目を見た方がいいのではないかと思うぐらいには立派だ。



「おいーす」


「あ、珍しい。時間通りに来た」



 あまりにも適当すぎる挨拶と共に会議室の扉を開けると、真っ先に反応したのは学院長のグローリアである。しかも不名誉なことを言うが、いつもユフィーリアは時間通りに来ない上にサボったりするのでそう言われても仕方がない。


 会議室はそこそこの広さを有しているものの、中央に置かれた円卓が大きいので広さは感じられない。すでに他の参加者も揃っており、静かに椅子へ座っている状態でユフィーリアの到着を待っていた。

 それ以外の物品はない。中央に置かれた真円の机と、等間隔に並べられた椅子。照明器具すら存在しない部屋なのに他人の顔がハッキリと見えるぐらいに明るさが確保されているのは、この部屋があくまで魔法によって作られているからだろう。何かそういった不思議な現象も大体魔法が解決してくれる。


 だらしなく机に寝そべっていた副学院長のスカイ・エルクラシスがのそりと起き上がると、



「あれ、従者も引き連れてどうしたんスか?」


「創設者会議で何を話してるのか気になるんだとよ」


「確かに、どこかに共有とかされる訳じゃないッスもんね。この会議の内容って」



 ユフィーリアの言葉に、スカイは納得したように頷く。



「お邪魔にならないか心配ですの。特にお子様には退屈な内容になるのではないんですの?」



 エドワード、ハルア、アイゼルネ、ショウの創設者会議への参加に難色を示したのは、魔導書図書館司書のルージュ・ロックハートである。第三席【世界法律セカイホウリツ】の名前を冠する魔女だからか、相変わらずクソ真面目なことだ。



「いいじゃねえか。色々と体験するのもいいことだろ」


「会議の内容を外に広められても困るんですの。そこのお子様方は口が軽そうですの」



 ユフィーリアの言葉にルージュはツンとした態度で応じるが、



「え、別にいいじゃない。どうせ話すのは七魔法王セブンズ・マギアスの予定だけだよ」


「碌な議論なんて交わすこともないんスよ、創設者会議って。むしろ広めてもいいッスよ」


「柔軟な思考が出来ないとは難儀なものな訳だが、第三席」


「童らが会議の内容を広めたところで七魔法王の品位が下がる訳でもなし、何か問題があるのかえ?」


「そんな重要な会議でしたら1週間前ぐらいから内容と共に開示されると思いますが……」



 ルージュの真面目な態度をぶった斬るが如く、他の七魔法王から反論があった。さすがに他の人員から指摘されたことで、ルージュも押し黙ってしまう。

 創設者会議で重要な内容を話すことなど滅多にないし、そうなったとしてもエドワードやハルア、アイゼルネ、ショウはユフィーリアと従僕契約をした部下である。第七席【世界終焉セカイシュウエン】の一部分といってもいいぐらいだ。これほどの人数は必要ではないにしても、せめてエドワードかアイゼルネの大人組ぐらいは同席を許されるべきである。


 グローリアはポンと手を叩いて、



「追加で椅子を出しておいたから好きに使ってよ。内容は本当に些細なことだけど、会議の場だから大人しくしててね」


「はいよぉ」


「あいあい!!」


「分かったワ♪」


「分かりました」



 追加で出現した椅子にエドワード、ハルア、アイゼルネ、ショウは大人しく座る。「楽しみだね」「どんな雰囲気だろうか」と忙しない未成年組をエドワードが大人として窘めており、創設者会議に対する期待値が意外と高いことに居た堪れなくなる。本当に碌なことを話す訳ではないのに。



「あ、そうか。アイゼルネちゃんも参加するのか」


「おねーさんは参加しちゃいけないのかしラ♪」



 1人だけ仲間外れの雰囲気を悟って少し不満げに言うアイゼルネに、グローリアは「全然!!」と力強い言葉で否定した。



「むしろ大歓迎だよ!! あ、悪いんだけど人数分のお茶を入れてくれないかな量産型でよかったら茶葉も用意できるし!!」


「よっしゃアイゼルネちゃんがいればこっちのもんッスよひゃっふー!!」


「そうか、ならば次回からお茶請けでも用意した方がいいかね」


「下手なことは言わん方がいいのじゃ、きくが殿。別方面で死人が出るぞ」


「お茶請けは各自持参でいいのではないでしょうか?」


「あら何か急に盛り上がったワ♪」



 アイゼルネが創設者会議に参加することを、他の七魔法王は全力で歓迎していた。グローリアは茶器や茶葉などを進んで用意する始末である。人数分のカップまで用意されてしまったので、用務員室のお茶汲み係が困惑しながらもお茶の準備をし始めた。

 七魔法王の面々は「よかった、本当によかった」「助かったッスわ」などと安堵している。まるで何かの恐怖から解放されたような、そんな印象であった。


 首を傾げたショウは、



「何でアイゼさんの参加を歓迎しているんだ?」


「ルージュが毒草ブレンド紅茶を毎度のように振る舞うからだよ。しかも全員に等しくじゃなくて、くじ引きみたいな感じで当たりがあってだな」


「ロシアンルーレット感覚で死人を出そうとしてないか?」



 ショウの鋭い眼光を受けたルージュは、しれっと明後日の方向を見上げて誤魔化していた。全ての元凶がよくもそんな態度が取れるものである。


 創設者会議が開催されるたびにルージュが新作の毒草紅茶を持ってくるものだから、誰が飲むかの押し付け合いから毎度始まるのだ。大抵はユフィーリアが暴力行使でグローリアか八雲夕凪を犠牲にするのだが、たまに反撃を食らってユフィーリアが保健室送りになることもあるのだ。

 その光景を、当の本人は「あらあら微笑ましいですの」なんて笑いながら眺めているものだから堪ったものではない。こちらは命懸けである。どこかの誰かのように超合金の胃袋と、高性能な耐毒性能は持っていないのだ。



「そんなことだったらもっと早く呼んでほしかったわヨ♪」


「ユフィーリア、何でもっと早くアイゼルネちゃんを呼んでくれなかったの?」


「え、何でだろう」



 グローリアの質問に対して、ユフィーリアは本気で自分の中で回答が見つからなかった。どうしてもっと早くアイゼルネをお茶汲み係として呼ばなかったのだろうか、きっと彼女の負担が増えることを懸念したからだろう。



「あ、アイゼルネちゃんさ。あとユフィーリアの予定管理と七魔法王の式典にも追従してくれない? ユフィーリアってば、式典とかになると勝手にどこかへ行っちゃうから困るんだよね」


「おねーさんは別に問題はないけれど、七魔法王が出席するような式典におねーさんが参加してもいいものかしラ♪」


「第七席も魔女だって顔が割れちゃったからね。魔女は同性の従者がいた方が箔がつくんだよ。これから先、箔をつけておいて損はないと思うしね」



 次々とグローリアがアイゼルネに対する負担を増やしていくので、ユフィーリアは苦い表情で「おい」と唸る。



「アイゼをそこまでこき使わせんなよ」


「こき使わせなきゃいけないようなことをしてるのは誰のせいかな?」



 グローリアは凄みのある笑顔で、



「君がちゃんとした態度で式典に出席してくれれば文句はないけど、創設者会議ですらサボるんだからさ。従者のアイゼルネちゃんを使わないと洒落にならないし」


「チッ」


「舌打ちしない。アイゼルネちゃん、あとで型録を送るから七魔法王の式典用のドレスを仕立てておいてくれる? 近々必要になりそうだからさ」


「分かったワ♪」



 問答無用でアイゼルネが七魔法王の式典に追従することが決定してしまい、サボれる口実を失ったユフィーリアは「ちくしょう」と呻くのだった。

《登場人物》


【ユフィーリア】過去に一度だけ、会議場を龍帝国みたいな回転式円卓テーブルに改造しても創設者会議が始まったので改造しても意味ないんだなと理解した。

【エドワード】真面目な会議って初めてだなぁ。

【ハルア】会議場に何もないんだなぁ。

【アイゼルネ】この度、創設者会議のお茶汲み係に任命。どうして早く呼んでくれなかったのか。

【ショウ】あとでルージュ先生はしばき倒そう。


【グローリア】会議室の鍵を持っている人物。別に会議室を改造されたところで特に思うことはないし怒ることもない。「無駄な努力だね?」だけ。

【スカイ】今日はルージュの紅茶で誰が犠牲になるのか恐怖していたらアイゼルネがやってきたので安心。

【ルージュ】たびたび創設者会議の場で毒草紅茶を振る舞い、誰かを保健室送りにしていた犯人。

【キクガ】愛息子が会議に参戦したので、父親らしく威厳のある姿を見せなければ。

【八雲夕凪】会議の場では8割まとも、残り2割でアホになる。

【リリアンティア】いつも会議の場ではユフィーリアやキクガ、グローリアがジュースを用意してくれるのでルージュの紅茶を回避していた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] やましゅーさん、おはようございます!! 新作、今回もとても楽しく読ませていただきました!! 地下にある円卓の会議場とは、とてもファンタジックで素敵な設定ですね!!その会議場でしょっちゅう…
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