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第2話【異世界少年ときのこ狩り】

 爽やかな秋を感じるいい日和である。



「あ、ここにもどんぐり」


「こっちには栗が落ちてるよ!!」



 落ち葉に混ざり込むどんぐりや毬栗を拾っていたショウとハルアは、互いの戦果を見せ合う。


 ショウが拾ったものは綺麗などんぐりだ。丸々としていて可愛らしい見た目であり、表面も艶やかである。こんな見た目をしていても虫食いの可能性もあるので、あとで水に沈めて簡単に虫食いであるかどうか調べることにしよう。

 一方でハルアが拾ったものは毬栗である。イガの中にすっぽりと収まった大粒の栗は、甘いお菓子にでも使われそうなほど立派である。ただこの栗が本当に食べられるものかどうなのか不明なので、もし拾ったとしても自然に返して魔法動物たちのご飯にしてあげるのが最適だろう。


 ハルアは器用にイガだけを取り外し、中身の栗はポイと落ち葉の上に捨てる。



「このイガにウン○を詰めようか」


「痛さと臭さの爆弾だな」



 ショウは真剣な表情で頷く。


 全く、ルージュも面倒なおつかいをよくもまあ問題児相手に出したものである。自分で足を踏み入れたくない領域だというのは分かるのだが、それなら諦めるという手段を選んでほしいものだ。

 だからこんなやり返しを計画させられる訳である。「最初から頼まなきゃよかった」と後悔させるのが問題児のやり方だ。もちろん誰彼構わずこうしてやり返しを企む訳ではないのだが、少なくともルージュは採取した毒キノコを碌なものに使わないので絶対に協力などしたくない。


 手頃な魔法動物の糞を探すショウは、乱立する木々の根元にあるものを発見する。



「キノコだ」


「キノコ!?」



 ショウが木々の根元で発見したものは、茶色いかさを広げているキノコである。肉厚で食べられそうな見た目をしている。

 よく見ると、様々なキノコ類が群生していた。真っ赤なかさを広げるキノコや青色の斑点模様が特徴的なキノコ、雪のように真っ白で窄まったかさが目を引くキノコなど多岐に渡る。どれも簡単に手を出してはいけないような、いわゆる毒キノコであることが予想できる。


 茶色のかさを広げたキノコを摘んでみたショウは、



「食べられるだろうか」


「全部摘んでユーリのところに持って行ってみようか!!」


「ああ」



 ハルアの妙案を採用することにし、ショウは木の根元に生えるキノコをぷちぷちと摘み取っていく。

 これのどこかにルージュが目当てとしている毒キノコが生えているのか不明だが、あの必殺料理人へ素直に目的のブツを渡す訳にはいかないのだ。簡単に渡せば今度は問題児や他の人物に悪影響を及ぼす可能性だって考えられる。


 鼻歌混じりにハルアもキノコを収穫しながら、



「これ食べられそうかな!!」


「どうだろうか。キノコの知識は俺もあまり詳しくないなぁ」



 ハルアが掲げてきたのは、真っ赤なかさに白色の斑点模様はんてんもようが描かれたキノコである。ショウでもそのキノコは「食べたらダメな奴」という脳内で警鐘が鳴らされる。

 あれを食べたら果たしてどうなるだろうか。血反吐を吐くだけで済めばいいが、トイレとお友達になるか即座に毒が回って死ぬだろうか。どちらにせよ、保健医のお友達であるリリアンティアが号泣しそうなものである。


 ショウは苦笑し、



「ハルさん、色の悪いキノコは食べない方がいいと思う。魔法動物の手付かずで残っていたのが揺るぎない事実だと思うのだが」


「ふがふが」


「言った側から!?」



 ハルアは赤いかさと白色の斑点模様が特徴的なキノコを頬張っていた。毒性を持っているのかどうなのか不明なのに、どうして命を顧みずに得体の知れないキノコを口に入れてしまうのか。


 ショウは慌ててハルアに駆け寄り、彼の口に詰め込まれた真っ赤なキノコを引っこ抜く。キノコには見事に歯形が残っており、よだれもべっとりと付着していた。

 毒性を発揮したらどうしたものだろうか。すぐにユフィーリアへ連絡か、それともリリアンティアの待つ保健室に駆け込むべきだろうか。どちらにせよまずはハルアが得体の知れない毒キノコを食った事実を報告しなくてはいけないので、ショウは通信魔法専用端末『魔フォーン』をメイド服の衣嚢ポケットから取り出す。


 すると、



「林檎の味がする!!」


「は、ハルさん、平気か? 身体に異常は?」


「ないよ!!」



 ハルアは「このキノコ美味え」と見当違いな感想を述べる。

 今のところ、彼自身にキノコが与える異常性は見られない。ピンピンしているので毒キノコではないと判断できるが、それにしても命知らずと言ってもいいぐらいである。


 安堵に胸を撫で下ろしたショウは、



「ハルさん、いきなりキノコ類を口に含むのは危険だ。もしこれが毒だったらどうするんだ?」


「大丈夫、生き返るから!!」


「そういう問題じゃないんだ、ハルさん」



 ショウは「それに」と付け加え、



「不死者が毒に永遠と苦しめられるのは定石だから、下手をすればハルさんは解毒できずにずっと苦しむ羽目になっていたかもしれないぞ」


「え、それは大変だね!?」


「キノコの毒性をあまり舐めない方がいい、死にかねないぞ」


「うう、ごめんショウちゃん……」



 しょんぼりと肩を落とすハルア。ようやく自分のしでかした事の重大さを理解した様子である。



「今回はユフィーリアやエドさんに報告することは止めておこう。ちゃんと反省しような、ハルさん」


「はぁい……」



 エドワードに報告すれば烈火の如く怒るか折檻が待っているし、ユフィーリアに報告すれば笑顔で顔面を鷲掴みにしてくるかもしれない。怒られる可能性が低い大人といえばユフィーリアだろうが、毒性のあるキノコを食べたかもしれないということを知れば怒ることは間違いない。

 今回はショウが言わなければいいだけの話だ。ここに大人たちの目はない。ハルアだって反省しているし、これ以上の追及はよしておこう。


 ショウは食べかけのキノコを腕の形をした炎――炎腕えんわんに燃やしてもらい、



「でも、さっきのキノコは本当に林檎の味がしたのか?」


「したよ!! 美味しかった!!」


「ええ……」



 ハルアの感想にショウは困惑する。


 林檎の味がするキノコとは一体どんなものだろうか。気になるといえば気になるのだが、ショウはハルアと違って普通の人間である。胃腸も普通だし、毒性を分解するような構造も有していない。

 ただ、この世界はショウにとっての異世界である。こんな真っ赤で、見るからに危険を伝えてくるような見た目をしていても美味しいキノコかもしれないのだ。


 近くを見渡すと、ハルアが食べたものと同じキノコが木の根元から頭を突き出していた。真っ赤なかさと白色の斑点模様が特徴のキノコを収穫すると、



「…………いいや、俺はちょっと勇気が出ないから止めておこう。毒性があって倒れたりしたら危ない」



 かさに齧りつこうと思ったのだが、寸前で止めておいた。

 林檎味のするキノコは気になるが毒性も心配なので、まずは詳しそうな人物であるユフィーリアに相談するのが吉だ。その際には、ハルアが無断で謎のキノコを食べた感想を言わないようにしなければならない。


 ショウは摘んだキノコ類の山に真っ赤なキノコも積み重ねておき、



「これぐらいにしておこうか」


「そうだねじゅるり!!」


「ハルさん、食べない」



 大量のキノコを前に涎を垂らすハルアに注意をしたショウは、とりあえずハルアのつなぎの衣嚢ポケットにキノコ類をしまおうとする。

 強力な兵器である神造兵器レジェンダリィと一緒に得体の知れないキノコをしまうのはどうかと考えるだろうが、重量を無視して大量のキノコを収納できるのはハルアの着ているつなぎの衣嚢以外は考えられない。こんもりと山を築いていたキノコ類は、ハルアのつなぎの衣嚢に次々と収納されていく。


 その時、





 ――どすんッ。





 音がした。


 キノコ類をハルアのつなぎの衣嚢に突っ込む手を止めたショウは、ふと背後を振り返った。そして振り返らなきゃよかったと後悔した。ハルアも同様に瞳を見開いている。

 視線の先にいたのは、身体の前半分が鷲となり、後ろ半分が馬という異様な見た目の魔法動物だった。前部分の鋭い鉤爪で地面を掴み、大きな翼を広げた姿は神々しささえある。キョトリとショウとハルアを見据える猛禽類もうきんるいの双眸はどこか恐ろしささえ感じる。


 そして何より、異常な部分は鷲の頭から生えた色とりどりのキノコだろうか。赤や青、緑、紫色などのキノコが生えており、わさわさと揺れている。



「ひ、ヒッポグリフ……?」


「にしては頭にキノコって生えてたっけ!?」


「は、生えていなかったはずだが……!?」



 驚愕するショウとハルアに、鷲の頭と馬の下半身を持つ魔法動物――ヒッポグリフが「ケーン!!」という甲高い鳴き声を響かせる。まるで威嚇するように首を振り、翼をはためかせ、それから鉤爪と蹄で地面を蹴飛ばしてショウとハルアめがけて突っ込んできた。



「わ、わあ!?」


「ショウちゃん危ない!!」



 悲鳴を上げるショウを背中で庇い、ハルアがヒッポグリフの前に躍り出る。何をするのかと思えば、つなぎの衣嚢に手を突っ込んで小瓶を取り出した。

 小瓶の中で揺れていた紫色の液体を、ハルアはヒッポグリフの顔面めがけて振りかける。紫色の液体をかけられたヒッポグリフはふらふらとその身体を揺らすと、ドタンという音を立ててその場に倒れ込む。よく見るとすやすやと眠っていた。


 ハルアは額に滲んだ汗を拭うと、



「危なかった!!」


「は、ハルさん、一体それは?」


「眠り薬だよ!! どんな魔法動物でも人間でも、これをかければ1時間は起きないよ!!」



 親指を立てて小瓶の中身の効能を説明したハルアは、



「それにしても、頭にキノコが生えてるよ!!」


「これもキノコでいいのだろうか」



 ショウは眠るヒッポグリフの頭から生えたキノコに手を伸ばす。茎を掴み、キュッと力を込めるといとも容易くヒッポグリフの頭からキノコが抜けてしまった。キノコが抜けてもヒッポグリフが起きる気配はなく、頭頂部に円形の脱毛部分が出来てしまった。

 ヒッポグリフの頭から生えていたキノコなど危険極まりないものだが、まあ魔法薬にする程度ならば問題ないだろう。世の中には冬虫夏草とかもあるぐらいだし、それと同じような類ではないだろうか。


 ぷちぷちとヒッポグリフの頭から生えたキノコを収穫するショウは、



「全部持っていって、ユフィーリアに鑑定してもらおうか」


「そうだね!!」



 ハルアも協力してヒッポグリフの頭に生えたキノコを収穫し終え、ショウはユフィーリアたちの元へと戻るのだった。

《登場人物》


【ショウ】頭脳明晰なメイド少年ではあるのだが、キノコ類にはあまり詳しくない。キノコはバター焼きが好き。

【ハルア】毒キノコを食っても割と平気だが、かなり前に食べたキノコはトイレと友達になりかけた。何のキノコを食べたのか覚えていない。キノコはスープにしてもらうのが好き。

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