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第8話【問題用務員とウエディングアート体験】

 芋掘り体験は定員となったことで受付終了となった。



「何で芋掘り体験に来たのにお菓子作りしてんだアタシは」


「ユーリ、美味しいよ!!」


「美味しいぞ、ユフィーリア。ありがとう」


「いくらでも作れるわ」



 突如として降って湧いたお菓子作りの仕事に疲弊していたユフィーリアだが、未成年組の笑顔で全てが帳消しになった。もういくらでも頑張れちゃう予感がある。


 金剛石ダイヤモンドの如き煌めきを有する芋『ダイヤモンドスイート』を専門的に取り扱ったお菓子屋は飛ぶように売れ、早々に店じまいとなった。タルトにパイなどを経て、最終的には小さめのパフェを提供する羽目になったのだ。今やリリアンティアの管理する畑付近は芋で作られたパフェに舌鼓を打つ魔法祭の来場者の姿がいくつも確認できた。

 我儘なお子様たちのお願いを叶えていった結果がこの面倒ごとである。問題児の有能さはあくまで自分自身の為にあるのであって、他人に幸せを届けてやる義理はないのだ。他人に不幸ならいくらでもお届けしてもいいのだが。


 ずっとダイヤモンドスイートの溶岩焼き作業に徹していたエドワードは、



「でもユーリぃ、これ普通に溶岩焼きの状態でも美味しいよぉ」


「むがごぼッ」



 間伸びした言葉と共に、エドワードは耐熱魔法紙に包んだダイヤモンドスイートの焼き芋をユフィーリアの口の中に突っ込んでくる。危うく窒息しかけた。

 ただ、大量の蜜を含んだ黄金色の焼き芋は非常に甘く、ねっとりとした食感が最高である。ダイヤモンドスイートを溶岩焼き芋にするとはなかなか贅沢なことだ。この希少性の高い芋の価値は、1本1万ルイゼ以上はするのだ。基本的に高級レストランのデザートで振る舞われるような高級お野菜で、溶岩焼き芋なんて見ない。


 口の中に突っ込まれたダイヤモンドスイートの溶岩焼き芋を咀嚼し、ユフィーリアはちゃんと飲み込んでから言う。



「あっついなクソが、いきなり口に突っ込んでくるんじゃねえ」


「熱々の方が美味しいよぉ」


「お前、アタシが冷感体質カルマ・フリーゼという特殊な身体であることをご存知でない感じか? 熱々の状態で渡されると舌を火傷するんだよ」



 ユフィーリアはジト目でエドワードを睨みつける。でもせっかく確保してくれていた希少性の高いダイヤモンドスイートの溶岩焼き芋は、ありがたくいただくことにした。

 冷感体質という冷気が身体に溜まる体質はこの上なく面倒臭い。熱い料理も多少は冷まさないといけないのだ。そうしなければ簡単に口の中が大火傷になって地獄を見る羽目になってしまう。


 とりあえず氷の魔法で溶岩焼き芋を冷ましながら食べていると、



「母様、さすがでございます!!」


「おお、リリア。ちゃんと食ってるか?」


「もちろんです、美味しくいただいております!!」



 満面の笑みでリリアンティアがやってきた。その手にはダイヤモンドスイートを使って作られた小さなパフェの器が握られており、半分ほど消費されていた。甘いものが好きな聖女様の舌にも合った様子である。

 見れば、他の修道女も小さめのパフェをちまちまと口に運んでいた。彼女たちの頬も緩んでおり、どこか幸せそうな気配が漂っている。今まで忙しそうに働いていたのだから、少しぐらい休憩にしたっていいだろう。


 幸せそうな表情でダイヤモンドスイートから作られた黄金色のアイスクリームを口に含んだリリアンティアは、



「このアイスクリームは美味しいです……これが身共の育てたダイヤモンドスイートだと思えません……!!」


「砂糖不使用だぜ、それ」


「お、お砂糖を使っていらっしゃらないのですか!?」



 リリアンティアは驚愕のあまり新緑の瞳を見開く。


 ダイヤモンドスイートは糖度が高い芋で、リリアンティアが育てたものは品質も高く甘さもあった。蜜もたっぷりと含まれていたので、砂糖を使わないでも十分に甘いパフェに仕上げることが出来たのだ。

 褒められるべきなのは、ここまで甘く立派な芋を育てたリリアンティアである。彼女の並々ならぬ努力があったからこそ、ユフィーリアも甘く美味しいお菓子が作れた。



「そうだ、母様。エテルニタ教会には行かれましたか?」


「行ってねえけど、何で?」


「実は現在、ウエディングアート体験なるものがエテルニタ教会で行われているのです。身共も場所を提供する際に覗かせていただきましたが、とっても豪華でキラキラしてました」


「へえ、ウエディングアートか」



 小さな口でダイヤモンドスイートの溶岩焼き芋を消費するユフィーリアは、リリアンティアの言うウエディングアート体験とやらに興味をま持つ。


 ウエディングアートとは、婚礼衣装を身につけて写真を撮る結婚式前の文化のようなものだ。親族や友人と一緒に撮影したり、面白い小道具を持ち込んだり、場所にこだわったりなどと撮影方法や撮影場所は様々なものがある。結婚を控えた新郎新婦が執り行うものなので、結婚を考えていない独身者やまだ結婚できる年齢に達していない生徒なんかはいい体験になるのではないか。

 そのウエディングアートの撮影場所としてエテルニタ教会を貸し出すとは何とも贅沢ではないか。何せ、エテルニタ教会で挙式が出来るのは王族ぐらいのものである。一般人はおいそれと立ち入ることさえ出来ない場所で、ウエディングアートの撮影をするとはカップルが殺到すること間違いなしだ。


 その情報に反応を示したショウは、赤い瞳をキラッキラと輝かせてユフィーリアに詰め寄る。



「ユフィーリア、ウエディングアート体験やってみたい」


「アタシもウエディングアートには興味あるな。『しあわせの花嫁』の儀式で何度か写ったことはあるけど、自分中心になって撮影ってのはないし」



 いつかショウとも撮影することになるだろうが、まずはその雰囲気を味わうのも面白そうである。『体験』とついているのであれば記念的なアレである、存分にふざけることも出来るだろう。本番のウエディングアートでは出来ないようなことまで挑戦できそうだ。



「よし、じゃあ次はウエディングアート体験ってのに行ってみるか」


「どこまでなら許してくれるぅ?」


「上半身裸までなら許す」


「スパイダーウォークしていい!?」


「出来るものならやってみろ」


「おねーさん、お化粧しなくチャ♪」


「バッチリ決めてこい」


「お姫様抱っこしてほしい」


「いくらでもしちゃう!!」



 これから撮影するだろうウエディングアートについて、問題児どもはキャッキャとはしゃぎながら内容を計画していくのだった。



 ☆



 そんな訳で、ウエディングアート体験である。



「ようこそおいでくださいました!!」



 ウエディングアート体験の会場であるエテルニタ教会を訪れると、幸いなことに誰も体験者はいない状態だった。もうあらかた撮影は終えてしまったのだろう、係員もどこか退屈そうにしていた。

 ユフィーリアたち問題児が姿を見せた途端、満面の笑みでお出迎えする辺り相当な暇を持て余していた様子である。「どうぞこちらへ!!」と案内してくれる女性の係員はイキイキとしていた。


 係員の女性に案内されるがままのユフィーリアは、



「もしかして暇してたか?」


「はい!!」



 正直な係員で非常に好感が持てる。



「何故か皆さん、恥ずかしがっちゃっていらしてくれないんですよ」


「体験なのに」


「はい、そうなんです。きっとあまり馴染みがないんでしょうねぇ」



 問題児を担当してくれることになった女性の係員は「そんなことより!!」と切り替える。



「お写真は1枚500ルイゼをちょうだいしております。体験ですので衣装、小道具などの貸し出し代金は無料ですがどのような衣装がご希望でしょうか?」


「うおッ、凄えある」



 女性の係員が転送魔法を発動させ、ユフィーリアたち問題児の前に大量の衣装を出現させる。

 大半はタキシードやドレスと言ったものだが、白無垢や袴などの極東の伝統的な婚礼衣装も取り揃えられていた。中には花柄のタキシードだったり、変な装飾が突き出たドレスだったりと「一体誰が着るんだ?」と問い質したくなる見た目の衣装もある。果たして誰かこのドレスやタキシードを選んだ体験者はいたのか。


 衣紋掛け(ハンガー)に引っかかっているドレスやタキシードを眺める問題児どもは、



「どういうものがいいのか全く分かんねえな」


「ユーリはいつもの第七席の格好でいいんじゃないのぉ? 慣れてるんでしょぉ?」


「何か面白いのないかな!!」


「素敵なドレスもあるのにお馬鹿な衣装が目立っちゃってるワ♪」


「ウエディングアートってこんなに愉快な衣装まで取り揃えてるのか……?」



 気になったドレスやタキシードなどの衣装を手に取って、ウエディングアートの撮影に着るものを選ぶ問題児。手に取る衣装はどれもこれも奇抜なものばかりで、体験であるのをいいことに衣装選びも『面白さ』が優先されていた。

 どうせ、あくまで体験である。本番はもっと真剣に選ぶし、これらの衣装を取り揃えたのもわざとだと予想できるので遊び半分で選んでいた。自由すぎるウエディングアート体験だ。


 すると、明らかに遊んでいる雰囲気を醸し出していた問題児どもに、係員の女性が「こちらもございますよ」と何かを運んでくる。



「小道具もたくさん取り揃えております!!」


「羽根だ!!」



 ハルアがいの一番に反応する。


 係員の女性が転送魔法で運んできたのは、天使の羽根やら猫耳や犬耳や面白い仮面などといった小道具である。係員の女性さえも全力で遊びに乗っかっていた。

 もうここまで面白いものを提示されてしまうと楽しくなってしまうのが問題児である。衣装から小道具選びまで面白さに全振りできるとは、係員の女性によるノリの良さに感謝しかない。


 天使の羽根の模造品を手に取ったハルアは、試しに背嚢のように背負ってみる。頭の螺子の所在を問いたくなる天使が降臨した。



「どう!?」


「お姉さん、この天使の羽根もつけられる?」


「はい、もちろんです!!」



 笑いを堪えた係員の女性が元気よく応じる。


 それなら、思う存分に遊ばせてもらおう。500ルイゼで面白写真も買えるならお得である。

 これほど問題児に「遊んでください」と言っているような体験はない。リリアンティアにはいいものを教えてもらった。


 ユフィーリアはニンマリと笑い、



「じゃあ全員タキシードの衣装で」



 ――面白いことを思い付いてしまったのだから、ここは遊ばせてもらおうではないか。

《登場人物》


【ユフィーリア】第七席【世界終焉】の時ならばウエディングアートに映り込んだことはある。幽霊扱いされた時はさすがに泣いた。心霊写真じゃないやい。

【エドワード】ウエディングアートはあまり経験がない。そもそも結婚式に呼ばれるような間柄になる友人がいない。

【ハルア】ウエディングアートは初体験。衣装が着れることにワクワク。

【アイゼルネ】娼婦仲間が幸せそうに結婚していたので、ちょっと羨ましいと思っていた。今はとても幸せなので結婚しなくてもいいや。

【ショウ】いつかユフィーリアと一緒にウエディングアートが撮影できるだろうか、その時の予習が出来て嬉しい。


【リリアンティア】美味しいお芋のパフェに感激。エテルニタ教会の所有者で、今回のウエディングアート体験の出し物に協力した。

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― 新着の感想 ―
[良い点] やましゅーさん、お疲れ様です!! 新作、今回も楽しく読ませていただきました!! ウェディングアート体験、とても面白そうですね!!結婚式の前に、面白い小道具を持ち込んだり、場所にこだわった…
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