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第17話【問題用務員と影の英雄】

 ぽこぽこぽこぽこ、と何やら可愛い擬音が聞こえてきそうな場面に遭遇した。



「わあ、お花畑お花畑」



 燦々と陽光が降り注ぐ中庭で、日傘を装備したショウが整えられた芝生の上に座る。


 彼の周辺を取り囲むように、色とりどりの花が咲き乱れていた。薔薇に桔梗、たんぽぽ、向日葵、シロツメクサなど花の種類は数え切れない。

 雑多な花たちは元々中庭に咲いていた訳ではなく、ハルアが持つ花束でぽこぽこと地面を叩いたらその部分から綺麗な花が咲くようになったのだ。花束というより、先端に花束を括り付けた長杖ロッドのような見た目である。長杖ではなく叩いて扱うなら戦鎚の方が正しい表現だろうか。


 ショウは自分の周りに咲き乱れる花を摘むと、器用に編み始めて花冠を作る。そして花を大量生産するハルアの頭に乗せて楽しそうに笑っていた。平和な場面である。



「何あのメルヘンな空間、入りづらい」


「俺ちゃんもぉ」



 一緒に中庭の光景を見守っていたユフィーリアとエドワードは、あまりにもメルヘンチックな空気に遠い目をしていた。


 未成年組が行き先を告げずに外出し、勝手に空賊たちを脱獄させたあの日にハルアが持って帰ってきた花束の戦鎚が原因である。その効果を見てみたいと言い出したショウにハルアが何の考えもなく了承し、見張り役としてエドワードが襟首を引っ掴まれて中庭まで連行されてきたのだ。

 当面の間、2人だけでの外出を禁止しているので仕方のないことではある。また行き先を告げずに行方不明となられても困るのだ。エドワードには申し訳ないが、未成年組の手綱を握ってもらうことにしよう。


 ユフィーリアは雪の結晶が刻まれた煙管を咥え、



「ていうか、ハルが持ってるあの戦鎚さ」


「うん」


「グランディオーソじゃね?」


「知ってるのぉ?」



 エドワードが興味ありげな視線を寄越してきたので、ユフィーリアは頭の中にある知識を出来る限り引っ張り出してくる。



「森と豊穣の女神であるヘンディアって奴がうっかりなくした神造兵器レジェンダリィだよ」


「神造兵器ってぇ、ショウちゃんの冥砲めいほうルナ・フェルノみたいに威力は高いけど使う相手を選ぶって噂の武器じゃんねぇ」


「そうそう。それを女神様がうっかりなくしちまったもんだから現物はねえし、情報もねえから辞典にも載せられないしで大変らしいぞ」



 大半の神造兵器については情報が公開されており、辞典としてまとめて出版されている。ハルアが大好きな神造兵器の図鑑に掲載されているのが現在確認されている全ての神造兵器なのだが、グランディオーソと呼ばれる戦鎚は確認されていない。

 所有者である森と豊穣の女神様がうっかりなくしたのだ。その為長いこと行方不明として知られており、情報も数少ないので図鑑への掲載を断念せざるを得なかった訳である。こうして見つかった以上、研究目的で狙う連中が増えるかもしれない。


 エドワードは「もしかしてさぁ」と言い、



「ショウちゃんとハルちゃんが持ってた『森の乙女の涙』じゃないのぉ?」


「あり得るかもな。持ち出されたんじゃなくて、森の女神がなくしたって考えりゃな」



 それでうっかりなくした大切な宝石を獲得してしまった未成年組を使って届けてもらうとは、何とも言えない女神様である。うっかりにも程があると思う。



「グランディオーソには植物を急速成長させたり、活性化させて森を再生したりする能力があったはずだからな。花畑を作るあれも能力なんだろ」


「ハルちゃん、そんな神造兵器レジェンダリィをぽこぽこ玩具みたいに使ってるけどぉ。あれ壊れたりしないよねぇ?」


「神造兵器の頑丈さは折り紙付きだぞ、いくらハルでも壊さねえだろ」



 またぽこぽこと地面を叩いてお花を大量生産していくハルアと、そんな先輩が生産した花を使って花冠を作っていくショウの2人を眺めながらユフィーリアとエドワードは「ないよなぁ」と互いに言う。

 神造兵器レジェンダリィがぶっ壊れたらコトである。いくら暴走機関車野郎と呼ばれていても、ハルアが使って壊れるような代物なら世の中終わりだ。


 すると、



「あ、いたいた」


「お、グローリア」


「学院長だぁ、どうしたのぉ?」



 何やら羊皮紙を抱えた学院長のグローリア・イーストエンドが中庭までやってくる。まだ問題行動を起こしていないはずなので説教をされることはないだろうが、面倒な仕事を押し付けられそうな予感がして堪らない。

 ところが、彼の視線は中庭で遊ぶショウとハルアに向けられていた。この前の空賊を脱獄させた件は反省文を3枚提出することでお咎めなしにされていたが、まだ何か余罪があったか。


 グローリアは「ハルア君、ショウ君。ちょっと来て」と呼び、



「君たちさ、ヘンネ天空遺跡をぶっ壊したの?」


「あ」


「あ!!」



 呼び寄せられたショウとハルアにとんでもねー事実が発覚した。



「おいショウ坊、ハル。どういうことだ? ヘンネ天空遺跡って保護文化財指定されてた遺跡だよな?」


「俺ちゃんも知ってるよぉ。どうして空に浮かんでいるのか分からない謎の多い遺跡だってぇ」


「あ、あ」


「あー、あー!!」



 ユフィーリアとエドワードの冷たい視線が突き刺さり、ショウとハルアは自分の耳を塞いで現実逃避をする。


 ヘンネ天空遺跡といえば謎の多い遺跡で、普段は立ち入り禁止となっている領域である。ヘンネ天空遺跡に立ち入るにはそれなりの資格を取得する必要があり、資格なしで遺跡に足を踏み入れるのは遺跡に眠る財宝を目的とする空賊ぐらいのものだ。

 その壮大な見た目と空に浮かぶ特別さから判断して各国で保護活動をしようという『保護文化財指定』に属していたはずだが、それが壊されたとなればとんでもないことになる。ショウとハルアは大戦犯だ。


 ショウとハルアは泣きそうになりながら、



「ナルシストが作った魔法陣にリコリスのウ○コを嵌めたら爆発したんだよ!!」


「わざとじゃなかったんだ、だってそうしなきゃシエルさんが撃たれていたかもしれなくて……」



 それからショウとハルアは口を揃えて「ごめんなさい……」と謝る。この一言で済むなら問題児は問題児をしていないと思う。



「いや、まあ、壊してくれたのはいいんだけどね」


「いいのか!?」


「だって保護文化財指定されてるのにぃ!?」


「うん、だってショウ君とハルア君が壊してくれなきゃ第七席としてユフィーリアにお願いするところだったからね」



 何と言うことだろう、謝って済んでしまった。

 しかもショウとハルアが壊さなければ、第七席【世界終焉セカイシュウエン】としてユフィーリアがヘンネ天空遺跡の破壊を命じられていたのか。ある意味で第七席の従僕としていい仕事をしてくれたのかもしれない。


 グローリアは「実はね」と言い、



「ヘンネ天空遺跡を根城にして、エッダ王国が危ない魔法を開発していたんだよ。その開発していた魔法で周辺の国が脅されていたみたい」


「それはまずくねえか?」


「だから開発していた危険な魔法が爆発四散したから脅威もなくなり、エッダ王国は脅されてきた周辺各国に訴えられてるみたいだね。国として社会的に終わるのも時間の問題かな」



 羊皮紙をショウとハルアに手渡すグローリアは、



「そんな訳で、ショウ君とハルア君には感謝状が送られます。よく頑張りました」


「わあ」


「わあ!!」



 貰った羊皮紙を早速とばかりに広げるショウとハルア。

 そこには感謝状としてありきたりな文章が並んでおり、羊皮紙の下には連名で感謝状を送った国が書き込まれている。その総数、13である。13カ国の英雄になってしまった。


 グローリアはポンと手を叩き、



「あとついでに10万ルイゼの金一封が送られます。大切に使うように」


「わあい!!」


「わあい」



 綺麗にリボンが巻かれた封筒を渡されて、ショウとハルアの口から喜びの声が上がる。中身は綺麗な状態のルイゼ紙幣が10枚も入っている。未成年組にとっては給料以外の大金である。



「ショウちゃん、アイス買いに行こ!!」


「ああ、ハルさん。これならちょっとお高めのアイスも買えるな」



 ショウとハルアはエドワードの両腕を引っ掴むと、



「行こうエド、購買部!!」


「アイス奢ってあげますね」


「ちょ待っていきなり引っ張らないで早い早い!!」



 可哀想なことに、エドワードは未成年組に腕を引っ張られて連行されていった。金一封をもらってからの行動が早すぎた。


 ユフィーリアとグローリアは、購買部に向かう男子3人組の背中を静かに見送る。その背中はあっという間に見えなくなってしまった。遠くの方からあまりにも早すぎる未成年組に引き摺られていったエドワードの悲鳴が聞こえてきた。

 雪の結晶が刻まれた煙管を咥えるユフィーリアは、しれっと隣に並ぶグローリアを見やる。彼は笑顔で手を振って見送っていたが、何かを隠している雰囲気があったのだ。



「金一封って、あれだけじゃねえだろ」


「よく分かったね、ご名答」



 グローリアは頷き、



「給与とはまた別の銀行に預けておいたよ。ショウ君の分は監督責任のあるキクガさんに任せたけど、ハルア君の監督責任者は君になってるからちゃんと見てあげてね」


「ちなみにいくらぐらい?」


「13カ国からとんでもない金額を送られちゃったから、家でも建つんじゃないのかな」



 グローリアはそれだけ言って「じゃあ、僕は仕事があるから」と転移魔法で学院長室まで帰った。


 その場に取り残されたユフィーリアは、ゆっくりと煙管を燻らせる。

 実を言うと、ユフィーリアたち問題児の懐事情も潤っていた。潤いすぎてべちゃべちゃである。ハルアとショウが「学院長のへそくり」と主張して金銀財宝の山を持ってきたのだが、あれはもしかしたらヘンネ天空遺跡の財宝だったかもしれない。


 今はアイゼルネに換金してもらっているところだが、果たしていくらになるのやら。今から恐ろしいことが起きそうで怖い。



「アイツら、とんでもねえ冒険をしてきやがったな」



 それが問題児筆頭として羨ましかったのは言うまでもない。

《登場人物》


【ユフィーリア】未成年組が勝手に深夜外出を決めたと思ったら行方不明になっていた神造兵器と一緒に財宝の山まで持って帰ってきて驚いた。

【エドワード】ハルアの使っている花束の戦鎚って神造兵器だということに驚き。未成年組の監視役に任命されたものの、大体振り回される。

【ハルア】ショウにグランディオーソの性能を見たいと言われたので披露してみた。感覚で神造兵器を操っている。

【ショウ】ハルアにグランディオーソの性能を見たいと言ったらお花畑が作られた。綺麗な神造兵器だなあと思う程度で、これが行方不明になっていたことは知らない。


【グローリア】ハルアとショウ宛に感謝状が届くなんて天変地異の前触れかと錯覚。

【アイゼルネ】ハルアとショウが持って帰ってきた財宝を換金にしに行ったところ、とんでもねー金額になって上司に混乱した様子で報告することになる。

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[良い点] やましゅーさん、おはようございます!! 新作、今回も楽しく読ませていただきました!! >「ヘンネ天空遺跡を根城にして、エッダ王国が危ない魔法を開発していたんだよ。その開発していた魔法で周…
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