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第14話【異世界少年とエルフ魔法使い】

 用事が済んで帰る途中のことだ。



「離せ、離しなッ!!」


「空賊どもの言うことなど聞くと思うかね。この薄汚いはえが!!」



 何やら争うようなやり取りが聞こえて、ショウとハルアは思わず足を止めてしまう。


 聞き覚えのある声だと思えば、アドリア空賊団の団長であるシエルの声だ。財宝を探している最中に何かあったのだろうか。

 相手の方は聞き覚えがあるとは思うのだが、誰の声なのか思い出すことが出来ない。それほど印象に残らない相手だったのだろう。


 互いに顔を見合わせたショウとハルアは、



「行ってみよっか、ショウちゃん!!」


「そうだな、ハルさん」



 シエルたちアドリア空賊団には、ヘンネ天空遺跡まで連れてきてもらった恩義がある。どうせなら彼女たちにはその恩義を返してあげたいものだ。


 そんな訳で激しいやり取りが聞こえる方向を目指すのだが、ショウとハルアの前に現れたのは煌びやかな軍服を身につけた軍人の集団である。剣と銃火器を一体化させたような不思議な魔法兵器エクスマキナを携えて、何かを探すようにヘンネ天空遺跡内を駆け回っているようだった。

 煌びやかな軍服を身につけた集団と、剣と銃火器を一体化させたような魔法兵器を携えた姿を目撃したショウの脳裏に昼間の光景が蘇る。そうだ、ヴァラール魔法学院を訪ねてきた怪しいお客さんで、ハルアに武器を向けたエッダ王国の遺跡調査隊とかいう連中である。


 遺跡調査隊の面々はバッタリと出くわしたショウとハルアに驚くと、



「お前たち、ヴァラール魔法学院の!?」


「とおう!!」



 ハルアが花束を先端に括り付けたような戦鎚――グランディオーソを横に薙ぐ。


 先端に括り付けられた花束を顔面に受けた軍人たちは、まとめて吹き飛ばされてヘンネ天空遺跡の廊下に転がった。彼らの顔面に花弁が付着しているのは、花束の部分で殴られたから花が散ってしまったのだろう。

 何が起きたのか分からず目を白黒させる軍人の腹部に、ハルアは遠慮なしに飛び乗る。潰れた蛙のような悲鳴を漏らすと同時に1人の軍人が惜しくも気絶を果たした。普通に全体重とグランディオーソなるメルヘンハンマー分の体重がのしかかったのだが、気絶だけで済んだのは凄いことだ。


 ハルアの所業に他の仲間たちが剣と銃火器が一体化したような武器を構えるのだが、



炎腕えんわん、ロメロスペシャル」


「あーッ!!」


「ぎゃーッ!!」



 地面から大量に生えた炎腕が軍人たちの両手両足を掴むと、背骨を折る勢いで吊り始めた。父親直伝ロメロスペシャル(容赦なし)である。

 軍人たちは背骨に襲いかかる激痛に悲鳴を上げるが、ショウはお構いなしである。頼れる先輩に武器を向ける相手が悪いのだ。


 ショウは朗らかな笑顔を見せると、



「炎腕、そのままその人たちの背骨を叩き折ってくれ」


「待って死ぬ!!」


「許してください!!」


「問題児相手に命乞いをするとは愉快な人たちですね」



 ギチギチギリギリと炎腕にロメロスペシャルをかけられて苦悶の表情を見せる軍人たちに、ショウは笑顔を保ったまま地獄に突き落とす。



「面白いからプロレス技耐久1時間フルコースの刑にしよう。炎腕、全身の骨がバキバキに折れるまでやってくれ」


「待ってお願い命だけは助けてください!!」


「死んじゃう死んじゃう死んじゃう死んじゃう!!」



 断末魔を上げる軍人たちの処遇を炎腕に任せ、ショウはハルアに振り返る。



「行こうか、ハルさん」


「ショウちゃん、逞しくなったね」


「本当か? エドさんみたいに筋肉ムキムキになってきた?」


「精神面だけで言えばムキムキマッチョマンだね!!」



 天然ボケと天然ボケを正面衝突させたような会話を交わしながら、ショウとハルアはシエルたちの声が聞こえてきた方角を目指すのだった。



 ☆



「この部屋だね!!」


「大きな扉だな」



 シエルたちの声が聞こえてきたのは、見上げるほど巨大な扉の向こうからだった。


 白骨死体を発見した部屋よりも大きな扉である。扉の両脇には重厚な鎧を身につけた置物が見張りよろしく設置されており、物々しい雰囲気を漂わせている。今にも動き出しそうな鎧の置物だ。

 試しに扉の表面を軽く押してみるが、扉に施錠でもされているのか押しても開かない。扉の表面に耳をそばだてると会話が聞こえてくるので、何かやり取りを交わしているのは間違いなさそうである。


 ショウは拳を掲げると、扉を叩く。



 ――ドンドンドンッ。



 大きめの扉なので少し強めに叩いてみたのだが、やはり反応はない。



「聞こえていないのだろうか」


「ぶち破ろうか!?」



 ハルアが扉から距離を取りながら言う。


 確かにノックをするよりも、ハルアが扉をぶち破った方が早そうな気がする。安心と信頼の暴走機関車野郎なら扉をぶち破ることだって容易い。

 ショウがそっと扉から離れると同時に、ハルアは扉めがけて走り出す。地面を蹴飛ばしてふわりと空中を舞い、思い切り扉へ飛び蹴りを叩き込んだ。


 扉そのものは壊れなかったが、蝶番から外れた扉が部屋側に倒れる。パタンと倒れた扉の先に広がっていたのは、



「な、何だ貴様ら!?」


「お前たち……ッ!!」



 縄で縛られたシエルたちアドリア空賊団の面々と、小太りなエッダ王国の軍人とあのエルフの魔法使いが睨み合っていた。


 広い部屋は実験場になっているのか、床や壁には読むことが出来ない魔法式が刻まれており不気味な雰囲気が醸し出されている。その他にも大きな机が並べられて、山のように積まれた魔導書や実験道具などが設置されて緑や青色の液体をグツグツと煮詰めている最中である。

 散らばった羊皮紙には天球儀のような絵が全面に描かれており、天球儀を補足するように説明文が書き込まれている。何の説明をしているのかよく分からないが、とんでもないものであるのは予想できた。


 シエルは切羽詰まったような表情でショウとハルアに振り返ると、



「何しているんだい、早く逃げな!!」


「え?」


「何でですか?」



 逃げるように促してくるシエルに首を傾げるショウとハルアだが、



「〈動きを止めよ〉」


「わあ!?」


「わッ」



 エルフの魔法使いが右手を掲げると、ショウとハルアの身体が動かなくなる。

 指先1つ動かすことが出来ない。ハルアも同じような状態で、動かなくなってしまった自分の身体に「動かないんだけど!!」と叫んでいた。口は動かすことが出来るのが幸いである。


 優雅に金色の髪を払ったエルフの魔法使いは、



「わざわざ君たちから来てくれるとは、これは何と喜ばしいことだろう」


「オマエ誰だよ!!」


「口を慎みたまえ。君は今、七魔法王セブンズ・マギアスを超える天才魔法使いの前にいるのだから」



 随分と自信のある物言いである。

 七魔法王セブンズ・マギアスを馬鹿にしてんのか。自分の最高の旦那様と自分の父親をまとめて馬鹿にされたような気分になって、ショウはムッと唇を尖らせる。


 ハルアはエルフ魔法使いによる煽りなど通用しないようで、



「オマエの名前なんか知らねえから、天才魔法使いなんて言われても分かんねえよ!!」


「減らず口が利けなくしてやろうか、小僧」



 エルフ魔法使いは歯を剥き出しにして怒りを露わにすると、



「まあいいだろう、私の名前を記憶に刻み込め。我が名は――」



 わざとらしく長衣ローブを広げると、エルフ魔法使いは堂々と名前を明かす。



「ナルーセル・トリニディ、魔法に適したエルフ族随一の魔法使いだ」


「ナルシスト?」


「そうだな、ナルシストだ」


「ナルーセルだ!!」



 ハルアの盛大な聞き間違いとショウの煽りを受け、ナルーセルと自ら名乗ったエルフ魔法使いは顔を真っ赤にして否定してくる。



「ナルーセルよ、その小僧たちが持つ『森の乙女の涙』があれば完成するんだな?」


「そうですとも、閣下。我が国は天下を取ることになりましょう、ヴァラール魔法学院など足元にも及ばない」



 閣下と呼ばれた小太りの軍人はふんと鼻を鳴らすと、



「小僧ども、とっとと『森の乙女の涙』を差し出した方がいいぞ」



 小太りの軍人が向かった先は、シエルたちアドリア空賊団である。脂肪を蓄えた手でシエルの髪を掴み、地面へ叩きつけるなり彼女の頭を踏みつけた。

 シエルの顔が苦しさのあまり歪む。豚のように太った男に踏みつけられて重さをかけられたからか、歯を食いしばって痛みに耐えているように見える。


 下卑た笑みを見せる小太りの軍人閣下は、



「この女がどうなってもいいのか?」


「宝石を渡したとして、一体何をするつもりなんですか」



 ショウがシエルを踏みつける軍人閣下を睨みつけると、軍人閣下はナルーセルへと視線をやる。


 ナルーセルがコンコンと天球儀を据えた長杖で床を叩くと、床や壁に刻み込まれた魔法式の部分が浮かび上がる。幾重にもなって重なる円環はまるで天球儀のようであり、その魔法式だけで構成された天球儀の中心にボッと赤い光の球体が生まれる。

 赤い光の球体は徐々にその強さを増していき、そしてフッと光が消える。円環の中心から消えた光の球はどこに行ったのか。


 次の瞬間だ。



 ――ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンンンッッ!!



 ヘンネ天空遺跡の外から、盛大な爆発音が聞こえてきた。

 天空に浮かぶ遺跡にいながら、地震を受けたかのような衝撃が襲いかかる。身体を魔法で拘束されている状態なのにも関わらず、凄まじい威力であることを肌で実感できた。


 ナルーセルはニヤリと笑うと、



「〈見せてみろ〉」



 右手を掲げると、青い光の球体が出現する。


 その青い光の球体の表面には、巨大なクレーターが映っていた。元々は豊かな森だったようだが、木々は消し飛んで地面も盛大に抉れている。

 空に浮かんでいるヘンネ天空遺跡の様子も一緒に映っているので、おそらくあの赤い光の球体が原因だろう。爆薬をいくつ用いればこの状態に出来るのだろうか。


 唖然とするショウとハルアに、ナルーセルが自信を持って言う。



「これぞ私が開発した破壊魔法『破滅呪星カタストロフ』だ。これさえあれば国も、人類も滅ぼすことが出来る。全人類は私に跪くことになるのだ」



 ナルーセルは高らかに笑い声を響かせる。


 非常に危険な魔法であることは確かだった。破壊力抜群の魔法を前に全人類が平伏すことは目に見えて明らかである。

 この魔法をお披露目すれば、ナルーセルは畏怖の対象だ。この破壊力抜群の魔法を開発するぐらいだから、彼は非常に頭がいいと分かる。


 ナルーセルはショウとハルアにかけた魔法を解くと、



「さあ、大人しく『森の乙女の涙』を渡すのだ。そして私に平伏するがいい」



 それに対する問題児の解答は至ってシンプルだった。



「えっとね!!」


「ユフィーリアを超えようだなんて烏滸おこがましい、冥府で後悔するがいいです背骨折れろ」


「あれ、ショウちゃん!?」



 最高の旦那様でショウの知る限り魔法の天才と名高い魔女を超えるなど、ショウの地雷を全力で踏み抜いたと同義である。ナルーセルの足元から生えてきた炎腕が組み付き、容赦のないロメロスペシャルを叩き込んだ。

 ロメロスペシャルを受けたナルーセルの口から断末魔が響き渡り、反撃をするとは想定外だった小太り軍人にもキャメルクラッチを受けて断末魔が二重になる。いくら魔法使いだろうと暴力の前では無力である。


 断末魔を上げる小太り軍人とクソエルフに制裁を加えるショウに、ハルアは止める間もなく「えー、どうしよう……」と狼狽えるのだった。

《登場人物》


【ショウ】最近壊したものは問題児全員でお揃いにしたマグカップ。洗い物の最中にウッカリ手を滑らせて全員分のマグカップを粉々に叩き割った。土下座で謝ったら許してもらえた。

【ハルア】最近壊したものは学院長室の扉。副学院長の魔法兵器の実験に付き合っていたらウッカリ突っ込んで破壊した。土下座で謝っても許してもらえなかった。


【ナルーセル】破壊魔法などという厨二……凶悪な魔法を開発したナルシ……じゃなくてエルフ族の魔法使い。こんな性格なので一族から嫌われているということを自覚していない。

【シエル】ヘンネ天空遺跡を探索していたら仲間ともども捕まった。

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