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第2話【問題用務員と花火大会計画】

 そんな訳で、連絡のついた七魔法王セブンズ・マギアスが大集合である。



「うわ……」


「大きいッスね」


「立派な巨人西瓜ですの」


「本当に食べられるのかね?」



 リリアンティアの個人的な農園にやってきて巨大な西瓜とご対面を果たした4人は、唖然とした表情で西瓜を見上げていた。


 驚くのも無理はない。巨人西瓜の平均的な大きさは3メイル(メートル)前後だが、これは5メイル以上はあるのだ。丁寧に育ててもここまで成長するか分からない。

 巨大な西瓜を見上げたまま動かない七魔法王の仲間たちを目の当たりにして、ユフィーリアは満足げに頷いた。こういう反応はやはり第三者目線で見た方が面白い。


 黒髪紫眼の青年――七魔法王セブンズ・マギアスが第一席【世界創生セカイソウセイ】にしてヴァラール魔法学院の学院長を務める魔法使い、グローリア・イーストエンドは震えた指先で巨大な西瓜を示す。



「こ、これはリリアちゃんが?」


「はい……その、張り切り過ぎてしまいまして……」



 リリアンティアは恥ずかしそうに、



「巨人西瓜などという珍しい種をもらったものですから、少し挑戦したくなりました。それで、その、根気よく面倒を見ていたらこのように……」


「巨人西瓜の品評会でぶっち切りの優勝に選ばれそうな大きさッスね」



 称賛の言葉を口にしたのは黒い布で目元を完全に覆い隠した姿勢の悪い青年――七魔法王セブンズ・マギアスが第二席【世界監視セカイカンシ】にしてヴァラール魔法学院の副学院長を務めるスカイ・エルクラシスである。

 遠慮のない手つきで巨人西瓜をぺちぺち叩くなり、彼は「甘い匂いがする」などと呟く。ちゃんと中身が熟れているのか確認したのだろう。


 スカイは西瓜の表皮を撫でながら、



「最近の品評会でもここまでの規模は見ないッスよね?」


「それどころか史上初ではありませんの?」



 巨人西瓜を前に驚きが隠さずにいる全身真っ赤な淑女――第三席【世界法律セカイホウリツ】であるルージュ・ロックハートがスカイに応じる。

 彼女は「品評会の記録にもここまでの規模はありませんの」と続けた。記憶力が優れた彼女は、過去の品評会でどれほどの規模の巨人西瓜が出たのか覚えているのだ。何故そんなものまで覚えてしまったのか。


 ルージュは「ところで」と背後へ振り返り、



「第四席、あなたは何をなさっているんですの」


「西瓜と聞いたので塩を持ち込んだ訳だが」



 ルージュの言葉に応じたのは、第四席【世界抑止セカイヨクシ】にしてショウの父親であるアズマ・キクガだ。普段は冥府にて冥王第一補佐官として勤務する彼だが、淡い桃色の着物と真っ赤な帯を合わせた可憐な和装美人姿を披露しているところを推測すると非番だったのだろう。息子のショウが通信魔法を飛ばした途端に「すぐに行く」と食い気味で答えたぐらいだ。

 そんな彼は、食卓でよく見かける小さめの塩の瓶を握りしめていた。西瓜に塩をかけて食べると甘みが増すという話を聞いたからだろうが、その小さな塩に対する西瓜の大きさが割りに合っていない。


 大事そうに塩の瓶を握りしめるキクガは、



「これは塩が足りない訳だが」


「足りる訳ないじゃないですの。いくつお塩が必要だと思いまして?」


「いっそ塩漬けにするしかない訳だが」


「そんなんだからどんなお料理を作っても爆発するんですのよ」


「どんな料理を作っても毒物か劇薬にしかならない君より遥かにマシな訳だが」


「何ですとこの野郎、表に出るんですの」


「ここが表だ」



 ルージュとキクガの間に激しい火花が散る。似たもの同士なので相変わらずの仲の悪さだ。



「でもこれ、切り分けて食べるのが大変じゃないかな? 塩以前の問題だと思うよ」


「誰が切り分けるんスか?」



 学院長と副学院長のヴァラール魔法学院ツートップが疑問を提示したことで、ルージュもキクガも喧嘩を止めた。くだらない理由による喧嘩よりも巨人西瓜を切り分ける作業の方が重要だと彼らも判断したのだ。

 食べるにしても切り分ける作業が重要だ。並大抵の刃物など無駄だろうし、かといって魔法で爆発四散させるのは食材の無駄になってしまう。このまま放置しておけば、いずれ熟れ過ぎて腐ってきてしまうことは請け合いなしだ。


 グローリアは「そうだ」とポンと手を叩き、



「ユフィーリア、この西瓜を切り分けることって出来ないかな?」


「代金取るけどいいか?」


「ふざけないでよ、君も食べるんだから協力しなよ」


「お前に言われるのが癪だからかな、思わず口走っちまったわ」



 ユフィーリアは軽い調子で笑い飛ばした。


 実際、この巨人西瓜を切り分けることが出来るのはユフィーリアぐらいのものだろう。どんなものでも切断できると謳われる銀製の鋏があれば楽勝だ。

 ただグローリアに指摘されたので、思わず「代金を取るぞ」という問題児根性丸出しなことを口走ってしまったのだ。反省も後悔もしていない。精神的に刷り込まれた問題児という自覚がなせる技である。


 雪の結晶が刻まれた煙管キセルを咥えたユフィーリアは、



「それならお前らは何するんだよ。まさかアタシが汗水垂らして切り分けた西瓜をただ食ってハイ終わりって訳じゃねえよな?」


「お皿とかの持ち込みはしたけど?」


「アタシも持ち込んでんだよそこはよ」



 しれっとそんなことを言うグローリアに、ユフィーリアは「当たり前だろうが」と返す。食器を持ち込んだだけで釣り合うと思わないでほしいところだ。

 せめてユフィーリアが興味の引く提案をしてくれればまだ考えたかもしれないが、そんな魅力的な提案など学院長が出来るだろうか。魔法の実験にしか頭が働かないような男である、ユフィーリアの好きそうな提案など不可能である。


 と、ここでルージュが「でしたら」と口を開く。



「夏の風物詩である花火大会をするというのはいかがですの? 花火と西瓜の組み合わせは極東地域では定番だと聞き及んでおりますの」


「確かにそれだと釣り合いは取れるッスね」



 ルージュの提案に副学院長のスカイが乗っかる。


 花火と言えば極東地域で代表的な文化の1つで、火薬や金属などを混ぜ合わせた爆弾のようなものを夜空に打ち上げるのだ。その爆弾が破裂すると大輪の花が咲くように見えるので、花火見たさに極東地域を訪れる魔女や魔法使いも少なくない。

 魔法で解決できそうなものだが、やはり極東地域の花火は繊細で風情がある。まさに職人技である。しかも色が変化したり広範囲に火花が飛び散ったりと種類が多く、見ていて飽きない。


 最近では資格保有者と敷地を確保できれば打ち上げられることも可能な小ぶりの花火も開発されており、花火を発生させる魔法も生み出された。場所を提供してくれるのであれば、ユフィーリアも文句なしに仕事をやる。



「いやでも花火って資格保有者がいなきゃいけないんでしょ? 敷地は確かに用意できるけど」



 グローリアが難しそうな表情を見せるが、



「グローリア、ボクがいるッスよ」


「え?」


魔法兵器エクスマキナの開発に必要そうな資格は全て取得済みッス。花火を打ち上げる為の魔法兵器も組めるッスよ」



 グッと親指を立てて主張するスカイ。この上なく頼もしい援護射撃である。

 まあ正直な話、ユフィーリアもスカイと同じ資格を有しているのだが言わない。今日の仕事は西瓜を切り分ける方である。花火を打ち上げる作業まで兼任すると、それこそ本当に釣り合いが取れない。


 グローリアは苦々しい表情をしていたが、やがて観念したように肩を竦める。



「まあ、確かに夏らしいことをするのもいいよね。ちょうど生徒もいないし、校庭はガラガラだし」


「では夜に花火大会を開催するという方針でいいのかね?」



 首を傾げるキクガに、グローリアは「今回だけだよ」と許可を出す。楽しい花火大会の開催が決定され、問題児たちも俄かに色めき立つ。まさかの学院長自らが花火大会の開催を許可するとは思ってもみなかったのだろう。

 花火大会の場所は提供された。スカイも花火を打ち上げる為の魔法兵器を組み上げる予定である。こんな楽しそうな催し事が執り行われるなら、ユフィーリアも巨人西瓜の解体に取り組まなければ不評を買ってしまう。


 キャッキャと楽しそうに花火大会について議論を交わしていたところで、ユフィーリアは「あ」と思い出した。



「そういや小型の花火なら極東から取り寄せたな」


「いつのまにそんなものを取り寄せたのかしラ♪」


樟葉くずのは姐さんが『今の極東の流行りなんですよ』とか言うから、ちょっと取り寄せてもらったんだよ」



 ユフィーリアは雪の結晶が刻まれた煙管を一振りして、転送魔法を発動させる。


 畑にゴトンと音を立てて落ちてきたのは、一抱えほどもある大きめの木箱だった。蓋を開ければ白色の紙に包まれた小ぶりな花火玉がギッチリと詰め込まれて並べられている。花火大会を開催するには少ないような気がしないでもないが、魔法で複製してしまえばいい話だ。

 花火玉を手に取ると、僅かに花のような香りが漂ってきた。これこそ極東地域で開発された流行の花火玉である。



「名付けて匂い花火だとよ」


「匂い花火?」


「何か花火が弾けると同時に花の香りも散らされるんだとよ。原理は教えてくれなかったけど」



 花火に匂いまでつけられるとは驚きだが、こうして嗅いでみると何種類かの花の香りが上手く配合されている様子だった。この花火を実際に使ったことはないが、綺麗な上にいい香りまでするならば花火大会も素敵な思い出になるに違いない。

 どうせ花火大会を開催するならとことんまで追求しなければ気が済まない。いつか使おうと温存していたものだが、どうせならここで披露してしまった方がよさそうだ。使いどきを間違えてはならない。


 グローリアは花火玉が詰まった箱を覗き込み、



「これ何をするつもりだったの?」


「ショウ坊と花火大会デートがしたくて取り寄せたんだよ。文句あるか?」


「ショウ君が絡んでいるなら変なものでもないか……」


「おい」



 どうやら変なことに使うのではないかと疑われていたようである。心外だ。



「そういえばぁ、八雲のお爺ちゃんはどうしたのぉ?」


「西瓜の件で通信魔法を飛ばした時も何だか様子がおかしかったワ♪」



 エドワードとアイゼルネが、この場にいない七魔法王セブンズ・マギアスが第五席【世界防衛セカイボウエイ】について指摘する。

 西瓜の周りに集まっているのは、第五席を除いた全ての七魔法王だ。この場に第五席【世界防衛】だけが存在しないのは考えものである。


 ルージュが「そのことですけど」と挙手し、



「夏バテで力が出ないそうなんですの。どうせ二日酔いでしょうから、わたくしたちだけで楽しむですの」


「それならあとで西瓜の差し入れに行かなければ」


「リリアさん、あのクソ狐に優しくすると食べられますの。関わりを持つのはお止めなさいですの」



 夏バテで寝込むという第五席【世界防衛】について辛辣なことを言うルージュにリリアンティアは「そうですか……」としょんぼりしていた。さすが聖女様、あの狡猾な狐にも慈悲の心を持つとはお優しいことだ。

 だが残念ながら、他の七魔法王は第五席【世界防衛】など放っておくという選択肢だけしかなかった。呼べば何をされるか分かったものではない。


 そんな訳で、夏の風物詩である花火大会の開催が決定して準備の議論が西瓜を取り囲んだ状態で交わされるのだった。

《登場人物》


【ユフィーリア】花火大会は確かに計画していたし、その為にも花火玉を購入して準備していた魔女。花火と言えばやっぱり打ち上げ花火だよな。

【エドワード】花火より食べ物に集中しちゃう。花火と言えば手持ち花火。そしてハルアが暴走して熱い目に遭う。

【ハルア】花火は手持ち花火! 手持ち花火をぐるぐる振り回して軽く火傷をしながらエドワードに突撃して怒られる。

【アイゼルネ】線香花火を扱わせたら右に出る者がいない。生き残りをかけた線香花火バトルの常勝無敗を誇る。

【ショウ】花火なんて経験がないので楽しみで仕方がない。火といえば煙草、そして煙草は手のひらに押し付けられるもの。


【グローリア】花火を見たら大体スカイと炎色反応について語り合い、魔法の実験に使えないかと考える。

【スカイ】花火を見たらグローリアと炎色反応について語ったあと、魔法兵器として何か使えないかと考える。

【ルージュ】色とりどりの花火は興味なく、赤い花火にだけ目を引かれる。

【キクガ】母親関連で嫌なことがあった時にネズミ花火を部屋に投げ入れて小火騒ぎを起こしたことがある。

【リリアンティア】ヘビ花火が召喚された蛇に見えてしまい、どうにかして帰ってもらえないかと蛇語で説得し続けた。このあとユフィーリアに花火であることを指摘されて恥ずかしくなった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] やましゅーさん、おはようございます!! 新作、今回も楽しく読ませていただきました!! >だが残念ながら、他の七魔法王は第五席【世界防衛】など放っておくという選択肢だけしかなかった。 八…
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