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第13話【獅子の王子と覚醒】

「何だ……?」



 目の前で黄金の色を散らす星に、リオンは手を伸ばす。


 何故目の前に星が落ちてきたのか。今は真昼で、星など出ない時間帯である。何の奇跡か不明だが、リオンの眼前に流れ落ちてきた星から不思議と目を離すことが出来ない。

 恐る恐る触れれば、黄金の光を放つ星はリオンの指先にそっと擦り寄ってきた。掬い上げると見た目以上にしっかりと重みがあり、どこか温かさがある。



「待て、それは――!!」



 ランパードが慌てた様子で言うが、リオンは掬い上げた金色の星を喉奥に流し込んだ。


 食道を通じて胃の腑に温かい星が滑り落ちていく。

 理由は不明だが、でもずっと自分の中で求めていたものを獲得できた気がする。空虚だった部分が、空から流れ落ちてきた黄金の星を飲み込んだことで満たされていく。


 その時だ。



「――――ッ!!」



 身体の奥底から熱い何かが湧き上がる。

 全身をまるで冥府の炎で焼かれているかのように熱く、しかしランパードから絶えず与えられた痛みが途端に引いていく。ランパードによって潰された左目も回復していた。込み上げてくる熱気に身体を焼かれる感覚に、リオンは堪らず声にならない絶叫を上げた。


 そうして、変化が訪れる。



「髪が……」



 毛先から徐々にリオンの黒髪が、透き通るような金色に染まっていく。その色は先程飲み込んだ星の色と似通っていた。

 頭髪の色が綺麗な金色に染まると同時に、リオンの身体の底から力が湧いてくる。身体が軽くて仕方がなく、貧困街から王宮まで全力疾走したって今なら疲れないことだろう。


 グッと拳を握るリオンを前に、ランパードは半ば呆然とした調子で言う。



「やはり貴様――ッ」



 言葉の途中で、ランパードの顔面にリオンの拳が突き刺さった。


 それまで吹き飛ぶところなど見たことはなかったが、リオンの拳を顔面で受け止めたランパードはあっさりと吹き飛ばされてしまう。放物線を描いてぶっ飛ばされると、背中から地面に叩きつけられた。

 ただぶん殴っただけに見えたが、リオンの拳の威力は凄まじいものがあったのだろう。自分よりも明らかに身長が高くて体格も優れているランパードをこうも簡単に殴り飛ばせることがで出来るとは驚きだ。


 これなら勝てる。

 あの兄を、獣王の玉座から引き摺り下ろせる!!



「おおおおおおおおッ!!」



 裂帛の気合いと共に駆け出したリオンは、ようやく立ち上がったところのランパードに突っ込む。

 再びランパードの顔面を狙って右拳を叩きつけようとするも、その寸前でランパードの大きな手のひらがリオンの拳を受け止める。そのまま握り込んでリオンの右手を使用不能にするべく力を込めてくるが、彼の腕力など痛くも痒くも感じなかった。


 リオンはさらに力を込めて、ランパードを押しやる。



「おおおおおらああああああッ!!」


「がッ」



 押さえつけていたはずのリオンの拳に腕力で押し負けてしまい、自分の手の甲と一緒にリオンの拳が強襲する。


 星を飲む前だったらこんな力は出なかった。

 あの星はリオンに奇跡をくれたのだ。「兄に勝て」と暗に告げているのだ。


 2度も顔面を殴られたことで鼻から血を流すランパードは、



「ふざけるな、ふざけるな!! 外側からの力を得て、ズルをして勝とうと言うのか!?」


「不戦勝で玉座を維持してきた兄上が何を言っている!!」



 唾を吐きながら絶叫するランパードに、リオンは怒鳴り返していた。


 今まで兄のランパードは、獣王としての玉座を維持する為に国王決定戦の出場権を持つ成人王族を脅して出場できなくしていた。それだけではなく、自らに楯突く親類や臣下を王宮から追放してきたのだ。

 国民の声すら聞かずに、ただ自分だけを崇めてくれる信者たちを侍らせた箱庭の何が獣王国か。牙を抜かれた獣など、ただの畜生以下の存在だ。


 国を腐敗させてきた愚兄が、獣王の資格をとやかく語ることなど出来やしない。ましてリオンの現状を「反則だ」と異議をするのは、自分の過去を振り返って同じことが言えるのか。



「お前は!! 獣王に相応しい獅子ではない!!」



 リオンはランパードの頬に拳を突き入れ、



「父上の跡を継ぐ真に強い獣王ではない!!」



 立て続けにランパードの頬をぶん殴り、



「獣王に相応しいのはこのオレだ!!」



 最後にランパードへ回し蹴りを叩き込んだ。


 リオンの強烈な回し蹴りが炸裂し、全身をボロボロにしたランパードが吹き飛ばされて地面に転がる。軍服の胸元に飾られた煌びやかな胸元は砂埃で汚れ、明るい橙色のたてがみは酷くボロボロでボサボサだ。顔面はボコボコに腫れ上がり、鼻血まで止めどなく流れる始末である。

 動かないところを見ると、気絶でもしたのだろうか。いいや、あの兄のことだから死んだふりでもしているかもしれない。今日まで不戦勝で獣王の玉座を維持してきた卑怯者だ、背中を見せたリオンを背後から襲い掛かるぐらいの卑怯な手段は使いそうである。


 大股で地面に転がるランパードに詰め寄ったリオンは、グッタリした様子の兄の胸倉を掴む。



「ひ、ひぃッ」



 ランパードは上擦った悲鳴を漏らすと、リオンを見上げて怯えたような表情を見せる。



「すまなかった、すまなかった!! 許してくれ!!」


「それは誰に向けた言葉だ」


「い、今まで余が虐げてきた国民に、全てに!! 謝罪するから!! どうか命だけは、いいい命だけはあッ!!」



 あれだけ殴られた影響か、兄はガタガタと震えていた。先程までの傲慢な態度が嘘のような大人しさである。

 こんな状態の兄を殴って、心はきっと晴れない。王宮を追放された恨みはあるものの、結局のところリオンも身内に甘い部分があるのだ。


 殴る気力を完全に失せたリオンはランパードの胸倉を解放し、



「兄上、これからは大人しくしていてください。これからはオレが獣王として国を率いる」


「あ、ああ、そうだその方がいい。貴様が獣王に相応しい」



 不器用な笑みで持ってランパードは応じる。まるでゴマをする臣下のようだ。


 途端に弱々しくなってしまった兄の姿を見ていられず、リオンは深々とため息を吐いた。こんなあからさまに態度を変える兄に今までボコボコにされていたのかと思うと情けなくて仕方がない。

 用事は済んだとばかりに兄へ背中を向ける。もうここに用事はない。勝ったことを同志たちに伝えなければ。



「いや、誠に強かった。我が弟がこうして獣王の座を継ぐとは余も鼻が高い」



 何やら兄がわざとらしくリオンを称賛し始める。



「だがいずれ、余が再び貴様を打ち倒して獣王の座に返り咲く。その時は正々堂々と戦え」


「兄上」



 リオンはランパードへと振り向いた。


 いつのまにか立ち上がっていたランパードは、右爪を輝かせてリオンを背後から強襲していた。そのまま無様に背中を見せ続けていれば、間違いなく背後から首を掻き切られたことだろう。

 ランパードの勢いは止まらない。リオンが振り返り、彼の敵意を認識しても繰り出された右爪を引っ込めることはなかった。バレたとしても殺してしまえばいい。死人に口なしということだろう。


 どこまでも――どこまでも兄は、卑怯者だ。負けを認めておいて、無様に命乞いをしておきながら、隙を見せれば諦め悪く襲いかかってくるところは天晴れだ。逆に尊敬できる。



「知っていたさ、兄上はそういう性格だからな」



 だからこそ、リオンはわざと背中を向けた。

 ランパードはどこまでも卑怯な男だから、きっとリオンが背中を向けた途端に襲いかかってくると予想していたのだ。その予想が的中してくれて嬉しい。


 勝利を確信してほくそ笑むランパードに、リオンは拳を握った。


 振るわれる右の爪。少し身体を反らしてランパードの爪による攻撃を回避すると、リオンは力強く踏み込んでランパードの懐に潜り込む。

 呆気に取られるランパードの表情を一瞥し、握り込んだ拳を全力でランパードの鳩尾めがけて叩き込んだ。柔らかな腹の肉と同時に内臓まで抉れるような衝撃を受け、ランパードは吹き飛ぶ。


 闘技場の壁に背中から叩きつけられたランパードは、そのまま頭を項垂れさせて動かなくなった。これで本当にリオンの勝利である。



「…………」



 頭を項垂れさせたランパードの姿を眺め、リオンは張り詰めていた息を吐く。


 観客席には誰もいない。

 誰もいないから、リオンが新たな獣王となったことを称賛する人物など――。



「きゃー、イケメーン」


「王子様、素敵ぃ」


「抱いて!!」


「格好いいワ♪」


「金色の鬣が素敵よー」



 5人分の冷やかしを交えた歓声がリオンに浴びせられた。


 いつのまにモフレンジャーとやらを片付けてきたのか、銀髪碧眼の魔女を筆頭とした5人の同志が観客席から身を乗り出して手を振っていた。あれは絶対に状況を楽しんでいる。短い期間で分かったことだが、彼らは非常にノリがよくて悪戯好きなところがあるのだ。

 ああ、彼らが問題児であるという理由が分かった気がする。ノリが良くて悪戯好きで、どんな状況でも楽しんでやろうという魂胆が透けて見えるのだ。


 リオンは口の端を吊り上げて、拳を天高く突き出す。調子に乗った歓声がさらに大きくなった。



「見たか、ユフィーリア・エイクトベル!! オレは獣王になったぞ!!」


「見ていたさ、リオン・レオハルト・ビーストウッズ獣王陛下殿。その健闘を讃えてわざとらしく褒めてやってんだろ、ひゅーひゅー」


「素直に褒めろ!!」



 リオンが叫べば、観客席にいる銀髪碧眼の魔女は「やだね」と素直じゃない答えを返すのだった。

《登場人物》


【リオン】目の前に落ちてきた星を飲んだら覚醒した獣王国第二王子様。昔話と同じ展開だな!

【ランパード】途端に強くなった弟に命乞いをするも、最後はぶん殴られて敗北した。

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― 新着の感想 ―
[良い点] やましゅーさん、おはようございます!! そして、メリー・クリスマス!! リオン君と獣人王の戦い、楽しく読ませていただきました!! 左目を失っても闘志を失わずに、何度も立ち上がって挑み、卑…
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