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第5話【問題用務員と宣戦布告】

「ごほん」



 無駄な咳払いをしたモフレンジャーのライオンレッドことレオナルド・ビーストウッズは、リオンを指差して言い放つ。



「叔父上、王宮に貴方の居場所はありません。即刻このような馬鹿げた行動は止めて、貴族区画から出て行ってください」


「お断りだ」



 対するリオンは、自分の甥が相手だろうと堂々とした態度で接する。

 貧困街で牙を研いできた「反逆行為を止めろ」とはなかなか面白い冗談である。もう計画は止められないところまで進んでいる。言葉だけで止められるのであれば世の中は平和になっているし、獣人差別だって起きやしない。


 これは貧困街の状態を知らない愚か者に、現実を突きつけてやる為の戦いである。頭を押さえつけていた半獣人デミ・アニマたちに牙を剥かれるとは、王族や優遇されてきた獣人たちも想定外だろう。



「そこを退け、レオナルド。オレはお前の父親に用事がある」


「それこそお断りです」



 レオナルドはリオンを睨みつけると、



「叔父上、聡明な貴方ならお分かりになるでしょう。この戦い、貴方の負けです」


「何故オレが負けると断定できる」


「俺がこの場所に立っているからです」



 真っ赤な鎧の胸元を自慢げに叩いたレオナルドは、



「俺はこの国の平和を守る為に結成されたモフレンジャーのリーダーですからね。それに俺には仲間たちの存在がいる。いくら叔父上が強くても、たった1人で何が出来ると言うんですか?」


「は?」



 これに反応を示したのはユフィーリアである。


 少々聞き捨てならない言葉が、真っ赤な鎧を身につけた獅子から聞こえたような気がする。完全に獅子の注目はこちらを見ていないので、つまりはそう言うことだろう。

 どういうことかと言えば、ユフィーリアたち問題児が戦力外通告を言い渡されたものと同義である。これは由々しき事態だ、名門魔法学校を創立当初から騒がせてきた問題児が目立っていないとは許せない。


 ユフィーリアは「あのー」と挙手して、



「アタシらもいるんだけど、戦力外通告ってことか?」


「はッ」



 レオナルドはユフィーリアを一瞥し、それから鼻で笑った。



「ただのヒトザルに一体何が出来る? 大人しく引っ込んでいろ」



 明らかに接する態度を変えてくるレオナルドに、ユフィーリアは「なるほど」と納得した。


 相手が叔父だから、レオナルドも接する態度にまだ丁寧さがあったのだ。何せ親戚である。獣人は結束を大切にする傾向があると、どこかの論文で読んだ気がする。

 ユフィーリアたち人間を見下しているのは、過去に人間と獣人で起きた大量虐殺が原因だろう。和平を結んでいるとはいえ、こうして納得できていない獣人も多い。人間を「ヒトザル」などと揶揄し、見下す獣人もいるぐらいだ。


 それをまさかのユフィーリアたち相手に吐きやがったのだ。これはもう喧嘩を売られていると判断してもいいだろう。



「なるほど、なるほど。そうかそうか」



 ユフィーリアはスッと両手に握った銀色の双刀を掲げると、



「畜生どもが口喧しく騒ぐんじゃねえよ、魔法も使えねえノータリンどもがよォ!!」



 銀色の双刀を地面に突き刺したユフィーリアは、同時に魔法を発動させる。



「〈絶氷の棘山(イルゼ・フリーズ)〉!!」



 ドカドカドカッ!! と地表を突き破って氷の棘山がいくつも連なって出現する。

 地表を突き破って生えてくる棘山から逃げ遅れて引っかかる一般兵士や腕や足を刺されて痛みを訴える一般兵士がいる中で、そのモフレンジャーと名乗った5人組だけは悠々とユフィーリアの魔法を回避した。国の平和を守るのであればその身で受け止めてほしかったものだ。


 氷の棘山はついに城門に到達すると、容赦なく門扉を破壊する。邪魔な兵士は端に避けてもらったし、これで王宮に侵入も容易い。



「リオン、行け」


「お前はどうするんだ」



 リオンの背中を押し出してやるユフィーリアは、



「この先はお前の敵が待ってる、だから行ってこい。このモフレンジャーとやらを片付けて、アタシらはのんびり国王決定戦を観に行くさ」



 何せ、今回から敵がいるのだ。

 敵のいない、いつも不戦勝で終わる国王決定戦はつまらない。本当はユフィーリアだって国王決定戦が観たいのだ。つまらない試合よりも、面白い王族同士の殴り合いを見ていたい。


 こんな場所で足止めを食らっている訳にはいかないのだ。



「そうか」



 リオンは壊れた城門の先を見据えると、



「早く来なければ、国王決定戦は終わってしまうぞ」


「言ってろ、30秒で駆けつけてやらァ」



 ユフィーリアは「行け」とリオンの背中を叩いてやると、獅子の耳と尻尾を持つ半獣人の青年は振り返ることもなく走り出した。

 風のような足の速さを発揮し、氷山に引っかかった衛兵たちが止める間もなく通り過ぎる。衛兵たちに見送られながら、リオンは壊れた城門の奥に消えていった。王宮の敷地に足を踏み入れれば、あとはもう彼次第である。


 あっさりとリオンの侵入を許してしまった無様なモフレンジャーは、忌々しげに舌打ちをして呆然とした様子の一般兵士たちを叱りつける。



「何をしているグズども!! 早く叔父上を追いかけろ!!」


「おっと、そんなことをさせると思うか?」



 ユフィーリアが指を弾くと、壊れたはずの城門が急速に修復されていく。瓦礫が繋ぎ合わされて、完璧に城門は元通りの状態に戻ってしまった。

 つまり衛兵たちは締め出しを食らった形である。城門の高さはかなりあるので飛び越えることなどまず不可能だし、空を飛べる鳥人が城門の向こう側に戻って扉を操作でもしない限りは衛兵が巣穴に戻ることも叶わない。


 まあ、誰も城門を開けさせる訳がない。問題児を怒らせた時点で、彼らはすでに終わりを迎えた。



「あー、うん、そうだな。もういいよな」



 ユフィーリアは自分に言い聞かせるように呟き、地面から銀色の双刀を引き抜く。鋭利な先端に付着した土埃を払い落として、



「お前ら、もういいぞ」


「いいのぉ?」


「いいの!?」


「いいのかしラ♪」


「いいのか?」



 ユフィーリアの言わんとしていることを理解したようで、可愛い4人の部下たちは許可を求めてくる。


 非難する人間はおらず、また獣人もいない。存在するのは差別意識に囚われた醜い獣たちだけだ。

 こんな獣どもがのさばるなら、もう彼らの存在は必要ないだろう。幸いにも話の通じる獣人は全体的に反逆者側だし、目の前の醜い獣を処分したところで獣人という存在が絶滅に追い込まれる訳でもない。世界中を探せば獣王国から脱出した獣人を見つけることも可能だ。


 つまり、コイツらを殺してもいいだろうということである。



「もういいぞ」



 最後にもう一度許可を出した瞬間である。



「ぎゃッ」



 エドワードは近くにいた虎の獣人をぶん殴る。その鍛えられた鋼の肉体に見合った剛腕でぶん殴られた虎は物凄い速度で後方に吹っ飛んでいき、建物の壁をぶち破った。壁の穴から生えた足はだらんと下がり、僅かに赤い何かも壁に付着しているように思える。



「ごッ」



 ハルアは握っていた三叉の槍を構えると、その穂先を羊の獣人の喉元に突き刺した。噴き出る血潮、倒れる羊の獣人。鎧で守られていても、不用心なことに首元の設計が甘かった相手側のミスである。



「あ、あぁ、あああああああッ!?」



 唐突にとある猿の獣人が悲鳴を上げた。ガシガシと鎧で覆われた胸元を掻き毟り、唾を飛ばしながらジタバタと暴れ回る。仲間内から「どうした!?」「何があった!!」などと声をかけられるも、血走った目で暴れる猿の獣人は、おもむろに懐からナイフを取り出すと自分の首を掻き切った。

 そのすぐ側でくすくすと声を押し殺して笑うのは、南瓜頭の娼婦である。豊満な胸元にくっきりと刻まれた谷間からトランプカードを取り出し、それを用済みだと言わんばかりに地面へ捨てる。猿の獣人が狂ったように叫んだ末に自殺したのは、おそらくあのトランプカードが原因だ。



「わあああああああッ!?」


「ぎゃ、やめッ、あづいいいいいいいいいいいッ!!」


「あがあああああああああああッ!?」



 そして大勢の衛兵が、紅蓮の炎に包まれて暴れ狂う。水を求めて仲間に手を伸ばすが、その炎は仲間にも伝播して火だるまの犠牲者がどんどん追加されていった。力尽きて倒れ込んだ彼らは消し炭となり、誰が誰なのか判別できないほど真っ黒になっていた。

 惨劇を作り出した張本人であるショウは、冥砲ルナ・フェルノで次々と衛兵を狙い撃ちしていく。その手つきは容赦なく、主に空を飛ぶ為の翼を持つ鳥人を中心に火だるまへ変身させていた。空を飛ばれたら面倒ということがよく分かっている。


 リオンがいた手前、彼らに罪を償わせるということで殺害だけは回避していた。でもそれを咎める人物がいなくなれば、あとはもう好き放題にやるだけである。



「ついに本性を表したか!!」


「本気を出したって言ってほしいぐらいだな」



 ユフィーリアは綺麗な笑顔を見せると、



「証拠隠滅はあとでいくらでも出来るし、世の中には死者蘇生魔法って便利な魔法もある。肉体だけ蘇らせて肉人形みたいな状態にするのも、魔法を使えば簡単だしな」


「おのれ魔女め、気高き我ら獣人を愚弄しおって!!」



 レオナルドは牙を剥いて威嚇をしてくるが、ユフィーリアは肉食獣の威嚇もどこ吹く風だった。

 確かに獣人を愚弄したが、そんな彼らも半獣人や人間を愚弄したではないか。自分自身がやり返されないといつから錯覚していたのだろう。


 銀色の双刀を構え直すユフィーリアは、



「かかってこいよ、クソダサネーミングの英雄ども。問題児に勝てたら褒めてやる」


「いい度胸だ、ヒトザル。冥府の底でその言葉を後悔させてやろう!!」



 余裕の笑みで応じる問題児たちに、獣王国の平和を守るモフレンジャーは無謀にも立ち向かうのだった。ハッキリと言ってしまうが、本当に無謀である。

《登場人物》


【ユフィーリア】銀色の鋏を分解して双刀のようにして戦うのが基本スタイルだが、合間に魔法を織り込んだ多彩な戦い方をするので物理でも魔法でも敵う相手がいない。

【エドワード】筋骨隆々とした体躯に見合った怪力を活かした肉弾戦を得意とする。必要最低限のことが出来ればいいので動くのも最小限。

【ハルア】基本的なスタイルは槍による戦い方。飛び抜けた運動神経を活かして様々な武器を扱うことが出来る。剣とかナイフとか爆弾とか使えるよ!

【アイゼルネ】観察眼に長けているので、相手の苦手とする幻影で妨害してくる。攻撃力がほぼ皆無な反面、トリッキーな魔法の使い方で相手を翻弄するのが得意。

【ショウ】言わずと知れた心臓兵器による上空からの広範囲・高火力攻撃を得意とする。最近、冥砲ルナ・フェルノと離れながら飛ぶ方法を習得した。


【リオン】最強の獣王に憧れて身体を鍛え、貧困街でも身体がさらに鍛えられた身体能力ばり高の王子様。多分どこぞの国の第二王子様(笑)より身体能力が高い。得意技は背負い投げ。

【レオナルド】現在の獣王の息子にしてリオンの甥。モフレンジャーのリーダーで、最も強いと自負している。

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― 新着の感想 ―
[良い点] やましゅーさん、おはようございます!! 新作、今回も楽しく読ませていただきました!! 知らなかったとはいえ、ユフィーリアさんたちに喧嘩を堂々と売るなんて本当に無謀なことをしたもんですね。…
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