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第14話【学院長と怒りの真相】

 ――見窄らしい侍女を配偶者に選ぶとは、貴女は何をお考えですか?


 ――そこの侍女は卑しくも貴女の愛を独占しようとしている。可愛く媚びて、貴女に擦り寄ろうとしている下男です。



「あ」



 ぼきん、と音を立ててグローリアの手の中にあった羽根ペンが折れた。


 これで3本目である。

 頭の中で嫌な声が響くと同時に、何故か羽根ペンが次々と犠牲になってしまうのだ。グローリアは鍛えてもいないので羽根ペンなど折れるはずもなく、きっと問題児が羽根ペンに何か小細工をしたのだろう。


 折れて使い物にならなくなってしまった羽根ペンをゴミ箱に放り捨て、グローリアは新しい羽根ペンを引き出しから取り出す。インク瓶に先端を浸し、それから広げた羊皮紙の隅に自分の名前を書き込む。学院長としての仕事は溜まっているのだから、それを消費しなければならないのだ。



「――許す訳がないじゃないか」



 頭の中で響いたレティシア王国第二王子による心ない言葉に、グローリアは静かに応じた。



「ようやく彼らは巡り会えたんだ。それをポッと出が引き離すなんて、僕が許すはずがないだろう?」



 ユフィーリア・エイクトベルとアズマ・ショウの純愛は紛れもなく本物だ。

 彼らの昔の姿を知っているグローリアだからこそ、彼らの愛には誰の邪魔も必要ではないし排除されるべきである。まあ、彼ら自身の喧嘩に口を出すほど野暮ではないので、邪魔者の排除以外のことはやらないつもりだが。


 長い時を経てようやく彼らが幸せになれる時代がやってきたのに、唐突に現れた第三者が邪魔するなんて無粋以外の何でもない。



「エンデ、ユフィーリア。僕は君たちの味方だからね」



 自身の対になる存在として描かれる女神と、その女神に手を差し伸べて溢れるほどの愛情を注いだ慈悲深い魔法使いの男の幸せを願い、グローリアは小さく笑うのだった。



 ――ピリリリリリリ、ピリリリリリリ。



 その時、聞き慣れない音が耳朶に触れる。


 執務机の隅に放置されていた板の形をした通信魔法専用端末が、ぶるぶると振動して存在を主張している。

 副学院長のスカイが組み上げた魔法兵器エクスマキナで、確か『魔フォーン』という名前だったか。通信魔法しか使えないとは面白い魔法兵器である。しかも端末の識別式を読み込めば、どんなに環境が劣悪な場所でも鮮明に通信魔法が届くのだから驚きだ。


 グローリアは魔フォーンに手を伸ばすと、画面に表示された名前を確認する。



「あれ、スカイだ」



 副学院長の名前が表示されており、グローリアは覚束ない指先で魔フォーンに触れた。



「どうしたの?」


『あー、そのー……』



 スカイは非常に言いにくそうな雰囲気で、



『さっきの件、本当にやるつもりッスか?』


「レティシア王国が正式に抗議してきたらね」



 グローリアは先程、レティシア王国からあらゆる魔法技術を取り上げて破滅に導こうと画策した。

 レティシア王国は優れた魔女・魔法使いが大勢いて、さらに魔法の研究施設も大半を擁している。その研究結果が国益に繋がり、他国にも優位性を保てているのだ。


 その魔法技術や魔法実験の大半を主導しているのが、グローリアである。実際に関わる時は休日などを利用する必要があるのだが、研究施設で勤務する魔女や魔法使いは全員グローリアが選んだヴァラール魔法学院の卒業生である。

 また研究施設で勤務していない魔女や魔法使いにも「レティシア王国は住みやすいよ」とお勧めしているのだ。気候も穏やかだし、料理も美味しい。グローリアの主導する魔法実験のおかげで資金も潤沢なので、税金も安いし生活に必要な金銭も国から補助が出るというおまけ付きだ。


 それを全て取り上げ、また証拠隠滅をすればレティシア王国は破滅の一途を辿る他はない。



「僕だって子供じゃないからね。ショウ君のことを悪く言ったのは、まあキクガ君に報告して終わりにしておこうかな。ユフィーリアたちはショウ君の心の治療を優先させて」


『あ、そのことなんスけど』


「何かあった?」



 スカイは『実はッスね』と続け、



『問題児どもがさっきから正面玄関の床に岩塩を塗り込んでるッス』


「床がギャリギャリになるでしょうが、今すぐ止めさせて!!」



 グローリアは魔フォーンを引っ掴んで「全くもう!!」と叫びながら、学院長室を飛び出した。


 味方だとは言ったが、それとこれでは話が別である。

 塩を撒いておいてと言ったつもりでも、まさか岩塩を床に塗り込むとか誰が考えるだろうか。本当に問題児は余計なことしかやらない。





 後日、正式にレティシア王国から第二王子のアレスに対する暴行について抗議文が届いたが、グローリアが笑顔で『他人の旦那にしつこく求婚するような節操のない馬鹿王子に、暴力で済ませただけありがたいと思えカス』という内容の記事を何重にもオブラートに包んだ上で各新聞社に発表したところ、レティシア国王がヴァラール魔法学院の学院長室にて土下座をしにきた。

 もちろん寄付金は倍額となったし、第二王子のアレスは図書館の出入り禁止が言い渡されて抜け殻のようになってしまったので、レティシア王国から魔法技術を取り上げる行為は見送る方針となった。


 ちなみに寄付金の他に詫びとしていくらか貰ったのだが、それは問題児筆頭とそのお嫁さんへ贈呈した学外にある高級レストランの招待券と交通費で消えたのは副学院長に内緒である。

《登場人物》


【グローリア】自分の対となる存在である終わりの女神エンデとユフィーリアによる恋愛を見守り隊隊長。彼らの痴話喧嘩には首を突っ込まないが、第三者が彼らの恋愛を邪魔するなら容赦なく社会的抹殺を企む。アレス王子、魔法の勉強を取り上げられたって? バーカ!


【アレス】レティシア王国第二王子。国王も認める嫁を見つけて求婚したのに、逆に国を窮地に立たせてしまった馬鹿王子。図書館の出入りを禁じられ、魔法の勉強を取り上げられて抜け殻のような状態で帝王学や政治学などの勉強をさせられる羽目になる。罪が軽く済んだだけありがたいと思え。

【スカイ】容赦のない学院長にガクブルしていた副学院長。

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― 新着の感想 ―
[良い点] やましゅーさん、こんにちは!! 新作、今回も楽しく読ませていただきました!! 学院長先生があれほどなまでに怒った理由が明らかになり、改めて学院長先生の見る目や評価が自分の中では変わったよ…
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