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第10話【異世界少年と招待券再来】

 ズッコケ男3人旅が終幕を迎えてから、僅か2日後のことである。



「アイゼ、次の休みは暇か暇だよなよし暇だ」


「勝手な決めつけはよくないワ♪ 確かに暇だけド♪」



 意気揚々と用務員室に帰還を果たしたユフィーリアが、ひらひらと封筒を揺らしていた。封筒には『1等景品』とあり、その中身が何であるかショウにはすぐに理解してしまった。

 見覚えのある封筒だと思えば、購買部で執り行われている籤引くじびきの1等景品である。その内容は湯煙温泉郷の招待券3人分――つい先日、ショウたちが日帰り旅行を楽しんだ場所である。


 ユフィーリアが満面の笑みで掲げる封筒の存在に気づいたアイゼルネは、



「あらその封筒♪」


「実は購買部の籤引くじびききで当ててな。この前、ショウ坊たちも日帰り旅行を楽しんでいたし、どうせ引き当てたならアタシらも行こうぜ」


「いいわネ♪ おねーさん、喜んでお供させていただくワ♪」



 アイゼルネはウッキウキで「明日がお休みでよかったワ♪」などと嬉しそうに言う。明日は祝日になるので、平日の日付だがヴァラール魔法学院はお休みということになる。


 それにしても、大変なことになった。

 確かに湯煙温泉郷は楽しかったが、あそこは植物園の管理人である八雲夕凪やくもゆうなぎの領土だ。ショウたちが巻き込まれたように、ユフィーリアとアイゼルネも三文芝居の餌食にされるのか。


 いいや、今度は美女2名だから大丈夫だろうか。たとえ女性が相手でも、問題児筆頭とその部下だと判明すれば容赦のない嫌がらせをしてきそうだ。



「…………」


「…………」


「…………」



 引き当てた湯煙温泉郷の招待券にはしゃぐ最愛の旦那様と頼れる先輩用務員の姿を見やり、絵本を読んでいる最中だったショウとハルア、それから日課の筋トレ中だったエドワードは互いの顔を見合わせた。


 あの三文芝居の内容を話すべきだろうか。話を盗み聞きしたら食われるか売られるかの2択が待ち受け、さらに女性店員から刺身包丁で脅しをかけられるという馬鹿みたいな話の内容を彼女たちに打ち明けるべきだろうか。

 実はあの時の三文芝居の内容を、ショウたち3人はユフィーリアに話していないのだ。財布がすっからかんになるほど飲み食いしたので、八雲夕凪には高級料亭の代金を支払わせる代わりにユフィーリアと妻である樟葉くずのはへ通報するのは止めようという結論に至ったのだ。


 コソコソと集合した男子3名は、



「え、どうしますか? 話した方がいいですかね」


「絶対にその方がいいよね!!」


「八雲のお爺ちゃんと揉め事を起こしてぇ、ユーリのことだから湯煙温泉郷を壊滅させる可能性もあり得るよぉ。俺ちゃんたちは、ほら、魔法が使えないからよかったけどさぁ」



 エドワードの言う通りである。


 ユフィーリアは自他共に認める魔法の天才だ。星の数ほど存在する魔法を手足の如く操る実力は目を見張るものがあり、あの温泉が密集した領土を壊滅させる程度であれば指先を振るだけでちょちょいのちょいだ。

 他の利用客に迷惑がかかる前に忠告した方がいいだろう。「あそこは八雲夕凪の息がかかっているから、よからぬ冗談に巻き込まれるかもしれない」と。


 よし言うか、と3人揃って頷いたところで、



「あ、でもこれ3人分だな」


「おねーさんたちは2人よネ♪ 誰か1人お誘いすル♪」


「湯煙温泉郷って確か極東地域にあったよな?」



 ユフィーリアは綺麗な笑顔で、



「じゃあ、樟葉くずのは姐さんも誘うか。極東地域に1番詳しいのはあの人だろ」


「あら素敵♪ 樟葉さんも喜ぶワ♪」


「もしかしたら湯煙温泉郷にも詳しいかもしれねえからな。女3人旅ってことで楽しもうぜ」


「最高ネ♪」



 雲行きが変わった。


 ユフィーリアとアイゼルネによる用務員の女性組だけかと思えば、そこに八雲夕凪の妻である樟葉くずのはが加わる話になったのだ。

 これはもしかすると、湯煙温泉郷の被害は最小限に済むかもしれない。主に八雲夕凪が被害を受けるだけだろうが、湯煙温泉郷の他の利用客にも迷惑が及ばないのであれば、あのクソ狐1匹を犠牲したところで何も思わない。


 ユフィーリアは3人で集まるショウたちの存在に気づき、



「どうした、3人で集まって。何を話してたんだ?」



 不思議そうに首を傾げるユフィーリアに、ショウたちは清々しいほどの笑顔で応じた。



「温泉は『さくら屋』ってところがお勧めだよぉ。温泉の種類が湯煙温泉郷の中でも最も多いって言ってたからねぇ」


「その近くにあったお蕎麦屋もお勧めだよ!! お昼に食べてみてね!!」


「ぜひ露天風呂の『星空の湯』は体験してほしい。お風呂が広いし、お金を払えばお酒や冷たい食べ物を持ち込めるからとてもいいぞ」



 とりあえず高級料亭での件は話さず、3人は自分たちがいいと思った施設をお勧めしておくことにした。





 そして湯煙温泉郷に日帰り旅行へ出かけたユフィーリアとアイゼルネが「お土産だ」と称して持って帰ってきたのは、真っ白な狐の尻尾が3本だった。ちょっと血もついていた。

 翌日からしばらく八雲夕凪の姿を見かけなかったが、次に植物園で姿を見かけた時にところどころ毛皮がないというボロボロの状態だった。


 もう何があったのか明白である。

《登場人物》


【ショウ】湯煙温泉郷の日帰り旅行を満喫してきた。高級料亭での出来事は話していない。貰った狐の尻尾は狐割烹着メイドとして再利用しようと目論む。

【エドワード】湯煙温泉郷の日帰り旅行を満喫してきた。女性陣が日帰り温泉旅行に出かけた時は昼間に焼肉食べに行った。狐の尻尾はいらないのでハルアにあげた。

【ハルア】湯煙温泉郷の日帰り旅行を満喫してきた。貰った狐の尻尾は抱き枕に活用する所存。男子3人組の結束が強くなって嬉しい。


【ユフィーリア】湯煙温泉郷に旅行したら高級料亭で「焼いて食ってしまおう」という話を盗み聞きし、食えるものなら食ってみろと高級料亭の部屋をぶち壊した問題児筆頭。そのあと、土下座しながらやってきた八雲夕凪のケツから尻尾を3本も引き抜いた。

【アイゼルネ】高級料亭で「遊廓に売り飛ばそう」という話を盗み聞きし、おねーさんそういう運命なのかしらと半ば絶望した元娼婦。冗談だと分かってから八雲夕凪の毛皮をぶちぶちと毟った。

【樟葉】まさか旦那がこんな冗談をやるとは思わなかった良妻さん。現在、離婚を考えている。


【八雲夕凪】女性陣つおい。

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― 新着の感想 ―
[良い点] やましゅーさん、こんにちは!! 新作、今回も楽しく読ませていただきました!! ショウ君たちに財布をすっからかんにされた上に返り討ちに遭ったのに、懲りずにユフィーリアさんたちに嫌がらせを行…
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