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ヴァラール魔法学院の今日の事件!! 〜名門魔法学校の用務員は異世界から召喚したヤンデレ系女装メイド少年に愛されているけど、今日も問題行動を起こして学院長から正座で説教されてます〜  作者: 山下愁
第19章:ねこねこ☆大騒動〜問題用務員、猫化事件〜

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第4話【問題用務員と小試験】

 そんな訳で、練習した動物言語学のお披露目である。



「イゾルデさん、B判定です。よく勉強していますね」


「ホーンさん、C判定です。もう少し頑張りましょう」


「オリエンティアさん、E判定です。何を勉強しているのです?」



 あの女性教師、なかなか手厳しい判定を生徒たちに下すものだ。

 いいや、正確には使い魔が猫の生徒だけにやたら厳しい判定を下している。犬や梟などを使い魔とする生徒が動物言語を披露すればA判定が多く飛び交うのだが、猫の場合だとB判定が最高である。


 リタは緊張した面持ちでユフィーリアの頭を撫で、



「あのね、ハロウィット先生は使い魔が猫の時だと判定が厳しいの」


「にゃあにゃ」(まあ、そりゃそうだわな)



 ユフィーリアが今まで聞いていた猫語は、どれもこれも拙いものばかりだ。それだけではなく、リタに叩き込んだ礼儀作法すらなっていない連中ばかりである。

 礼儀作法の手順は今や必要ないのかもしれないが、猫の魔法動物が相手では3回殺されているような言葉遣いが次々と飛んでくるものだ。特にE判定を受けたあの女子生徒は「お前を毛皮にしてやろうか」という言葉が初っ端に飛んできたから、最低評価を叩き出す始末である。壊滅的に動物言語学が向いていない。


 呆れた様子で授業風景を眺めるユフィーリアは、



「にゃあにゃにゃ、にゃにゃーんにゃ」(まあ大丈夫だろ、アタシが教えたことをきちんと意識してりゃ間違いねえ)


「う、うん。ありがとう、ユキちゃん」



 リタは緊張した面持ちで、



「ユキちゃんは物知りだね。私の知らないことをいっぱい知ってる」


「にゃー……」(そりゃなァ)



 泣く子も黙るどころか裸足で逃げ出す悪い評判の高い問題児筆頭様が、猫の姿で大人しく授業を受けているなんてことが考えられない光景である。もう退屈すぎてしゃーないのだ。

 こんな退屈な授業など2度と協力しない。退屈なものはぶち壊した方がいいのだ。


 女性教師は蛇を使い魔とする生徒に「A判定です、よく頑張りました」と評価を下してから、



「次はアロットさん」


「は、はい!!」



 リタの名前が呼ばれ、彼女は慌ててユフィーリアを抱きかかえて前に進み出る。


 ユフィーリアは使い魔用の台座に乗せられ、少し距離を置いてからリタが教科書を片手に立つ。その表情はガチガチに固まっており、初っ端から碌でもない間違いをやらかしそうだ。

 実に心配である。本当に大丈夫なのだろうか。



「にゃあ、にゃあ」(リタ嬢、深呼吸)


「あ」


「にゃんにゃ、にゃあ」(さっき教えたろ、それを実践すれば間違いねえから)


「うん」



 ひび割れた眼鏡をかけ直したリタは、



「ありがとう、ユキちゃん」


「にゃにゃん、にゃ」(しっかり実践していけ、しっかりな)



 リタは「すぅー……はあー……」と深呼吸をして、教科書を開いた。猫語の部分の文章に視線を走らせて、何かをブツブツと呟いている。喋る話題について考えているのだろう。

 これほど猫語の理解力が高いのだし、練習中にかなり声の高さの調節はした。このあとの行動は彼女次第だ。


 女性教師は「それでは始めてください」と号令する。リタはユフィーリアを真っ直ぐに見据えると、



「にゃ、にゃにゃにゃあ。にゃにゃーん」(こんにちは、私はリタ・アロットです。貴女の名前を教えてください)



 半音上げる声も完璧である。



「にゃ、にゃにゃにゃあ。にゃーん」(こんにちは、アタシはユキだ。お喋りが上手だな)


「にゃにゃん、にゃあ」(ありがとうございます、嬉しいです)



 社交辞令に対する応答も完璧である。教えた甲斐がある。


 さて次は世間話だ。

 どんな世間話が飛んでくるだろう。ユフィーリアが問題児だということがバレないようにしなければならない。



「にゃんにゃにゃ」(今日はいい天気ですね)


「にゃあ」(そうだな)


「…………」


「…………」



 会話が見事に続かない。驚くほど続かない。

 リタの方も何故かモニョモニョと落ち着かない雰囲気だし、天気の話題で終わってしまった。このまま無言の状態が続くと碌な判定は貰えないだろう、彼女の成績にもいくらか影響はありそうだ。


 仕方がない。協力すると言った手前、リタに悪影響が及びそうな真似はしないでおこう。あとで彼女にも盛大に協力してもらう予定なのだから。



「にゃんにゃ、にゃあにゃにゃん」(リタ嬢、最近発売された『新訳・魔法動物全集』はもう読んだか)


「にゃあにゃ!!」(はい、読みました!!)



 凄い食いつきである。ひび割れた眼鏡の向こう側にある彼女の双眸も爛々と輝いていた。



「にゃにゃにゃ、にゃあにゃにゃあにゃむ、にゃむにゃんにゃにゃんにゃーにゃにゃ」(さすが新訳というだけあって、絶滅してしまった魔法動物も掲載があったんです。他の図鑑を見ても載っていないのに、魔法動物全集は現存する魔法動物だけではなく絶滅してしまった魔法動物まで多く掲載されていて)


「にゃあにゃんにゃ、にゃんにゃ」(随分も魔法動物が好きなんだな、リタ嬢)



 ユフィーリアに指摘され、リタは恥ずかしそうに頬を赤らめた。魔法動物全集の話題でここまで熱く語れるのだから、よほど魔法動物の勉強がしたいのだろう。

 彼女には魔法動物関連の才能がある、とユフィーリアは推測している。ユフィーリアが普通に猫語でベラベラと話をしていても彼女は言っていることが理解できたし、ユフィーリアが変身してしまった猫の種類もピタリと言い当てた。1年生でここまでの実力があるということは、ヴァラール魔法学院に入学する以前から魔法動物の勉強をしていたのだろう。


 リタは恥ずかしそうにはにかみ、



「にゃあにゃにゃ、にゃんにゃ」(実は、両親が魔法動物の研究をしているんです)


「にゃにゃ?」(へえ?)


「にゃんにゃにゃ、にゃあにゃん、にゃむにゃなおーん」(両親が魔法動物の研究をしている姿を見て育ったから、自然と魔法動物の言葉を聞くことが出来たんです)



 リタは「にゃあ」と鳴くと、



「ふなーお、なおーなおー、にゃおにゃんにゃ」(両親の研究していることをもっと理解したいから、私はここに来たんです)



 真っ直ぐな意思だ。

 やりたいことが確立していることは面白い。苦手なことを克服するのも時には必要と思うが、得意なことをさらに伸ばしていくのは素晴らしいことだ。


 だからこそ、ユフィーリアは年長者として背中を押してやる。



「にゃんにゃあ」(出来るさ、リタ嬢なら)



 いつかその夢が実現した時、最高に面白いことが待っているだろう。

 どうせただの世間話だ。記憶が風化すれば忘れてしまうような授業のほんの一抹の出来事であり、覚えている必要はない。墓場まで持っていって、ふとした拍子に思い出すだけがちょうどいい助言だ。


 ユフィーリアは「にゃにゃ」と言葉を続け、



「にゃにゃーにゃ、にゃーにゃん、にゃんにゃーなうなーう」(2年生になったら動物調教学と精神異常系の授業はちゃんと取っておけよ、魔法動物の研究に必要だからな)


「にゃにゃ、にゃーにゃん?」(動物調教学は分かるけど、精神異常系の授業はどうして?)


「にゃにゃーにゃにゃーにゃん、にゃんにゃにゃにゃむにゃー」(希少性の高い魔法動物は精神異常系の魔法をかけられて蒐集家コレクターに売り飛ばされんだよ)


「に゛」(え゛)


「にゃんにゃにゃ、にゃんにゃむにゃーにゃーん」(特に睡眠系魔法は絶対に覚えておけよ、魔法を解除するのに必要だからな)



 希少性の高い魔法動物は乱獲されて売られてしまうことが多い。希少性が高いのだから、剥製にしてでも手元に置いておきたいという馬鹿野郎が多いのだ。

 狩人とかは魔法動物を捕らえる際に罠や睡眠系魔法を使うことが多いので、まずは睡眠系魔法を覚えて解除できるようにならなければお笑い種だ。魔法動物の研究をしたいという彼女の意思は立派なものだが、現実も見てもらわなければならないという場面もある。


 魔法動物に関わっていくのであれば、保全活動も大事だ。というか、おそらくそちらが主体となるのではないだろうか。



「にゃにゃんにゃ、にゃにゃーにゃーんにゃーん」(3年生になったら罠魔法の実践を履修しろよ、罠にかかった魔法動物を助けることに絶対必要だからな)


「にゃにゃ」(は、はい)


「にゃんにゃにゃにゃんにゃ、にゃんなーうなーう」(あと治癒魔法と回復魔法は今からでも遅くないから学んどけ、怪我をした魔法動物の治癒方法も絶対に学べるから)


「にゃにゃん、にゃにゃ」(ず、随分と物知りなんですね)


「にゃーにゃ」(そりゃお前)



 ユフィーリアはあえて大胆不敵に笑うと、



「にゃーにゃんにゃにゃ」(伊達に長く生きてねえからな)



 そこで、女性教師に「そこまで」と終了を告げられる。



「アロットさん、S判定です。完璧ですね」


「ええ!?」



 リタは驚いていた。眼鏡の向こうにある瞳も零れ落ちんばかりに見開かれている。



「猫の使い魔相手だと半音上げて喋ることが普通なのですが、アロットさんは上手に出来ていました。文句なしのS判定です」


「あの……その、ありがとうございます……!!」


「猫を使い魔とする皆さんはアロットさんを見習ってくださいね」



 パラパラとした拍手がリタに送られる。

 教えたのはユフィーリアだが、最終的にその教えを信じて実行したのはリタの判断だ。彼女の知識にもなっただろう。いいことをするのは気持ちがいい。


 台座に乗るユフィーリアは「ふん」と鼻を鳴らし、



「ふにゃにゃ、にゃーん」(ほら見ろ、だから言ったろ)


「うん、うん!! ユキちゃん凄いよ!!」



 リタはユフィーリアを抱き上げると、



「ありがとう、ユキちゃん。おかげで初めてS判定が取れたよ……!!」


「にゃーあにゃん」(それじゃあリタ嬢)



 さて、成績上昇にも貢献できたことだし、次は彼女がユフィーリアに貢献してくれる番だろう。

 最初に言ったはずだ。ユフィーリアに協力する代わりに、ユフィーリアも動物言語学の授業に協力してやると。これは互いの利益で動く契約なのだ。


 授業でこれだけ貢献すれば、どんなことを言っても協力してくれることだろう。心優しい彼女からしてくれるはずだ。



「にゃにゃーんにゃ、にゃあにゃあ」(今度はアタシに協力してくれるよな、リタ嬢)



 人間の姿だったら絶対に悪い顔をしている、とユフィーリアは思った。

《登場人物》


【ユフィーリア】若者の夢や目標は基本的に笑わない魔女。必要であれば進路相談にも乗るのだが、その側面は生徒に関して発揮されることはほとんどない。おそらくリタが初めてかも知れない。

【リタ】両親の研究を手伝いたくて幼い頃から動物言語学を勉強してきた。魔法動物が好きで、将来は魔法動物の保全活動に従事していきたい。ユキちゃんは色々物事を知っているから、今後も進路関係を相談したい。

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