七話 仲間求める少女
「むぅ……。これで七回目。加入して二十秒とは最高記録ですね……、今日は諦めるしか……。いや、次で最後にしよう」
「確認が完了しました。こちらが報酬金となります。お疲れ様でした」
受付嬢さんから六千ジルが渡されたが、自然な流れでそのままアイシャの皮袋へと吸い込まれていった。足を引っ張っていたのは確かだが、千ジルぐらい寄こせ。
「さーて、腹が減ったな。なんか食うぞ」
「なんでお前が仕切るんだよ」
「まあまあ気にないで。私が奢ってやるから」
実質、報酬金は俺の金でもあるだろ。
溜息を吐きながら、空いている席にアイシャと向き合って座る。食事も集会所内できるので、なにかと汎用性が高い。
料理は肉系が多く、体力を付ける事を重視した感じだ。味については評判が良いらしい。
「これからどうする?」
「どうするって、今日はもっかい依頼を請けに行くぞ? 私の所持金は三千円ジルになるから。……あ、注文お願いしまーす。スタクトプスの尻尾焼きで」
「あ、俺も同じで」
ん? この料理は二人前で三千ジル、アイシャの持ち金は三千ジルか。そして宿は取ってないが、宿代は平均五千ジル。なるほど、このやろう。
「ところで、宿って取ってあるよね? どこ?」
「残念だったな。この街の宿は満員だ、よって今日は野宿となります。次の依頼終わったら、すぐ道具屋な」
「野営の話、あれ冗談じゃないの? 私はな、宿を確保するためにパーティーに加入したようなもんだぞ? そんな乙女に野宿させるだぁ?」
「こんな悪性新生物が乙女とか笑わせるな。お前を乙女だと認識しないからな。それでも駄々こねるんだったら野晒しだが?」
「悪性新生物は癌だろ」
「野晒しの件は突っ込まないんだな」
会話を遮るように、料理が運ばれてきた。
尻尾焼きだが、尻尾の面影が無い。平たく、ステーキのような見た目をしている。脇には野菜が申し訳程度に添えられている。
肉をナイフで切り、肉をフォークで刺して頬張り、食事を終えて勘定を済ませる。
そのまま流れるように掲示板へと立ちはだかる。
「さてと。手頃な依頼は~……」
「今度は駆除以外で頼む。もう疲れたよ色々と……。あっそうだ、招集用紙剥がさなきゃな」
アイシャに選抜を任せ、招集用紙を剥がしに行く。自作の、現在の気分に合わせて呑気に鼻歌を歌う。
昼時という事もあり、集会所内はやいやいと明るい雰囲気が漂う。そのため、ちょっと鼻歌を大きくしても、たいして羞恥心は生まれない。
板に紙を固定する画鋲を引き抜こうと、左手で紙を押さえ、右手の指で画鋲を摘まんだ時
「あ、あの。そのパーティーのリーダーですか?」
掲示板から真向かいの席から、声が掛かる。
「ほいっ!?」
鼻歌を聴かれたか!?
非常に素っ頓狂な悲鳴を上げてしまった。瞬時に鼻歌を中断し、顔を僅かに赤らめながら声の主に応える。
そこには、アイシャよりは断然華奢な、清楚な少女がいた。透き通るような白銀の髪は、肩の辺りまで伸ばし、均一の長さで切られている。両手には分厚いグローブをはめ込み、ベルトの多いブーツを履いている。
肩の心配がいらなそうな胸部。露出が少なく、ガッチリとした金具で間接部を接合した革の防具を着ている。
落ち着け。断じて第一印象で惚れてはならない。前例がいる。中
身がとてもゲスな奴が。
「そ……うだけど、君は?」
「ぜ、是非私をパーティーに入れてもらえませんか! 古の龍が復活したんですよ! 世界の存続に関わるのです!」
うーむ、どう振り切ろうか。
当の本人はいたって真面目に物事を伝えているようだが……、どう振り切るのが正解かと目を泳がせ、答えにありつく。
「そっか。たった今募集は終わったぞ」
申し訳ない顔を披露して、招集用紙をビリッと剥がし、足早にこの場を去ろうとする。これ以上面倒な奴に関わっていられるか。アイシャ一人だけでも扱い難いのに。
「ああ! 待ってください! 貴方が頼みの綱なんですよ! もう七回も解雇されてるんです!」
「それは性格に問題があるんだろうな。それじゃ」
真面な人相だと思ったが、やはり外観と内観は違うな。改めて痛感した。依頼探しを続行しよう。
何も無かったようにアイシャの下へ行こう……としたが、最後の希望を逃さないように、その少女は両手でロインの片手を掴み、引き寄せようとする。
「……なにをしている? もう一度言うが、募集はもう終わったんだ。他を当たってくれ」
「募集が終わったんじゃなくて、私から逃れようとしてますよね?」
…………。
引っ張られる力に対抗して脚を踏ん張り、出せる力を出し切って抵抗する。
「せめて話だけでも!」
「やめろ! こっちだって現状は辛いんだよ! 厄介者は間に合ってるからあいたたたたたたた千切れるって!」
銀髪の少女は、体格に見合わない力を発揮し、右手と左手を一気にねじった。掴んだ腕を、まるで雑巾を力一杯絞るように。
周りには、この少女を一度受け入れたパーティーもおり、彼女と関わった人々は憐れみの目を向けている。中には、彼女に向けて呆れた表情をする者も。
「頼みますよ、誰も信じてくれないんです……! そうだ私、薬草学検定三級持ってますよ! あと魔法が使えるんですよ魔法! どうですか!?」
「薬草学なんてどうでもいいから離せ……魔法?」
一瞬、力を緩めてしまい、軟化した筋肉が凄まじい速さで、少女が掴んだ部分を軸に、強制的に回転した。それぞれが逆方向に捻られたため、その中間点には激痛がはしる。
「あっ」
「あっだあ!!」
「で、誰だその銀髪は」
「私は古の龍討伐の命を承った、勇敢で優秀なまじゅちゅし、セリスです」
「噛んだ?」「噛んだな」
「屠った怪物は数知れず。自慢の魔法で、怪物の集団を単騎で突破出来る美女、セリスです」
「「……」」
「魔法を使える人材は限られています。魔法が使えるだけで優遇措置されるかもしれません! そんなまじゅつち……まじゅちゅ……まずっ……まじつっ……まっ……」
「「……」」
「……魔法使いをどうぞよろしく」
「諦めんなよ」
魔法使いか。魔法ならルイシュも使っていたな、転移魔法。
使える魔法は人によって変化するらしく、唯一無二の力を具現化する事が出来るそう。仕組みは理解不能、超常現象のようなものだ。
次いでロインとアイシャが自己紹介をし、会話を続ける。
「そんで銀髪、お前は何が出来るまじゅちゅちなんだ?」
「お前も噛むなよ赤髪」
銀髪の少女セリスは、自分の顎に指を添えてしばらく熟考している。思い立ったように、
「口で言うより実際に見た方が早いので、とりあえず街を出ましょう。付いてきてください」
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