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これから始まる英雄譚! ~俺らの異常な冒険者スタイル~  作者: 丸々。
第一章 [異色のパーティー]
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六話 視界眩ますフクレテッポウ 後編

 トカゲは何処だ。何処に隠れていやがる。


 ロインの片手には、ついさっき買ったばかりの、至ってシンプルな剣が握られている。


 怒りに任せて草木を薙ぎ倒し、道を開拓していく。


「あークッソ! 何でこんな目に遭わなきゃいけねぇんだよ! さっさとトケゲを駆除して寝床の確保をしなきゃいけないってのに……。お?」


 少し拓けた場所に来た。いわゆる『ギャップ』だ。その中央には先程と同個体、とは推測出来ないが、ロインに謎の霧を吹きかけたトケゲ、フクレテッポウが寝込んでいる。


 好機……!


 とはいえ、相手は野生動物。気配には相当敏感だろう。今は特別な投擲物や、射撃する物など無い。可能な限り音を発生させない、ことしか出来ないだろう。


 幸い、奴は寝ている。射程範囲内まで接近したら、全体重を乗せてのしかかり、頭を押さえる。そしてこの石で……。


 よし。いくぞ。


 意を決して奴の後ろに回り、ゆっくりと距離を詰める。目測、四メートルと言ったところか。上手くいく、と言う気持ちと失敗出来ないと言う気持ちによって、心臓が高鳴る。


 跳びかかれば、覆い被さる事が出来る間合いまで来た。


 充分に力が込められるように屈み込み……、


「オッラア!」


 この時、俺は完全に油断していた。もっと観察すべきだった。


 フクレテッポウは臆病だ。なのに、ここまで接近しても起きない。足音を完璧に断ってもいないのに、だ。


 俺は、はち切れんばかりに膨らんだ首回りに気づかなかった。奴の胴体ばかり凝視していたからだ。


 跳びかかった時、それは起こった。

 あの、悪夢のような、とても長く感じる時間がやって来る。『オッラア!』というマヌケな叫びが合図であったかのように。


『ブシュッ』

「ぬおおおああああああああ!!」


 もう、冒険者を辞めたくなってきた。最初から踏んだり蹴ったりだ。


 パーティーには地雷が入ってきたし、トカゲに翻弄された。もう田舎に帰りたい。のびのびと暮らしたい。


 家族の顔や村の人々の顔、別枠でルイシュの顔が浮かび上がった。


 ……ここで終われねぇ。俺は決心したはずだ。楽しみにしていたはずだ。この冒険者を。

 

「ドッラア!」

『!?』


 藻搔き苦しむ俺を、愉快そうに観察するクソトカゲに掴みかかる。頭部を押さえ、胴体に組み付く。そして、強く握った剣を……、斬り付けようとしたが、出来なかった。


「やめろぉ! そんな目で俺を見るなぁ!」


 首を回し、一切の濁りがない、黒い宝石のようなたいへん美しい目をロインへ向けた。


 殺めるのに躊躇(ためら)ってしまった。しかし殺らなければ暮らしていけない……。


 いや、別に殺さなくたっていいじゃないか。依頼には植物採取だって、仕事の手伝いだってある。それらをこなして、生活を成り立たせれば良いじゃないか。


 この依頼はもう、失敗に終わらせよう。それでいい。


 そう思い、締め付ける力を緩める。するりと抜け出したフクレテッポウは、不思議そうに振り返り、のっそりとロインへ歩み寄る。


「行けよ。お前はまだ生きていける」


 バカみたいに野生動物に話しかける。端から見たら、関わりたくはない要注意人物だろう。


「またいつか、俺みたいな冒険者が現れるかもしれない。だけどな、その時も逃げのび──」

『ブシューーーッ』


「ヴオオオアアアアアアア!! チクショウメガアアアアアア!!!」


 特別、大量の霧を含んでいやがった。その黄色い霧は、その量に恥じない程長く、広範囲に、扇状に拡散していった。目玉はおろか、全身が覆われる量だ。


「オマエエエエエエエ! そこは逃げ去るところだろうがアアアアアア!!」


 言葉が通じる筈もない相手に、情けなく地面にのたうち回りながら説教をする。


 そんな男にもう用は無いと、土煙を巻き上げ、今までに見せたことの無いような圧倒的な速さを誇る逃走を開始した。


「何でだよ! 良い雰囲気だっただろ! 感動の流れだっただろ!」

「おーい、うるさいぞー。何やってんだ」


 フクレテッポウが走り去った先から、髪の色が赤褐色そうな女性の声が。ズルズルと、何か重い物を引きずる音と共にやって来た。


「アイシャア! あのクソトカゲ……を……」


 充血した目をカッと見開き、アイシャに訴えかける。


 目に映ったのは、鮮やかな赤色だった。自分の目を疑い、しばらくの間硬直する。


 彼女は、二本の尻尾を肩に乗せ、二つの肉塊を引きずってきたのだ。恐らく、肉塊のものであろうその返り血を全身に浴びながら。


 その凄惨な光景は、一体何があったのかを問い詰めたくなるような、しかしその過程は耳に入れたくないような、そんな複雑な気持ちを掻き立てた。


 そして右腕の先には、ロインを翻弄したフクレテッポウが、戦意喪失したようにぐったりとしている。


「なんだ? こんなヤツに手こずってるのか?」

「あ……はい。面目ないです……」

「おう、そうだな。これなら私が六千ジルでも文句はないね?」


 肉塊を肩から地面に降ろした際、ドスッという鈍い音を出し、この空間に広まった。


 血まみれのまま、彼女は腰に携えた革の鞘から、これまた血塗れのサーベルを抜いた。俺が狩られる筈は無いと思いながらも、恐ろしい。


 ……次は、何の依頼にしようかな。


指摘、感想等が御座いましたら、誰でもお気軽にコメントをして下さい。



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