小話 便利アイテムの裏切り
「…………まだ、痺れる?」
「ああ。おういてはっへいはえひうんはは、へあひはうおははい。わいっはな」
「なんて?」
荷車に揺られる俺。荷物を端に寄せて、出来上がった僅かな空間に収納されている。この年でお姫様抱っこされるだなんて、とんだ屈辱だった。しかも相手は漢、いっそのこと殺せ。
テグテグとの激戦は、効果音を感知しても何がどうなっているのかは想像で補うしかなかった。
限られた情報の継ぎ接ぎで理解出来たのは、決め手は店主さんの狙撃であったこと、ロンゴがまたホールインしたこと、例の魔法を乱射したことである、
「なあ、なんで二人はキノコの胞子に触れても麻痺しなかったんだ?」
「うわ急に饒舌に……あのキノコは麻痺性のある毒があってね、刺激を与えると毒霧が噴出するのよ。森人には耐性があるんだけど、鬼人は分からないなぁ」
「相棒、気合いと根性と筋肉があれば、不可能は無いぜ?」
「ああ……うん?」
三つとも絶妙に必要性のあるモノだから、突っ込もうにも突っ込めない。妙に説得力があるから腹が立つ。
「……さて、もうすぐ到着だよ。粗相を起こさないでね? 評判がだだ下がりするから」
「その前に、オレらを見たら意気阻喪するかもな」
「不衛生な鬼人がいる時点でこんなの訴訟モンだろ」
「二人とも、やかましい」
それなりに大きな村へやって来た。木製の柵で外周を囲っている、言わば農村のような所。畑に農作物が植えられ、背景には棚田が造られている。
大自然と隣接する住居を眺めていると、地元のエルメンの村を彷彿とさせる。
……たまには帰省しようか。
「じゃ、オーガくんはここで待機ね。終わったら戻ってくるから、彷徨かないようにね」
「……は? おいおい、そりゃねぇぜお嬢ちゃんよぉ! オレだけ除け者扱いかぁ? 鬼人だからいけないってか?」
「いやそうじゃなくて、唾液塗れの商人が配達しにきた商品なんて、普通、買いたいと思う? 鬼人とか関係なしに」
「思うわけねぇだろ、常識的に考えてよぉ」
「でしょ?」
以上の内容により、ロンゴは人目に付かない木陰に独りで待機させられた。
予約注文されていた商品は、一つ残らず売り捌けた。大半は作業用の道具やらなんやらで、欲しい人は保存食や娯楽品、生活用品を買っていく。
中でも、一番最初に売り切れた便利アイテムは、『キマイラの翼』という商品。
高価な部類ではあるが、値段に恥じない高性能。翼状にの道具で、空に掲げて目的地を念じるとひとっ飛び出来る優れもの。一度に五人プラスαという制約はあるもののそれに劣らない能力だ。
欠点、と言うより難点としては、入手方法である。
素材となる羽の入手難易度もそうだが、そもそも加工出来る人材が限りなく少ない。一国に一人居るか居ないか程。
当然、流通ルートは限られているし、そもそも明るみに出る事自体が少ない。
買い占めて、それを転売する者が大半で、闇取引等に使われるとかなんとかという……。
……というホニャララがあり、生産数が極めて少ないので、一般人の手にはまず渡らない。
だがこの店主さんは、それなりの在庫を蓄えていた……。これが意味する裏事情は、明かされないだろう。
「……もしかして、これって密売───」
「君、キマイラの翼を売られた事は、秘密だよ?」
おお、怖い。
目的は達成出来たので、無気力に呆けている鬼人を捕まえて、エルメス城城下町へ。
「ここに最後のキマイラの翼があるから、せっかくだし体験してみる?」
「お? お嬢ちゃん、なんだその扇?」
「まあまあ、いいからいいから」
三人で手を繋ぎ……いや、ロンゴだけは木の枝を介して繋ぎ、店主さんは雲が流れる天空に翼を掲げる。
「いくよ? 絶対に手を離さないでね?」
「了解!」「合点承知!」
「……そりゃ!」
「……ベックソイ!!」
「「えっ」」
鬼人がくしゃみをすると、二人と荷車は青白い光に護られ、渦に飲まれるように姿を消した。くしゃみをしたロンゴは、その反動で木の枝を離し、店主さんとの導線を切断した。
この展開が何を意味するか。それは咲き乱れ、散りゆく桜のように儚く、青春時代の白昼夢のように後戻りが叶わない、単調で単純な、一時の別れであった。
「…………………………えっ」
そよ風に吹かれ、哀愁漂う赤き人。そこに居残るは、仲間一味ではなく、迂闊であった己のみである。
─隠れた雑貨屋前、裏路地─
「「……………………」」
無事に帰還した二人と荷台。外的損傷はなく、今現在の事件に対して、ただただ呆然としている。
「……まさか、ロンゴ置いてった……?」
「…………オーガくん……直前に、手を離したよね……?」
「……ああ」
「どうしよう! もう予備なんて無いよ! また迎えに行かなくちゃいけないじゃん!」
「ロンゴだから、きっと大丈夫だ。明日には帰ってくる。何故だか知らんが、そんな確信ができる」
「そんなことないでしょ───、やっぱあり得るかも……」
考えてもどうにもならない事柄には、これ以上考えるのを止めた次第。
今頃は、爆速で帰路を急いでいるだろう。
「……おっ? 後輩たち、どこ行ってたの?」
「あ、お帰りなさい……あれ? ロンゴはどうしましたか? 一緒にお手伝いに出掛けたと聞いたのですが……?」
キマイラの翼を使用した効果の、青白いエフェクトに反応した二人、いつの間にか留守番をされていたセリスと、自由奔放なアイシャが、雑貨屋の窓から首を出した。
「ヤツはまぁ……勇敢な戦士だったよ」
「死んでないから! まだ生きてるから! 君のメンバーなんだから、大切にしてあげて!」
後日、期待を裏切らず予想通りに帰ってきた鬼人は、死に物狂いで、怪物たちの強襲を蝶のように掻い潜り、千里を駆けたことを訴えた。
『キマイラの翼』の恐ろしさを知ったらしい。
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