四話 本性みたり
アイシャとの会話の中で、敬語を使う必要は無いと伝えたが、本人はこれでいい、とのこと。なんでも、
「以前に加入していたパーティーで、『性格に難がある』と忠告されてしまって……。今は印象だけでも、と一生懸命丸くなろうとしている最中なのです。」
という訳らしい。
と、ここで調子に乗った俺は、何の躊躇もせずに失礼な事を聞いてしまう。
「ところで、随分若く見えるけどおいくつです?」
完全なる地雷。しかし彼女は、機嫌を損ねる事無く、
「じゅ……十八です」
少し驚きながらも、快く答えてくれた。いい人すぎる。
「年上なんですね。俺は十六ですよ」
「えっ? 年下……?」
「え? お、おう……」
なんか不穏な空気が流れ始めた。それは、彼女の方から感じる。
「……年下かい」
(!!!??)
フッと鼻で笑いながら放たれたその発言は、今まで彼女から感じ取った清楚可憐な印象、下手に出るお淑やかな性格である、という印象を吹き飛ばすには充分すぎた。
どことなく、ついさっきまで潤い、輝きのある眼が消え去り、悪しきモノに浸食されたかのように、妖しく光る。
一体全体、彼女の身に何が起きたのかが理解できぬ内に、彼女の口から第二波がやって来る。
「てことは先私は先輩か。いやー、まさか年下相手に下手に出ていたとはねー」
刹那、ロインの脳裏に、先程の『とある』一文が過る。
────『性格に難がある』
なんということだ……っ!!
人間というものはこうも豹変するものなのか。人間というものはこうも恐ろしいものなのか。
以前にこの娘を迎え入れたパーティーが、この娘を追放した理由を垣間見た。こやつ、格下だと分かった途端に人を見下すのか。
もしかしたら、恐ろしいのはこれだけではないのかもしれない。
「もう堅苦しい会話なんて野暮だなこりゃ」
……いや、考えるのだロイン。
初対面では常に無礼の無いように、という俺の中の固定概念を崩してしまえば良い。相手を変えるのではなく、自分が変わるのだと……! ならばこっちだって遠慮はいらない。敬いも無しだ。
「どっちが上とか下とか、そんな区別は無しにしよ! 後輩くん!」
「後輩って呼ぶな? こっちはリーダーだぞ?」
「おーおー言ってくれるねぇ後輩くん?」
彼女は、さっきまで膝の上に乗せていた手を、机に片肘をついて乗せていた。
恐らく、彼女は過去に何度も『個別で解雇』されているのだろう。可哀想に。
「後輩くん」
ここで追い出しても、絶対に他のパーティーで荒らすだけだ。確信できる。となると、これ以上の被害を食い止めるには、もう加入を許可するべきだ。
「おーい、後輩くん」
今の俺はリーダー。パーティーの中枢的存在。そしてこの迷走している子羊を受け入れるのだ。
「こうはーい?」
「しつっこいな! 何だ!」
「なんか依頼とか受けてないの? 一緒に行ってあげようか? 後輩っ」
「あるぞっ! フクレテッポウ四匹の駆除っ! 六千ジル! 行くかっ!?」
「行くぞっ! 今すぐだっ!」
「ノリ良いなっ! 接しやすくていいぞっ!」
「場所は何処だ! 簡潔に言えっ!」
「郊外の農家周辺!」
自棄になって、ドンと机を叩いて席を立つ。そのまま集会場の出入り口へと向かい、扉を開く。
かくして、この厄介娘を迎え入れることになり、まだ第一の人員というのに既に賑やかすぎるグループとなった。
彼女は紛れもなく美人だ。それだけは認める事実である。ただし、その代償が、この問題だらけのドン底の性格である。
相手が格下だと知った途端、海水を得たマグロのように活き活きとし、陸に上がったマグロのように荒らしまくる。それはたとえ、相手がリーダーだとしても。
何度溜息を吐いたことか。何度堪忍袋の緒が音を立てて千切れたか。その間、十分も過ぎていない。
積み重なる不安とイライラを耐えしのぎ、語尾が『後輩』と成りつつあるアイシャを背に、俺は冒険者として、グループとしての最初の任務へと向かった。
「なあ後輩」
「うるせえ」
「……武器、無いの?」
「……。あー……、野宿の準備って、幾ら掛かる?」
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