三話 最初の仲間、清楚可憐な女性
しばらく現実逃避するべく、酒場のような雰囲気を醸し出す集会場へ、再びやって来た。
因みに、持ってきた荷物は集会所付近の、人目に付かない裏路地に隠してきた。
「さてと、請けられる依頼は……」
例の掲示板の前で脚を止め、舐め回すかのように依頼を探す。もちろん、自分の階位に合うものだ。
依頼が載せられている紙には、対象となる怪物の絵画とその名前、受注可能階位、報酬金、一部の依頼には関連場所が直筆で書かれていた。
閲覧して気付いたのだが、同じ階位でも、その中で更に区別がされているらしい。自分が属している”緑位”においても、二つに分かれている。星印の個数の違いだ。
総合的に見ると、緑色の星が一個の物は、基本的には採取や作業の手伝い等。二個の物は討伐等の依頼であった。
緑位より上位の依頼になると、青位では青い星が三個と四個。赤位では赤い星が五個と六個、という具合になる。
星の個数は恐らく、難易度であろう。そういえば指南書を読んでないな。まあいいや。気が向いたらで。
改めて依頼を選抜する。今の自分は無駄に高望みしているため、星が二個の依頼を請ける。星が一個の物はやってられるか。地味そうだし、時間がかかる。はず。知らんけど。
「うーん……うん? え? ゴブリンって赤位なの!?」
嘘だろ? 知らなかった。被害がないとはいえ、エルメンの村付近にもゴブリンはいた。だが、ちょっと威嚇したり、火を焚くだけですたこらさっさと逃げ帰っていった。
そんなゴブリンが赤位……。あと二つも階位を上げなきゃ請けられないだと……。
世間のゴブリンに対する評価が把握でき、僅かに驚嘆した。
それにしても、緑位の依頼が多いな。再度、依頼を選ぶことに専念して、複数の候補からようやく一つに絞り出せた。
「これにしよう」
掲示板から剥がしたのは[フクレテッポウ三匹の駆除]が目的となる依頼。
この名前からは想像も出来ないが、紙の上半分に描かれた絵を見ると、正体はつぶらな瞳が可愛らしいトカゲである。
説明欄には依頼主とその居場所、並びに報酬金が記されている。報酬金は六千ジルだが、[三匹駆除した場合のみ]という添え書きがある。期限は二日以内。
依頼を決めたので、では申請しようと受付に向かう。もちろん、一番左側の窓口だ。ついさっき会話をしたばかりなので、緊張感は薄れる。
「この依頼を請けたいんですけど」
「はい、では……あら? あなた、先程の方ですね! 早速初任ですか?」
屈託のない営業スマイルとはいえ、心が癒される。まだ何も働いてないけど。
「今日は用事が無いので、冒険者にも早く慣れておこうと思いまして」
「初々しいですね。でも、会話はあまり下手にならない方が良いですよ? 私には勿論、他の冒険者さんにも、です。嘗められてしまったりしますし、相手としても話しづらいですから」
「そ、そう? そうか……」
うーむ。意識していなかったが、下手に出ていたか。まあ仕方ないだろう。なんせ非行に走る事無く、良い子に育ってきたのだから。
彼女は受け取った紙に赤い判子をポンと押し、こちらに手渡した
「ではお気を付けて。頑張って下さいね!」
準備は整った。
さて、冒険者としての第一歩だ! 気合い入れていこう! ……と思ったが一人だと寂しい。それに、もし重傷を負った際に背負ってくれる仲間が欲しい。
と、言う訳で招集を始めた。招集用紙を貰い、各項目に記入を始める。
[求める人材]には[誰でも歓迎]と書く。
[現在人数]には[男一人]と書く。
[集合席]には、[招集用席1-3]と書く。
招集用席とは、集会場の片隅にある専用席。1-1から1-3、2-1から2-3まである。一階に1-1から1-3、二階に2-1から2-3の席がある。
グループの創設者はリーダーとなり、そのグループの責任者となる。
自由に借りられる羽根ペンを元の位置に戻し、完成した紙を、招集用掲示板なる板に貼り付ける。
なんでもかんでも『招集用』なんだな。
創設したグループの希望者が来るまで、1-3席で待つ。
[1-3]と書かれた立て札が設置された長方形の机に、二つの長椅子。対面できるように、机を挟んでいる。
そういえば指南書を貰ったな。今の内にある程度読んでおくか。
受付嬢さんに教えてもらった項目は飛ばして読み漁る。
冒険者への評価に繋がるので粗相は起こさないこと。使用した物資は持ち帰ること。必要以上に自然を荒らさないこと。集会場本部からの依頼の報酬金は受付にて、証拠品を見せてから受け取ること。
特に関心は無く、いろいろ書いてあるな~とか、どんな人がくるんだろうな~、綺麗な娘が来ないかな~などと思いながら数分が経った時。
「あなたがこの招集用紙のリーダーですか?」
「お?」
指南書と睨めっこしている自分宛に、声がかかった。それもなんと女性の声。
驚いて顔を上げると、そこにはスラッとした体型の、若い女性が。
キリッとした眉に赤い眼。凜々しくシャープな顔立ちをしている。赤褐色の髪は後頭部の一カ所に結ばれ、肩の高さで垂らしている。極めて動きやすそうな、しかし肌の露出は少ない服装で上下を隠し、茶色いブーツを履いている。
腰にはやや分厚い革のベルトを装着し、右腰に大小二つのポーチを掛け、右腰には、これまた大きな革製の鞘が着けられている。
「今も受け付けてますか? 私、加入しても?」
「あ、ああ、勿論! 大歓迎だよ!」
予想外の展開となった。まさか女性、しかも美人さんが来るとは! しっかり者そうだし、腕が立ちそうな人だ。
おっと、確か受付嬢さんは『敬語は使わない方が良い』と言っていたな。意識しなければ。
「ありがとうございます。私は『アイシャ』。階位は緑位。よろしくお願いします」
「俺はロインだ。階位は同じく緑位。まだ冒険者になったばかりの田舎者だけど、こちらこそよろしく!」
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