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これから始まる英雄譚! ~俺らの異常な冒険者スタイル~  作者: 丸々。
第一章 [異色のパーティー]
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プロローグ 旅立つ前から不安だが






 とある村にて。


「……南です。南に進むのです、ロイン様」


 村の中心部。木製の扉、上部に存在感を掻き立てる十字架が掲げられた、いわゆる『教会』内で、金髪のロングヘアを垂らした修道女が、黒髪の男性にお告げをしている。


 神聖な雰囲気溢れる協会内、祭壇の向こう側には光を透き通す、竜らしきものが描かれたステンドグラスがはめ込まれている。


 修道女は通り抜ける光を背に、真っ直ぐに見つめてくる黒髪の男性『ロイン』を前に話を続ける。


「南方のエルメス城に向かうのです。あなたの使命は、冒険者となりこの世界を守ること。この先、様々な困難が貴方を陥れるでしょう。しかし、諦めてはなりません。」

「ありがとうございます。一つ、伺いたいことが」

「かまいません。如何なる疑問もお答えします」


 ……。


「ここは何処でしょうか?」

「はい、ここは大陸北方のエルメン山脈に囲まれ、怪物被害のないのどかな村、エルメンの村です」

「エルメス城は何処でしょうか?」

「はい、南方に進み、山を越え谷を越えオルイン樹林帯を越え、コルット平原を越えた先にあります」


 ………。


「どれほど離れていますか?」

「はい、直線距離ならばおおよそ746キロメートル程です」

「俺……いや、私は何処に向かうのでしょうか?」

「エルメス城で御座います」


 …………。


「理解しました。それは誤ったお告げはありませんか?」

「神のお告げに間違などありません。さあ、旅立つのです。ロイン様」


 ………………。


「一つ言わせて下さい。私は魔法はおろか、剣術すら身についていません。才能の一つもない私が、そのようなことが出来るとは到底思えません」

「天命を信じなさい。もっと言うと、私を信じなさい」


 …………………………。


「……先日、俺……私は、スライムに足を滑らせて、半日気絶しました。それでも、ですか」

「そうです……えっそうなのですか?」

「はい」


 ………………………………。


「では、こちらのつるぎを受け取って下さい」


 修道女さんは、祭壇から一本の剣を引っ張り出した。そんなスペースはない筈なのに。


 受け取ったつるぎを鞘から抜く。


 錆びに錆びている。柄の滑り止めもほつれている。


「いやでも……」

「行きなさい」


 ロインは、少し苛立った声色になった修道女の心情を察して、教会を出た。


 ここ『エルメンの村』では、十六歳となった若者は教会でお告げを受け、そのお告げに沿って行動を起こせば、ある程度は人生が保証される、という風潮がある。因みに修道女のお告げは本物らしい。


 この日はロインの十六歳の誕生日。幼い頃から英雄に憧れ、村に残っている作り話を聞いては、より英雄に憧れるようになった。しかし、外界の情報が僅かしにしか伝わらず、頼りになるのは帰省した村人や旅商人ほどである。


 教育は受けていたが世間に疎い状態で育ったロインは、旅商人に英雄の話を尋ねては、この世界で広く知れ渡る職業、『冒険者』についてに知識を増やし、将来は冒険者になると硬く決めていた。


 当初は格好いいから、強くなりたいから、人々を守りたいから等の純粋潔白な少年の心を理由に冒険者を夢見ていた。


 が、歳月が過ぎるにつれて、人気者になりたいから、ちやほやされてモテたいから、楽に儲けられそうだから等、あの純粋無垢な清い童心は何処へ行ったのか、と聞いてみたくなる程の不純な動機が芽生え、粗悪な倫理観が出来上がった。

 

 そんな彼は、人生の大半が決まる行事をたった今済ませたばかりである。浮かれない顔をしながら扉を開いたロインの目の前に村人が群がってきた。


 そのうちの一人、口周りから白く立派な髭を生やした老人がロインに話しかけた。


「結果はどうじゃ? 光は見えたかの」


 光を見させてください。更に自分の母と父が


「良い結果でも悪い結果でも、最後まで貫き通すのよ!」

「父さんはいつでもお前を応援してるからな!」


 と言ってくる。正直絶望した、なんて言葉を押し殺して


「南のエルメス城の城下町を目指すことになった」


 とだけ応えた。嫌だなぁ遠いなぁ行きたくねぇなぁ……。確かに、冒険者に成るためには繁盛した街に出向く必要がある。だが、あんなに遠いだなんて聞いてない。


 746キロメートルってふざけているのか。746キロメートル。くそが。


「なるほどの。では明日になったら城下町まで送ってやろう。しっかり準備しておくんじゃぞ」


 えっ明日? それに746キロメートルを徒歩で行くなんぞ正気の沙汰じゃない。それに外には怪物がいるときた。


 この村を見渡しても戦士だとか戦闘向きの魔法使いだとかがいる気配がない。準備もくそもあるか。だが世話になった皆の期待を崩す訳にはいかない。気持ちを切り替えていこう。

 

 もう一生分の746キロメートルを心の中で復唱したよ。


 次の日の朝。目尻が垂れたロインが荷物をまとめて部屋を出る。大きなリュックサックに一通りの生活用品や携帯食料を詰め込み、財布代わりの布巾着を腰にくくり付けた姿で玄関まで歩き、ドアを開く。


 両親と共に村の出入り口にある木のアーチの元へと向かい、城下町に着いた後の事について考える。

 まず目指すは集会所だ。ここで冒険者登録を済まし、依頼を達成させお金を得られる状態にしておく。それから宿屋も探さなくては。武器も調達してそれから……。


 なんだ、次々と計画が立っていくではないか。こんな結果になったが、心の底では楽しんでるじゃないか。


 色々と妄想していると、出入り口に着いた。そこでは村長と修道女と、その他の村人が集まっている。


「おはようロイン。昨夜はよく眠れたかの?」

「おはようございます。ロイン様」


 見送りでもされるんだろうな。こんなに人がいたらどのタイミングで別れ際に手を振るのを止めればいいか分からなくなるじゃないか。


「では早速始めるとするかの。ルイシュ、頼んだぞ」


 ルイシュ? ルイシュって誰だ? そんな名前聞いたことないな……。


「はい、村長様」


 あんたの名前かよ修道女さん


「……転移魔法テレポート!」


 ちょっとまて、転移魔法テレポートってなんだ。


 修道女もといルイシュの足下から、半径二メートル程の、薄い紫の光を放つ魔方陣が突然現れた。


「さあロイン様、こちらへ」


 ルイシュに促されて魔方陣に足を運んだ。もう訳が分からない。急に修道女の名を知り、空間転移の魔法を初めて知ることとなった。魔法自体は認知していたが、まさか空間転移が出来るとは……。何故誰もこんな便利な魔法を教えてくれなかったんだ。


 唐突な発見がこの期に分かり、かなり複雑な心境に陥ってしまった。


「それでは送ってまいります」

「え……と、よろしくお願いします……」


 足下の魔方陣が強烈な光を放ちだし、そのまま二人を包み込み、村人らの援助の声を浴びながら、次の瞬間には二人は姿を消していた。



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