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英雄になれなかった鬼

作者: 岩田良永

始まりは、あの()との出会いだったと思う。あの瞬間が、僕にとっての分岐点であったのだろう。それも、今となっては運命にしか感じないが。





鬼族は山に住み、人族は平地に住む。

それは、僕が生まれるよりずっと前に、かつての族長同士が決めたことで、お互いに干渉しないという契約が成されていた。

その為、僕は人里を見たこともなかったし、父からも、その話を暗記してしまう程に、再三再四言われて育ってきた。


だが、父が夕食用の肉を狩りに出かけた日、弁当を届けようと家を出て、そのまま迷ってしまった。

いや、幼い頃と言えど、生まれ育った山だ。迷うはずなどない。

全ては、口実に過ぎなかったのだろう。

僕は、冒険をしているような好奇心と高揚感、そして少しの罪悪感を抱え、山を降りた。

人間が暮らす村は、そう遠くない場所にあった。

干渉してはならない決まりだ、見つかったら大変なことになる。だから、遠くから見るだけだ。と、頭では考えていても、若い好奇心は簡単には止まらない。もう少し、もう少しだけ、と村に近づいてしまう。

そうして気づけば、村を囲む柵の前に辿り着いてしまった。


人族の村は、鬼族のものとは異なる形をした家や、見たことも無い野菜が育てられた畑といった、目新しい物で満ち溢れていた。

ただ、それらよりずっと目を惹く物がすぐそこに広がっていた。

白、黄色、桃色の見たことも無い花。

それらの、華やかで美しい花弁が目の前を彩っていた。

あまりに美しい景色に、思わず魅入ってしまっていたのだ。


「あなた、だぁれ?」


不意に、声が近く…というより、すぐ目の前から響いた。

花畑にばかり意識が向いて、その花畑に水やりをしていた少女の存在に全く気づかなかったのだ。

あまりに不用心だったと、強く後悔した。

僕は鬼だ。きっと、すぐに大人を呼ばれ、人間に捕まってしまうだろうと、そう思った。

しかし、そうはならなかった。


「まあ!あなた、旅人さんね!世界を旅する人がいるって、昔本で読んだことがあるわ!」


少女はそう言って、目を輝かせて近づいてきた。


「この花畑を見てたの?ここの花、私が育てたのよ!」


少女は自慢げな顔で花を指差す。


「それ…なんの花なの…?」


「これ?菊っていうのよ!私と同じ名前なの!」


ようやく出るようになった声を絞り出し尋ねると、彼女…菊は微笑みながらそう答えた。

その笑顔は、何故か分からないが、やけに華やいで見えた。

それから、しばらく2人で話した。その時間はとても楽しいもので、気づいた時には既に日が暮れ始めていた。

また会おうと約束をして、僕は山に帰った。

父は、弁当を届けに行こうとしたという嘘を信じ、すれ違ってしまったのだろうと笑っていた。

僕の心の中は、初めて見た人間の村への高揚感と、父についた嘘への僅かな罪悪感で満たされていた。


その日から、週に数度ほど、菊と話すために村に降りるようになった。

そうして、2年ほどの時が経つ頃には、角を隠す帽子を被ったり、人間の靴を履くようになっていった。

その時期からだろうか。菊もまた、何かを隠すように、袖の長い服を着るようになっていった。


ある日、いつものように花畑へ向かったら、いつもの場所で菊は待っていた。

頬に大きな痣を作って。


「その傷、どうしたの…?」


「気にしないで!」


菊はそう言って微笑んだ。

その笑顔は引き攣っていて、傷と合わさってとても痛々しかった。

彼女の笑顔は好きだが、その笑顔だけは、見ているだけで悲しくなるものだった。


「誰にされたの?」


「…お父さん」


「話してくれる?」


そう聞くと彼女は、ぽつりぽつりと話し始めた。

母親が病で倒れ、そのまま亡くなってしまったこと。優しかった父親が、少しずつ暴力を振るうようになったこと。それを服で隠すようになったこと。

そして、昨日は特に機嫌が悪く、顔を殴られてしまったこと。


「で、でも、お父さんも辛かっただろうから…仕方ないよ!」


そう言いながら繕った、彼女の笑顔を見るのは辛かった。

だから、意識する前に言葉が出た。


「それなら、僕と一緒に逃げようよ。」


「え?」


「お父さんは辛かったかもしれない。それでも、君が辛くて良いはずがないじゃないか。」


あまりに、非現実的なことだ。鬼が少女を連れ去ったとなれば、大きな問題となる。僕が子供とはいえ、見つかればどうなるかなんて、目に見えている。

それでも、菊は頷いた。涙をポロポロと流しながら。

僕は、彼女の心を救えただろうか。


そこからの準備は早かった。

飲食の確保や、狩りをする為のナイフ、その他の全てを考えて、集めた。

そして、日暮れに、菊と共に村を出た。

彼女と2人で旅に出るんだと考える度、心が高揚した。それと同時に、父に黙って家を出たことへの罪悪感が強く心に残った。


それから、当たりが見えなくなるほど暗くなっても、ひたすらに逃げた。

村から離れるよう、ひたすらに走り続けた。

しかし、子供の足で大人から逃げるだなんて、不可能だった。


逃げる途中、小屋を見つけ、そこで休んでいたら、そう遠くない所から声が聞こえた。


「菊ー!何処にいる!」

「鬼の仕業に違いない!角の生えた奴を私は見たんだ!」

「許せない!捕まえて、晒し首にするべきだ!」


その声は、僕の死への足音なのだろうと思えた。

今から逃げても捕まるだろう。そして、許されるなんてありえない。

絶対に助からないだろうという傍観が、僕の心を支配した。

僕は殺され、菊は再び暴力を振るわれる。

そんな考えが、頭をよぎった。


「貴方が殺されてしまうなら、私も一緒に黄泉へ行くわ。」


そんな時、彼女はぽつりと、しかし力強さを感じさせる声でそう言った。

あまりに急な事だった。それでも、何故か望んでしまった。そうなればいいのに、と。


「どうして…?」


走り疲れて、掠れた声でそう聞いた。


「貴方は、初めて私を助けてくれたわ。一緒に逃げようって、そう言ってくれた。だから、一緒に逃げよう?あの世でも、どこまででも。」


彼女にそんな事を言わせてしまうのが、辛いはずなのに。苦しいはずなのに。

ひたすらに甘美で、魅力的だった。


「…うん。」


そう呟き、彼女を見つめ直した。

彼女は微笑み、鞄からナイフを取り出した。


沸き上がる感情が何かも分からない。

もっと他に、より良い手段があったかもしれない。

それでも、不思議と幸せだった。

ナイフを首に当てる彼女を見て、そう思った。




___その日、2つの赤い菊が美しく咲いた。

スライディングアウトですね(土下座)


今回、初めての作品となりましたが、我ながら上手くできた自信が微塵もありませんね…

書いては消してを繰り返した結果、最後は駆け足になってしまいました…

企画の参加方法すら、合ってるか分かってないです(おい)


今回の話は、英雄が鬼であったなら、ということを中心に書き上げました。

きっと、救いの手を差し伸べた彼が、人間であったなら、それは小さな勇気を持って、少女を助けた少年として綴られたのでしょう。

しかし、彼は鬼でした。まだ若く、感情的に行動してしまう少年でした。


私は甘い純愛が大好きですが、悲恋もまた、美しいものと考えています。

きっといつか、より語彙力が高まった時に、リメイクではありませんが、挑戦してみたいと考えています。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] うーん、無理に恋愛にする必要はなかったのではないでしょうか。 [一言] 重陽会、参加いただき、ありがとうございます。 なろうへは初の投稿作品ということで、そんな作品を私の企画に提出して…
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