098 まだ完成には程遠い代物だが、魔法少女ではなくなった貴様を倒すには、十分過ぎる切り札となる!
「まだ完成には程遠い代物だが、魔法少女ではなくなった貴様を倒すには、十分過ぎる切り札となる!」
自信有り気な口調で、クロウリーは言い放つ。
「創造魔法で作り出された、このジョーカーには、貴様の妙な気による攻撃は、通じないのだからな!」
カリプソが作り出した、硝子のセフィルの防御障壁に対し、惣左衛門が無力だった事。
そして、ジョーカーを身に纏った後、身体強化能力魔法を発動した際、魔法発動が阻害されなかった事から、創造魔法で作り出された、全身を覆うジョーカーであれば、惣左衛門の魔穢気による攻撃を防ぎ切れると、クロウリーは確信出来たのだ。
ちなみに、クロウリーは魔穢気を視認出来ないが、惣左衛門が最初に魔穢気疾風を使った時と、同じ構えを取ったのを視認していた。
故に、身体強化能力魔法の発動時に、惣左衛門が魔穢気疾風を使ったが、防ぎ切れたのに気付けたのである(クロウリーは魔穢気という名称は知らないので、「妙な気」呼ばわりしている)。
(確かに、魔穢気を使った攻撃は、創造魔法の防御には弱いんだよな)
創造魔法で作り出された物体を、魔穢気は通り抜けられないし、破壊する事も出来ない。
属性を持つ魔法武器が発生させる、現象魔法の様な属性を持つセフィルであれば、魔穢気は融合するが、物体自体には影響を及ぼせないのだ。
甲冑型のジョーカーの場合、関節部の隙間から、僅かな魔穢気が侵入し得るが、量が少な過ぎて、何の影響も与えられないだろう。
魔穢気による攻撃は、ジョーカーにもジョーカーの中にいるクロウリーにも、通じない可能性が高いと、惣左衛門は考える。
そして、ジョーカーの中にいるクロウリーにも、魔穢気が通じない事に思い至った惣左衛門の頭の中で、一つの疑問が解決する。
その疑問とは、クロウリーが身体強化能力魔法を発動した際、セフィルの塊と能力魔法陣が視認出来なかった事だ。
「――成る程、魔法陣とセフィルの塊が見当たらないと思ったら、ジョーカーの内側に移動させたのか!」
惣左衛門は、短く付け加える。
「魔法陣の方は、大きさも変えた上で!」
魔法が発動した以上、セフィルの塊と魔法陣は、出現していた筈。
そして、魔法発動が阻害されていないのに、セフィルの塊と魔法陣の姿が、自分から見えないとなれば、魔穢気が殆ど届かぬジョーカーの中に、どちらも出現していた可能性が高いと、惣左衛門は考えたのだ。
魔法を自ら改造したり、開発出来るレベルの魔法使いともなれば、呪文をカスタムする事により、セフィルの塊や魔法陣の出現位置を、変化させる事が出来る。
魔法陣の方は、ある程度の範囲内に限られるが、大きさの調整も可能である。
それを惣左衛門は知っていたので、セフィルの塊と魔法陣の出現位置を、クロウリーがジョーカー内部に移した可能性に、思い至れたのだ。
「胸元にセフィルの塊を出現させると、この胸当ての下になってしまうんで、取り出し難いし、ジョーカーの分厚いグローブは、セフィルを掴み難いんでな……」
クロウリーは左手の指先で、ジョーカーの胸部パーツといえる胸元を指し示してから、ランタンシールドの盾の部分を上に向ける。
「色々と試した上で、セフィルの塊も魔法陣も、この盾の中に出現する仕様にしたのさ。能力魔法陣も、胸ではなく右の前腕に吸着するように、魔法の呪文を変えてある」
直後、クロウリーが呪文の超高速詠唱に入ったので、惣左衛門は攻撃を警戒し、身構える。
「この盾の中は、空洞になっているのだが、呪文の詠唱を終えると、盾の裏の辺りにセフィルの塊が出現し、その下に魔法陣が出現する仕組みになっている」
呪文の超高速詠唱を終えたクロウリーは、玩具を自慢する子供の様に、自分の開発したジョーカーの仕組みの一端を、惣左衛門に説明する。
本来、説明などすべきではないのだが、自分の成し遂げた事を、宿敵に見せ付けたいという欲望を、クロウリーは抑え切れないのだ。
「だから、こうして盾の真ん中を叩けば、セフィルの塊が魔法陣に落ちて、魔法が発動……」
身体強化能力魔法を発動した時と同じ動きで、クロウリーは盾の中央を左拳で叩く。
すると、惣左衛門には視認出来ないのだが、クロウリーの言葉通りの現象が、ジョーカーの盾の中で起こり、魔法が発動する。
クロウリーはランタンシールドの剣を、正面方向の地面に向ける。
盾の裏側には、直径四センチ程の太さがあるパイプが繋がっていて、先端部分は剣に沿って、同じ方向に向いていた。
剣の根元の部分までしか、パイプは伸びていないので、目立たない。
その先端部分にあるノズルは、カメラ風のシャッターに塞がれている。
「現象魔法や創造魔法を発動した場合は、この開閉式のノズルを開き、セフィルを放出するという訳だ!」
クロウリーは盾の裏にあるスイッチを操作し、ノズルのシャッターを開く。
すると、金色の光がシャワーの様に、ノズルから放出される。
噴出したのは、稲妻の如き雷のセフィル……クロウリーは現象魔法の雷の魔法を、発動していたのだ。
クロウリーが地面に向けて、軽めに一発放ったのは、ジョーカー使用時に、実戦で雷撃を放った事が無かったので、とりあえず軽く試し撃ちをして、感覚を掴みたかったから。
身体強化能力魔法を発動した時は、奇襲を仕掛けるチャンスであった為、試さずにいきなり攻撃を仕掛けたのだが、クロウリーは惣左衛門を、仕留められはしなかった。
既に奇襲は不可能なので、今回は慎重に試した上で、クロウリーは攻撃するつもりなのだ。
「身体強化能力魔法の次は、雷の魔法か……。ジョーカーは、創造魔法で作り出した甲冑で身を守りながら、盾の中で様々な魔法を発動し、切り替えられるんだな」
ジョーカーのノズルが、雷のセフィルを放ったのを視認し、惣左衛門は続ける。
「つまり、どんな札の代わりにもなる、万能札って訳か」
「その通り! ジョーカーは身を守る魔法の甲冑としてだけでなく、他の魔法を発動する為の土台として機能するので、様々な魔法の力を得る事が出来る、まさに万能札の如き存在なのだ!」
クロウリーは自慢げに言い放ちながら、ランタンシールドのノズルを、惣左衛門に向ける。
「まぁ、最も相性が良いのは、この雷の魔法……雷撃魔法なのだがね!」
クロウリーがスイッチを操作し、ノズルのシャッターを開くと、消防車の放水ノズルから噴出する水の様に、眩いばかりの金色の光が、勢い良くノズルから放出される。
雷鳴を響かせながら、金色に輝く稲妻が、蜘蛛の巣の様な網目を、クロウリーの前方に一瞬で描く。