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097 どうって事はない! 気の流れを操作すれば、塞げる程度の浅い傷だ!

「親父!」


 悲痛な驚きの声を上げたのは、遠くからでも惣左衛門が斬られたのを視認出来た、一刀斎であった。

 惣左衛門程ではないが、元から視力に優れている上、気の力による視力向上も可能なので、一刀斎には遠くからでも、惣左衛門が斬られた光景を、視認出来ていた。


 血飛沫を飛ばす様な傷を負う、惣左衛門の姿を目にするのは、一刀斎にとっては滅多にない出来事だったので、狼狽してしまったのである。


「どうって事はない! 気の流れを操作すれば、塞げる程度の浅い傷だ!」


 一刀斎を安心させる為の言葉を口にしながら、惣左衛門は言葉通りに、経絡の気の流れを操作し、傷口を塞ぐ。

 傷口を塞げるのは事実なのだが、普通の人間であれば、出血多量で死にかねない傷であり、決して浅い傷ではない為、惣左衛門は激痛に苛まれる。


 声を上げる惣左衛門に、再びクロウリーが身軽な動きで、襲い掛かって来る。

 だが、既に奇襲ではないので、惣左衛門は余裕で攻撃を回避しつつ、ジョーカーを冷静に観察する。


(この素早さは、身体強化能力か?)


 クロウリーらしからぬ素早い動きを見て、能力魔法の身体強化能力魔法を使ったのではないかと、惣左衛門は思う。

 身体強化能力魔法とは、運動能力や膂力りょりょく、瞬発力などの身体能力を、数倍に引き上げる能力魔法だ。


 身体強化能力魔法を使えば、気を操れぬ人間でも、気を操れる武術家に近い、高速移動能力や強力ごうりきを得られる。

 だが、その代りに魔法防御能力が、シドリ製戦闘服頼りとなってしまう。


 飛行魔法のアーマーアビリティの様な、防御能力を強化する効果は、身体強化能力魔法には無い。

 その為、並の魔法少女や魔法使いを相手にするのなら、有効な魔法といえるのだが、纏魔や魔法武器を使える相手に使うには、リスクが高過ぎる魔法なのだ。


 一応は鍛えているので、クロウリーの運動能力は、年齢の割には高い部類といえる。

 それでも、スポーツ選手並の動きは、身体強化能力魔法を使わない限り、クロウリーには不可能。


 故に、クロウリーが身体強化能力魔法を使ったとしか、惣左衛門には思えないのだ。


(いや、でもジョーカーが消えていないんだ! 常識的に考えれば、身体強化能力魔法は使える訳がない!)


 クロウリーが身体強化能力魔法を使う為には、創造魔法を解除し、ジョーカーを消滅させなければならないというのが、惣左衛門というよりは、現代魔法の常識。

 ジョーカーを装備したまま、身体強化能力魔法を使える筈がないというのが、常識なのである。


 複数の魔法を同時に使う事は不可能……という、魔法の常識を前提に考えていた惣左衛門の頭に、少し前に耳にした、カリプソの言葉が甦る。

 カリプソがジョーカーについて語る際、「魔法の常識」について触れていたので、連想したのだ。


「――魔法の常識を破り、新たなる段階に、魔法使い達を……進歩させる魁にして、貴様を……葬り去る、クロウリー様の……切り札だっ!」


 惣左衛門は、このカリプソの発言の中にある、「魔法の常識を破り」という部分に、引っかかりを感じる。


(常識的に考えれば、使える訳がないって事は、逆に言えば……常識を破れば、使えるって事になるし、複数の魔法を同時に使う事は不可能という、常識を破れるのなら、ジョーカーを維持したまま、身体強化能力魔法を使えるって事になる……)


 更に惣左衛門は、思考を進める。


(つまり、クロウリーは魔法の二重発動を、実現したんじゃないのか?)


 クロウリーが魔法の常識を破り、魔法の二重発動を実現した可能性に思い至り、惣左衛門は驚き……焦る。

 一つの魔法しか同時に使えない者よりも、同時に複数の魔法を使える者の方が、圧倒的に魔法戦闘において有利なのは、火を見るよりも明らかなのだ。


 惣左衛門から三十メートル程離れた辺りで、クロウリーが立ち止まる。

 クロウリーは惣左衛門に突撃しては、かわされて逃げられ続けていたのだが、諦めの言葉を口にする。


「――幾ら身体強化能力魔法で運動能力を引き上げようが、この程度の速さでは、貴様に追いつけるものではないか」


 クロウリーの言葉は、ジョーカーを作り出した創造魔法を発動したまま、身体強化能力魔法を発動した事を……魔法を二重発動した事を、宣言したに等しかった。


「やはり……魔法を二重に発動してやがったのか!」


 驚きの声を上げた惣左衛門に、クロウリーは自慢気に言い放つ。


「如何にも! 魔法の多重発動技術開発の成果である、我がジョーカーは、まだ未完成とはいえ……魔法の二重発動を、既に可能としているのだ!」


 そして、残念そうな口調で、クロウリーは続ける。


「魔法少女としての貴様を相手に出来る程まで、このジョーカーの開発が進んでいれば、貴様の息子を誘拐する必要など、なかったのだがね」


 ジョーカーは完成には程遠い状態であり、現時点では魔法少女の惣左衛門には、太刀打ちが出来ない。

 三つ以上の魔法を、安定的に同時に発動させられる状態に至ってこそ、ジョーカーは魔法少女の惣左衛門を相手にする切り札になると、クロウリーは考えていた。


 つまり、「三つ以上の魔法を、安定的に同時に発動させられる状態」を達成すれば、クロウリーにとって、ジョーカーは完成した事になるのだ。

 ところが、現時点ではジョーカーは、二重発動が限界であり、おまけに安定しているとは言い難い、完成とは程遠い状態。


 ジョーカーが完成と言える段階に至るには、最低でも……あと十ヶ月は必要だというのが、クロウリーの推測であった。

 だが、その十ヶ月の間、銀の星教団が持ち堪えられぬのは、確実といえる状況まで、クロウリーは追い込まれた。


 惣左衛門により自分が倒され、銀の星教団が壊滅する方が、ジョーカーが完成するよりも早いだろうと、クロウリーは考えた。

 それ故、一刀斎誘拐により、惣左衛門を排除するというカリプソの案に、クロウリーは乗ったのである。




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