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096 万能札(ワイルドカード)になるどころか、最後まで持ってりゃ負けになる、ババ抜きのジョーカーみたいなもんが、お前の切り札なのか?

 防御障壁が消え去った今、何時……惣左衛門との戦いが始っても、おかしくは無い状態。

 カリプソに駆け寄るのを止めて立ち止まると、クロウリーは惣左衛門の方を向く。


 惣左衛門は既に、右前の半身で身構え、臨戦態勢を整えた上で、クロウリーを見据えている。

 クロウリーの奥の手らしいジョーカーを警戒し、どの様な存在なのかを、冷静に観察しているのである。


(多数の部品を組み上げる、本物の甲冑みたいな感じだな。さっき作り出していたランタンシールドは、ジョーカーの一部だった訳か)


 だが、単なる鋼のセフィルで作られた、西洋風の甲冑だとしか、惣左衛門には思えなかった。

 単にセフィルを纏うだけの防御より、全身を覆う甲冑であるジョーカーの方が、防御力は遙かに高い。


 防御力は高いが、ジョーカーは明らかに、相当な重量がある。

 ジョーカーを纏うクロウリーは、鈍重にしか動けないだろうと、カリプソの元に駆け寄ろうとした時の動きを見て、惣左衛門は判断する。


 確認出来る攻撃用武器は、剣として使えるランタンシールドのみ(格納されているスパイクは見えない)。

 防御力が高くて、剣を備えていても、運動性に問題が有り過ぎて、使い物にはならない……というのが、ジョーカーに対する、惣左衛門の印象だ。


 魔法武器には甲冑型の物も存在し、その全てが高い防御能力を誇るが、性能的には二種類に大別される。

 一種類目は何等かのセフィルの属性を持ち、現象魔法的な攻撃を行える攻撃型の甲冑であり、常に属性のセフィルを、甲冑が纏魔の様に纏っている。


 もう一種類は、能力魔法により、高い運動能力や飛行能力などを得たかの様な、パワードスーツを思わせる、高機動型の甲冑である。

 この二種類の性能を併せ持つ甲冑は、存在しない。


 そういった魔法武器の甲冑は、惣左衛門も苦戦した事がある程であり、かなり強力な魔法武器といえる。

 でも、クロウリーが纏うジョーカーは、何等かの属性のセフィルを纏ってはいないし、動きも鈍重である為、明らかに魔法武器の甲冑に劣る様に、惣左衛門には思えた。


「防御能力は高そうだが、そんな鈍重な動きでは、右腕の剣も使いこなせまい。攻撃に使えるセフィルも、纏ってはいないようだ」


 ジョーカーに関する率直な感想を、惣左衛門は口にする。


「そんな甲冑の名がジョーカーとは、笑わせる」


 嘲り口調の軽口で、そう付け加えた後、惣左衛門は問いかける、


万能札ワイルドカードになるどころか、最後まで持ってりゃ負けになる、ババ抜きのジョーカーみたいなもんが、お前の切り札なのか?」


「魔法を失っただけでなく、敵の魔法を見定める眼までも、失ったようだな!」


 クロウリーは負けじと、惣左衛門を嘲り返す。


「我がジョーカーは、ポーカーにおけるジョーカーだよ! 万能札ワイルドカードの如き切り札さ!」


 そう言い放つと、クロウリーは呪文の超高速詠唱を始める。

 ジョーカーの兜は、頭部全体を覆っているので、クロウリーの声は篭った感じになる。


(ジョーカーを作り出したばかりなのに、次の魔法を?)


 ジョーカーを作り出したばかりのクロウリーが、魔法の呪文を超高速詠唱し始めた事に、惣左衛門は驚く。

 何故なら、惣左衛門の認識……というより、現在の魔法の常識においては、創造魔法でジョーカーを作り出した状態で、次の魔法の呪文を唱えれば、ジョーカーが消えてしまう筈なので。


 複数の魔法を同時に使う事は不可能……というのが、現在の魔法の常識。

 何等かの魔法を発動している時、後から別の魔法の呪文を詠唱し終えた場合、先に発動していた魔法の方は、強制的に解除される。


 つまり、創造魔法でジョーカーを作り出した状態で、クロウリーが次の魔法の呪文を唱えた場面を前にすれば、作り出したばかりのジョーカーを消そうとしていると判断するのが、常識的なのだ。

 切り札と称するジョーカーを、使いもしないで消そうとしているとしか思えない真似を、クロウリーがしたので、惣左衛門が驚くのは当たり前。


 理解不能の行動を取るクロウリーに、惣左衛門は危険な何かを察した。

 故に、クロウリーが発動しようとしている、魔法の発動を阻害すべく、右掌に魔穢気を集めつつ、クロウリーに向ける。


(まだ呪文の詠唱は終わっていない! 何をするつもりなのか知らないが、今なら潰せる筈!)


 惣左衛門は右掌から、魔穢気疾風を放つ。

 魔穢気疾風は、ただの疾風よりも射程が短く、せいぜい十メートル程度なのだが、クロウリーは射程の中にいるので、魔法陣にセフィルの塊を投入する前であれば、魔穢気疾風は通常、魔法の発動を止められる筈なのだ。


 魔穢気疾風は疾風の様に、クロウリーに襲い掛かる。

 気を見る能力が無いクロウリーは、魔穢気疾風を避けようにも避けられず、ジョーカーの前面で食らってしまう。


 魔穢気疾風により放たれた魔穢気は、当たった辺りに付着したり、その周囲を漂う性質がある。

 セフィルの塊が出現する胸の辺りや、魔法陣が出現する足元の辺りに、魔穢気を浴びせて付着させれば、普通なら十秒前後の間、魔法の発動を阻害出来る筈なのだ。


 惣左衛門の放った魔穢気を浴びた直後、クロウリーは呪文の超高速詠唱を終えた。

 通常なら、創造魔法で作られていた物は消滅し、胸元にセフィルの塊が、足元には魔法陣が、それぞれ出現する段階。


 だが、ジョーカーは消え去らなかった。

 クロウリーの胸元に、セフィルの塊は現れず、足元に魔法陣は現れなかった。


(魔法の発動、阻害出来たか!)


 目にした光景を、その様に惣左衛門は理解した。

 魔穢気疾風により、クロウリーが呪文を唱え終えたばかりの魔法の発動を、阻害出来たからこそ、ジョーカーは消え去らず、セフィルの塊と魔法陣が見えないのだと、惣左衛門は思ったのである。


 そんな惣左衛門の視界の中で、クロウリーはランタンシールドを軽く左手で叩いて見せた後、陸上のスタンディングスタートの様に、両足を開いた前傾姿勢を取ったかと思うと、地を蹴ってダッシュする。

 短距離走の選手を思わせる素早い動きで、一気に惣左衛門との間合いを詰めると、右腕のランタンシールドの剣で、右から左に正面を払う感じに、クロウリーは斬りかかる。


 先程までの鈍重な動きとは違い、俊敏で身軽な動き。

 重たい甲冑を着たクロウリーによる、高速の突進と斬撃という、予想だにしない攻撃による奇襲であった為、惣左衛門ですら対処が遅れてしまった。


 慌てて後ろに跳び退くが、惣左衛門の胸の辺りに、横一文字の赤い線が走り、鮮血が噴出す。

 惣左衛門は一跳びで、十メートル以上後退したのだが、跳ぶタイミングが僅かに遅れ、クロウリーの斬撃に、胸を斬られてしまったのだ。




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