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094 惑わされては……いけません! 見切りと速さこそ……健在ですが、魔法に対する防御能力を……失った奴は、魔法少女の時よりも、遙かに弱く……なっています!

 惣左衛門と銀の星教団が、本格的に衝突し始めた初期の段階では、そんなクロウリーの戦闘法に、惣左衛門も圧倒されていた。

 だが、惣左衛門の鬼伝無縛流は、伝統的に高速戦闘を得意としていた上、惣左衛門は敵の攻撃を見切る能力が、究めて高かった。


 時が過ぎ、魔法戦闘の経験を積むにつれて、惣左衛門はクロウリーの攻撃魔法を見切れる様になり、高速移動能力を駆使して、回避出来るようにもなった。

 その結果、惣左衛門はクロウリーの攻撃魔法を突破し、近接戦闘を挑めるようになったのだ。


 近接戦闘となれば、纏魔や魔法武器を使える惣左衛門の方が、クロウリーより有利に戦える。

 そのせいで、一対一の勝負となると、クロウリーは惣左衛門に対し、劣勢に立たされるケースが、増えてしまった。


 故に、クロウリーは近接戦闘を得意とする、上級魔法使いの部下を伴い、惣左衛門と相対するのが基本となった。

 だが、クロウリーを中心とした、複数の上級魔法使いであっても、強くなり続ける惣左衛門を抑え切れず、銀の星教団は追い込まれ続けた。


 惣左衛門に対し、劣勢に立たされ続ける状況を打開すべく、クロウリーは近接戦闘を苦手とする、己の弱点の克服を決意。

 纏魔や魔法武器を使えぬ身でありながら、遠距離だけでなく近距離においても、常に攻防一体の状態を維持出来る戦闘法の開発を、クロウリーは目指した。


 その戦闘法を実現する魔法として、クロウリーが考案し開発を始めたのが、ジョーカーである。

 ジョーカーとは、魔法の常識を覆す、新たなる魔法だ。


 クロウリーは死に物狂いで開発を続けたが、魔法の常識的には不可能である筈の戦闘法を実現する、ジョーカーの開発は困難を極めた。

 現時点での進捗しんちょく度合いは、せいぜい三割を超えた辺りと、完成には程遠い状況。


 結局、魔法少女である惣左衛門を相手に、ジョーカーが使い物になるレベルになるよりも前に、惣左衛門を中心とした魔法少女達に、銀の星教団は追い込まれてしまった。

 起死回生を狙い決行した、蒼天の二つ星作戦も打ち砕かれ、残存全力七名という、まさに壊滅寸前の状況にまで。


 この段階に至り、クロウリーはカリプソが主張した、一刀斎を誘拐した上で、惣左衛門を魔法少女ではなくした上で、完全に排除する策を採用。

 シュタイナー協定破りの、この策の実行を選んだ時点で、クロウリーは魔法少女としての惣左衛門を魔法で倒すのを、事実上諦めたも同然と言える。


 惣左衛門対策として、開発を続けていたジョーカーなのだが、もうジョーカーを使って、惣左衛門を使う事は無いだろうと、クロウリーは考えていた。

 魔法を失った惣左衛門を、カリプソが討ち洩らす筈など無いと、クロウリーは考えていたので。


 だが、魔法使いを倒し得る切り札を、隠し持っていた惣左衛門は、カリプソを倒し、クロウリーの部下を全滅させた。

 カリプソが最後の力を振り絞り、発動した創造魔法による防御障壁が無ければ、既にクロウリーも倒されていただろう。


 魔法こそ失ったが、惣左衛門の攻撃を見切る能力の異常な高さと、人間離れした速さは、共に健在。

 その上で、魔法使いを倒し得る技を持つ惣左衛門なら、攻撃魔法を回避した上で、近接戦闘に持ち込み、自分を倒す事が出来るだろうと、クロウリーは考える。


 クロウリーが倒されない為には、近接戦闘における弱点を克服する為、惣左衛門を倒す為に開発を進めていた、常に攻防一体の状態を維持出来る魔法……ジョーカーを使うくらいしか、選択肢が残されていない。

 だが、その選択肢であるジョーカーは、完成には程遠い状況であり、惣左衛門相手に使える段階ではないというのが、クロウリーの認識であった。


 それ故、ジョーカーを使うしか無いとは思いながらも、クロウリーは逡巡しゅんじゅんしてしまうのだ。


「惑わされては……いけません! 見切りと速さこそ……健在ですが、魔法に対する防御能力を……失った奴は、魔法少女の時よりも、遙かに弱く……なっています!」


 クロウリーの逡巡を察したカリプソは、クロウリーを鼓舞する。


「幾ら惣左衛門とはいえ、魔法少女としての……クロウリー様との戦いにおいて、全ての攻撃を……避け切れていた訳ではありません!」


 限界が近いのだろう、苦しげなカリプソの言葉は、途切れがちだ。


「ある程度は……攻撃を食らいつつも、纏魔などの……セフィルの防御で防げたからこそ、クロウリー様との近接戦闘に……持ち込めていたのです!」


 カリプソの言う通り、惣左衛門は魔法少女の頃、クロウリーの攻撃の全てを、見切って回避出来た訳ではない。

 見切り損なった場合もあるし、見切った上でもかわせず、纏魔などのセフィルの防御で、防ぐ羽目になっていた事も多い。


 玄武の上で戦った時、常勝真人が投げた槍を回避出来ず、纏魔の防御で受けて砕いた様に、超人的な見切りと回避の能力を持っている惣左衛門にも、回避し切れない攻撃はあるのだ。


「未完成の……ジョーカーでは、魔法少女の……鬼宮惣左衛門には、及ばないのかもしれませんが、セフィルによる防御を失った、今の……鬼宮惣左衛門なら、倒せるだけの力がある筈!」


 カリプソは短く、付け加える。


「奴の技には、創造魔法で作られた物を、打ち破るだけの力は……無いのですから!」


 クロウリーの表情から、迷いが消え去る。

 カリプソの助言を聞いて、クロウリーの逡巡は終わり、決意が固まったのだ。


「――これよりジョーカーの発動に入る」


 カリプソの肩を叩きつつ、クロウリーは続ける。


「発動が終わるまで、何とか防御障壁をもたせてくれ」


 そう言うと、クロウリーはローブを脱ぎ捨てた上で、その場にカリプソを残して、惣左衛門の方に向かって歩き出す。

 硝子のセフィルの防御障壁から、三メートル程手前で、クロウリーは立ち止まる。




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