表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

87/124

087 ――残りは、お前だけだ! ケリをつけようじゃないか、クロウリー!

 若い男性の魔法使いは、手にした黒い杖型のマジックブースターで、惣左衛門に殴りかかる。

 魔法の能力を引き上げるだけでなく、纏魔を使えぬ魔法使いが、現象魔法で発生させた、属性のセフィルを纏わせ、近接戦闘用の魔法攻撃武器とする事も出来る、杖型のマジックブースターを、ただの打撃用の武器として使用したのである。


 現象魔法で発生させた、属性のセフィルを纏わせ、魔法攻撃を行える武器として使えるマジックブースターが、既に量産されている。

 こういったマジックブースターは、魔法攻撃が可能なだけで、いわゆる魔法武器とは違い、魔法使いを魔甲で守りはしないし、武器としての攻撃力も、魔法武器に遙かに劣る。


 纏魔や魔法武器が使える程の技量は無くとも、魔法攻撃を行えるマジックブースターを、武器として利用するなら、武術を使えた方が有利なので、剣術や棒術などのトレーニングを積んでいる魔法使いは多い。

 この若い魔法使いも、ある程度は棒術のトレーニングを積んでいたので、惣左衛門に殴りかかる動きは、様にはなっている。


 だが、纏魔や魔法武器を使える段階には至ってはいない、所詮は付け焼刃と言うしか無い程度の、棒術の能力が、惣左衛門に通じる訳など無い。

 惣左衛門は余裕で打撃を見切り、数発の掌打を、若い魔法使いに叩き込む。


 その上で、惣左衛門は手型を三前趾に切り替え、掌打を当てた辺り……胸の中央にある経穴である壇中だんちゅうを、左手の人差し指で突く。

 惣左衛門は指先から、相手の経絡に気を流し込む。


 直後、若い魔法使いは一瞬で気絶、その場に崩れ落ちてしまう。

 カリプソにやったのと、基本的には同じ攻撃方法を、惣左衛門は使ったのだが、気が見える程に、武術に通じているカリプソよりも、気による攻撃への耐性が低いせいか、遙かに呆気なく、若い男性の魔法使いは倒されてしまった。


 だが、クロウリーを守る為、僅かな時間を稼ぐ為、駆け付けた魔法使いは、この若い魔法使いだけではない。

 残り四人の魔法使い達も、次々と黒い杖型のマジックブースターを手に、惣左衛門に襲い掛かって来たのだ。


「邪魔だっ!」


 惣左衛門は強い口調で言い放ちつつ、襲い掛かって来た四人の魔法使いを、カリプソや若い男性の魔法使いを相手にしたのと同じ方法で、呆気なく倒してしまった。

 五人がかりで稼げたのは、せいぜい十秒前後といったところ。


 その十秒前後の僅かな時間、クロウリーは魔法の発動を試みては、失敗し続けた。

 最初の二度は創造魔法を、三度目は現象魔法に切り替え、呪文の超高速詠唱を行ったのだが、その全てが失敗に終わり、クロウリーは部下達が稼いだ時間を、使い切ってしまったのである。


 五人の魔法使い達を倒し終えた惣左衛門は、三連続で魔法発動に失敗したクロウリーと、三メートル程の間合いを空けて対峙する。

 魔法使い達との戦いのせいで、惣左衛門は僅かに後退させられてしまい、クロウリーとの間合いが三メートルに開いていた。


 驚きと混乱、焦りと絶望……ネガティブな感情が入り混じった表情を浮かべ、目の前に倒れている、五人の部下達の姿を見下ろすクロウリーに、惣左衛門は言い放つ。


「――残りは、お前だけだ! ケリをつけようじゃないか、クロウリー!」


 そして、クロウリーに向かって飛びかかるべく、惣左衛門が身構えた瞬間、異変が起こる。

 クロウリーの背後で、何かが金色の光を放ったかと思うと、一瞬で金色に光り輝く粒子群が、クロウリーと惣左衛門の間に流れ込んで来て、透明な何かに変化したのだ。


 直後、クロウリーに向かって飛びかかった惣左衛門の身体は、その透明な何かと衝突し、壁に投げ付けられたボールの様に、呆気なく弾き返されてしまう。

 惣左衛門は予想だにしていなかった障害物の出現に、心の底から驚きながらも、出現した物が何であるのか、冷静に見切る。


「硝子のセフィルだと?」


 出現したのは、硝子のセフィルの壁であった。

 単なる壁ではなく、高さ三メートル、直径十メートル程の、円盤状の空間を保護する、硝子のセフィルで作られた防御障壁である。


 硝子のセフィルの厚さは三ミリ程度、本物の硝子であれば、小石が当たるだけでも割れてしまうだろう薄さしかない。

 だが、セフィルで作られた硝子なので、魔法が使えない者には破れない、核攻撃にすら耐え得る、強固過ぎる防御障壁なのだ。


 そんな硝子のセフィルの壁が、いきなり惣左衛門の前に現れ、クロウリーを守ったのである。

 魔法発動の光が発生したのは、クロウリーの十メートル程後方、燕蹴りで吹っ飛ばされたカリプソが、落下して倒れていた辺り。


 惣左衛門は少し左に移動し、クロウリーは振り返り、共に同じ場所……カリプソが倒れていた辺りに目をやる。

 二人の目線の先にいたのは、よろめきながらも、上体を起そうとしていた、カリプソであった。


 カリプソの足下には、円形の創造魔法陣の残滓が、僅かに残されていた。

 硝子のセフィルの防御障壁を作り出したのが、カリプソである証拠だ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ