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084 魔法を失った貴様には、不可能な話だ!

 極端な前傾姿勢を取りながら、惣左衛門は地を蹴る。

 気の力で人の限界を超えた脚力を得た惣左衛門は、砲弾の如き猛烈な勢いで、カリプソに向かってダッシュする。


 三十メートル程あったカリプソとの間合いを、惣左衛門は一瞬で詰めてしまう。

 そして、スライディングでカリプソの足元を狙うかの様な動きを、フェイントとして見せた上で、強引に地を蹴って宙に舞い上がり、身構えているカリプソを跳び越えようとする。


(真っ先に、敵の頭を潰す!)


 魔法を発動して防御を固められる前に、惣左衛門はクロウリーを倒すべく、速攻を開始した。

 クロウリーを倒して、常に持ち歩いている筈のケマの書を奪い取り、破壊して消滅させれば、銀の星教団のメンバー全員の魔力を、封じる事が出来る。


 惣左衛門は何の策もなく、銀の星教団との最後の戦いに臨んでいる訳ではない。

 魔法で強固な防御を固める前であれば、惣左衛門には魔法使いを倒し得る策がある。


 魔法を失った自分を侮り、魔法による防御をクロウリーが固めていない今は、惣左衛門にとっては絶好の機会。

 だが、その前にカリプソなど、他の魔法使いを相手に、その策を使ってしまえば、クロウリーに警戒され、魔法による防御を固められてしまう可能性が高い。


 そうなると、惣左衛門がクロウリーを倒すのは、著しく困難になる。

 それ故、惣左衛門はカリプソを無視し、最初からクロウリーを狙うのだ。

 一人で多数の敵を相手にする場合は、真先にリーダーを叩くのがセオリーなので、そういう意味でも惣左衛門の狙いは正しいと言える。


 足元を狙っているかの様なフェイントをかけた上で、跳躍して上を跳び越えようとする、まさに電光石火の惣左衛門の動きに、普通の人間は対処など出来ない。

 だが、その動きに対処出来る、普通では無い人間が、この場にはいた。


 惣左衛門が自分をパスして、クロウリーを狙う可能性を考慮していたカリプソは、どの方向にでも跳べる様に備えていた。

 故に、惣左衛門がフェイントをかけた上で、地を蹴ったのを視認するなり、殆ど遅れず、同方向へと跳躍出来たのだ。


 勢い良く後方に向かって、カリプソは宙に舞う。

 そして、後ろ向きに回転しながら、長い脚で惣左衛門を下から斬るかの様な、鋭い蹴り……斬空脚ざんくうきゃくを、カリプソは放つ。


 カリプソの反応の速さに驚きながらも、惣左衛門は冷静にカリプソの蹴りを、気で防御力を引き上げた脚で受ける。

 激しい衝撃を受けながらも、惣左衛門は反撃の蹴り技を繰り出し、そのままカリプソ相手の空中打撃戦に突入。


 打ち合い自体は、惣左衛門の方が勝り、顔面と腹部に、強烈な蹴りを決める事が出来た。

 本当に武術だけの戦いであれば、この時点で勝負がついていただろう。


 だが、シドリ製の戦闘服を身に纏い、顔面などの戦闘服に覆われていない部分も、魔膜に守られているカリプソに、今の惣左衛門の蹴りは通じない。

 強引な空中での打ち合いのせいで、体勢を崩して落下したが、カリプソは何のダメージも負わず、すぐに体勢を立て直して身構える。


 惣左衛門の方も、強引な打ち合いのせいで、空中姿勢が崩れてしまい、地上に落下してしまう。

 無論、惣左衛門もダメージは負わず、即座に身構えた上で、前方にいるカリプソと、その先にいるクロウリーに目をやる。


 二人共、クロウリーの方に向かって跳躍した上で、地上に落下したので、クロウリーに接近した位置となった。

 カリプソはクロウリーから五メートル程離れ、惣左衛門はカリプソから五メートル程、クロウリーからは十メートル程、離れた位置関係となる。


 惣左衛門よりもクロウリーに近い位置から跳んだので、カリプソの方がクロウリーに近い所に落下したのだ。


(まさか、今の動きに……ついてこれるとは)


 空中での打ち合い自体には勝ったのだが、止められるとは思わなかった動きを、カリプソに止められてしまった事に、惣左衛門は驚く。


「貴様の相手は、この私だ!」


 鋭い声で、カリプソは続ける。


「私を倒さずして、クロウリー様に挑めると思うな!」


(参ったね……これまでより、明らかに強い)


 カリプソの実力が、想定を上回っていたので、惣左衛門は焦りの表情を浮かべる。


(復讐への執念が、これまで以上の力を、引き出せているってとこか?)


 惣左衛門はカリプソの実力を、侮ってなどいなかった。

 明らかに、これまでを数段上回る実力を、短い戦いの間に、惣左衛門はカリプソに見せ付けられたのだ。


(確かに、カリプソをパスして、クロウリーを狙うのは、無理そうだ)


 惣左衛門としては、一気にクロウリーに攻撃を仕掛けて、仕留めたかったのだが、予想を上回るカリプソの実力を目にして、それは困難だと惣左衛門は判断。


「――仕方が無い、まずはお前から、倒すとするかねぇ!」


「魔法を失った貴様には、不可能な話だ!」


 怒りの声を上げながら、突進して来たカリプソを、惣左衛門も前進して迎え撃つ。

 両者は常人には見えぬ程の速さで、激しい打ち合いを始める。


 惣左衛門は、一瞬で十数発の掌打を放つ。

 瞬く間に、高速の掌打を連続して放つので、並の動態視力の人間には、惣左衛門の腕や掌の数が、数倍に増えた様に見える。


 その殆どを、カリプソは両手で捌き切るが、右肩や左鎖骨の辺りなど、数箇所に掌打を食らってしまう。

 カリプソも突きや掌打、脚技などを放つが、その全てを惣左衛門に見切られ、回避される。


 打ち合い自体は空中戦の時と同様、惣左衛門が圧倒しているが、苦痛に顔を歪めるのは、カリプソではなく惣左衛門の方。

 惣左衛門の掌打は、シドリ製のダークスーツの防御に阻まれるので、カリプソは何の苦痛も感じない。


 だが、ダークスーツやカリプソの頬を打った、惣左衛門の掌の方は、一方的に痛みを感じてしまうのである。


「無駄な事を! そんな掌打が、魔法使い相手に通用するか!」


 カリプソの嘲りの言葉通り、武術家が放つ打撃技は、シドリ製の戦闘服を身に纏う魔法使いに、ダメージを与えられなどしない。

 それが世界最強の男、惣左衛門の掌打であっても。




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