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083 その減らす口を聞くのも、これが最後だと思うと、少し寂しいものだよ! 鬼宮惣左衛門!

「動けるようにはしておくけど、戦闘中は……ここから動かないでね」


 カリプソは一刀斎に、警告する。


「理由は良く分からないんだけど、ここは……あらゆる遠距離攻撃が効果を失う、一種の安全地帯になっているんで、ここから動かなければ、戦いに巻き込まれずに済むから」


 この場で行われた、クロウリーとサンジェルマンの戦いや、その後の魔法実験により、一刀斎がいる辺りが、他の部分からの攻撃が届かない、安全地帯となっている事に、銀の星教団は気付いたのだ。

 魔法に限らず、あらゆる遠距離攻撃が止められてしまうのだが、打撃や斬撃などの、近接状態からの直接攻撃は防げない。


 カリプソが「理由は良く分からない」と言った通り、何故ここが安全地帯になっているのか、正確な理由は分かっていない。

 ただ、護符の壁画に記された矢印が、安全地帯となっている辺りを指し示している事から、護符の壁画が何等かの防御魔法発生システムであり、安全地帯を作り出しているのかもしれないと、クロウリーは推測している。


 そして、ここに一刀斎が座る為の椅子を、カリプソが置いたのは、自分達と惣左衛門との戦闘の被害を、一刀斎が受けない様に気遣ってであった。


「あと、一応……これを持っておいて」


 カリプソは紙切れ……ムルティ・ムンディの残骸を、一刀斎のポケットに挿し入れる。

 惣左衛門とクロウリーの約束なので、カリプソは一刀斎に、ムルティ・ムンディの残骸を渡したのだ。


「これがあれば、私が外に連れ出せなくなったとしても、鬼宮君一人で、ここから外に出られるから。まぁ、そんな事は無いと思うけど」


 一刀斎の拘束を解いて、ムルティ・ムンディの残骸を渡し終えたカリプソは、一刀斎に背を向け、惣左衛門の方に向かって歩き出す。


「先生!」


 悲痛な一刀斎の声を、背中で聞いたカリプソは、振り返らずに言葉を返す。


「御免ね、鬼宮君。私は鬼宮君から、お父様を奪うけど、鬼宮君から奪った以上の何かを、私は絶対、鬼宮君に与えてあげるから……」


 今から、自分が殺そうとしている相手の息子である一刀斎に、謝罪の言葉を残しながら、カリプソは歩き続け、クロウリーと五人の魔法使い達がいる辺りまで辿り着く。

 そして、クロウリー達を通り過ぎると、カリプソは三十メートル程の間合いを取った上で、惣左衛門の真正面で立ち止まる。


 クロウリーと五人の魔法使い達は、並んでいた場所から動かない。

 結果、カリプソから二十メートル程後方に、クロウリー達は並んだ配置となる。


 自らの手による復讐を望んだカリプソが、戦いの最前線に出る事を望んだが故の、銀の星教団側の配置である。


「女の背中に身を隠すなんて、みっともない真似してくれるじゃないか! 臆病者の、アレイスター・M・クロウリー!」


 カリプソが自らの意志で、最前線に出ているのを察した上で、惣左衛門はクロウリーを言葉で煽る。


「その減らす口を聞くのも、これが最後だと思うと、少し寂しいものだよ! 鬼宮惣左衛門!」


 勝ち誇った様な口調で、クロウリーは言葉を続ける。


「これから貴様の無敵の伝説も、人生も……終わるのだからな!」


「どうかねぇ? 俺は負ける気なんざ、全然しないんだが」


「虚勢を張るな! 魔法を失くした貴様に、我等が負ける訳が無いだろう!」


「魔法を失くしても、俺には武術があるのを、忘れて貰っちゃ困るな!」


「魔法と組み合わせていたからこそ、貴様の武術の技量は脅威となった! 魔法無しの貴様の武術など、恐れるに足らん!」


「思慮浅く敵を侮る者は、必ず敵に生捕いけどられるって言うだろ」


 左前の半身で構えながら、惣左衛門は不敵な口調で続ける。


「俺の武術を侮った以上、お前等の終わり方は、せいぜいそんな所さ」


「――孫子か」


 惣左衛門の言葉が、孫子の言葉の引用であるのに気付いたクロウリーは、否定の言葉を返す。


「侮ってなどいない、事実を述べたまでだ。魔法を失った、ただの人間が操る術など、それが何であろうと、魔法使いは恐れはしないのだからな」


「いいや、侮ってるね」


 強い口調で、惣左衛門は言い切る。


「一刀斎を解放する前に、魔法を発動していない時点で、お前等は俺を侮り過ぎだよ」


 今現在、銀の星教団の残党達は、誰一人魔法を発動していない。

 シドリ製の戦闘服を身に纏っている為、素手の人間の攻撃など、通じる訳が無いと考えているので。


「自惚れるな! 今の貴様を相手に、魔法を使う必要など無い!」


 左前の半身で身構えつつ、カリプソは強い口調で言葉を続ける。


「既にシドリの守りすら破れぬ、貴様を相手にするのなら、これだけで十分だ!」


 カリプソの言う「これ」とは、武術の事だ。


「――そいつは、どうかな?」


 惣左衛門は問いかけながら、自分が密かに練り上げ、体内に溜め込んだ気の量を、感覚で大雑把に測る。

 実は、クロウリーやカリプソとの会話を続けながら、惣左衛門は二種類の気を練り続け、身体の中に蓄積し、戦いに備えていた。


 セフィロトの首輪を外す前から、惣左衛門は二種類の気を練り、全身に溜めていたのだが、セフィロトの首輪を外して、元の身体に戻ると同時に、溜め込んだ気が消え失せてしまった。

 そこで、惣左衛門はクロウリーを言葉で煽り、会話に持ち込んで、気を練って溜め込む時間を、稼いだのである。


 言葉で煽ると、会話に乗って来易いクロウリーの性格を、惣左衛門は利用したのだ。

 惣左衛門は狙い通り、会話で時間を稼ぎつつ、急いで二種類の気を練り続けた。


(これだけ溜めれば、十分だ!)


 十分なだけの気を蓄積し終えたと、惣左衛門は判断。

 普通の気は全身に満ちているし、普通の気の一部に細工を施して練った、普通では無い気の方は、両手の甲に溜められていた。


 戦いの準備を終えた今、時間稼ぎの会話を続ける必要は無い。


(あとは、俺を侮ってくれている間に、速攻でクロウリーを仕留めるだけだ!)


 銀の星教団の者達が魔法を発動せず、シドリ製の戦闘服の防御力を過信している今こそが、惣左衛門にとっては絶好の機会。

 この機会を逃すまいと、準備を終えた惣左衛門は、銀の星教団との最後の戦いの火蓋を、自らの手で切る。



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