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082 昨日、言っただろ。家族より大事なものが、ある筈が無いって

 ちなみに、クロウリーや銀の星教団の魔法使いが着ているダークスーツは、カリプソの様に纏魔を使える魔法使いが着るのとは、別タイプの物である。

 カリプソやルドラなどが愛用するのは、防御力よりも動き易さを重視した、ゆったりとしたデザインの、伸縮性に富んだシドリを使用したタイプ。


 他の魔法使いが着ているのは、防御能力を重視した、厚手のシドリを使用したタイプなのだ。

 この上に、他の魔法使い達は、更にローブまで纏い、防御能力を強化するのである。


「まぁ……仮に勝てないとしてもだな、お前が人質に取られている以上、ここは言う事聞くしか無いだろ」


 惣左衛門は一刀斎に語りかけつつ、困った様に肩を竦めてみせる。


「何でだよ? 俺の事なんて……」


 一刀斎が言い終わる前に、当たり前だと言わんばかりの口調で、惣左衛門は答を返す。


「昨日、言っただろ。家族より大事なものが、ある筈が無いって」


 そして、セフィロトの首輪に手を伸ばしながら、惣左衛門は不敵な笑みを浮かべ、言葉を続ける。


「――でもまぁ、心配は不要だ……一刀斎。追い込まれたからといって、己の誇りも矜持も捨て去った様な連中になど、俺は負けはしないさ……魔法が使えなくなってもな」


 セフィロトの首輪の金具に指先をかけつつ、惣左衛門はクロウリーに問いかける。


「こいつを外すだけで、本当に良いのか?」


 クロウリーは問いの意図が読めず、惣左衛門に問い返す。


「何が言いたい?」


「こいつを外させた上で、俺を襲って殺そうとするよりも、俺に死ねと要求した方が、俺が魔法少女になる可能性を、確実に無くせるのに……何故、そうしない?」


「――戦い勝利する事こそが、我等の革命を成し遂げる、唯一の道である! 戦わずに得られる勝利では、意味が無い」


「ほんとまぁ、魔法教典の洗脳ってのは、強力だねぇ……」


 惣左衛門は呆れ顔で、言葉を吐き捨てる。

 クロウリーが口にした「戦い勝利する事こそが、我等の革命を成し遂げる、唯一の道である!」という言葉は、シュタイナー・エンゲルスの著作、「空想的魔法主義から現実的魔法主義へ」に出て来る一文である。


 単なる一文ではなく、多くの魔法主義者達の精神に、魔法教典により刷り込まれた、考え方でもあるのだ(多くであり、全てではない)。

 革命を成し遂げる為の勝利は、戦いによって得なければならないという考えに、多くの魔法主義者……魔法使い達は縛られている。


 つまり、途中で幾ら卑怯な真似をしようが、最終的に惣左衛門に対して勝利する為には、戦って勝たなければならないと、クロウリー達は考えてしまうのである。

 それ故、クロウリー達は惣左衛門に死を求めず、魔法を使う力を奪った上で、惣左衛門と戦い……殺すつもりなのだ。


 クロウリーの返答は、大よそ惣左衛門の予想通りだった。

 一刀斎を人質に取る、卑怯な真似をしようが、その上でクロウリー達が、戦って決着をつけようとする、魔法主義革命家特有の行動を取るだろう事は、惣左衛門には分かっていたのである。


「ま、俺としちゃ……その方が有難いんだが」


 惣左衛門は呟きながら、セフィロトの首輪を外し始める。

 ベルトに似た構造のセフィロトの首輪は、ほんの数秒で、あっさりと外れた。


 ベルトが外れた直後、惣左衛門の足下に、複雑な紋様と文字群に埋め尽くされた、減少魔方陣と創造魔方陣、そして能力魔方陣が合体したかの様な、金色の魔法陣が出現する。

 魔法陣に記された、金色に輝く意味不明の奇怪な文字群……魔法文字群は、魔法陣から飛び出して、惣左衛門の身体に張り付き始め、ほんの数秒で、惣左衛門を金色に染めてしまう。


 惣左衛門の身体を覆い尽くした、金色の魔法文字群は、呟いばかりの強烈な光を放った後、金色の魔法陣と共に消え去った。

 魔法陣と魔法文字群……そして、光が消えた後には、十代中頃の少女に見える魔法少女では無く、三十代中頃に見える、ジーンズに白のTシャツ姿の男が立っていた。惣左衛門は魔法少女から、本来の姿に戻ったのだ。


 身長こそ百七十五センチ弱と、余り高くは無いが、引き蹄まった筋肉質の身体を持つ、整った顔立ちの惣左衛門は、実年齢の四十代中頃よりも、十歳は若く見える。

 ジーンズに白のTシャツという姿は、セフィロトの首輪を装着した時に、着ていた服装である。


 マジックオーナメントを外すと、装着した時の服装に戻るのだ。

 外したセフィロトの首輪を、右手でジーンズの後ろポケットにねじ込みつつ、惣左衛門は心の中で呟く。


(顔認識妨害は、切ってるみたいだな)


 魔法少女で無くなったので、惣左衛門はシドリの顔認識妨害能力の影響を受けるのだが元から顔認識妨害機能を使用していない、クロウリーの顔に変化が無いのは当然として、他の魔法使い達の顔も、魔法少女であった時と、変わりが無く見えた。

 故に、魔法使い達が顔認識妨害能力を切っていると、惣左衛門は判断したのだ。


「親父……」


 一年半振りに、男の身体の惣左衛門を見た一刀斎は、感慨深げに呟いた。


「私の言った通り、お父様は魔法少女を辞めたでしょう? 自分の子供の命を助ける為なら、何だってするのが親なのよ……それが、自分の命を捨て去る様な事でもね」


 本来の姿に戻った惣左衛門を眺めながら、カリプソは一刀斎に語りかける。


「私の父も、私の命を助ける為に、警察官としての誇りや正義を……大事な物を捨ててくれたんだ」


 感情を押し殺しているのか、淡々とした口調で、カリプソは言葉を続ける。


「そんな父を倒して、罪人として捕らえた男を、私は許せないの。鬼宮君には悪いけど……」


 一刀斎を拘束する縄などを、カリプソは手刀であっさりと切り裂き、一刀斎の身体を自由にする。

 惣左衛門がセフィロトの首輪を外した以上、カリプソも一刀斎を解放するという約束を、守らなければならない。




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