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080 切り札は、最後まで秘密にしておくものですよ、クロウリー様

「アレイスター・M・クロウリー!」


 離れた場所にいる、その見慣れた細身の男……クロウリーに、惣左衛門は大声で話しかける。


「ここが、お前達に残された最後の砦……秘密のアジトって訳かい?」


「如何にも! ここは我等……銀の星教団にとって最後の砦、四宝の神殿!」


 クロウリーの方も、大声で答を返す。


「そして、貴様の墓場となる場所だよ、鬼宮惣左衛門!」


 直後、使い魔の鴉が、前に差し出されたクロウリーの左前腕にとまる。

 クロウリーが右手の指先で、その頭を叩くと、小さな爆発音と共に、鴉は煙に包まれて姿を消す。


 鴉は爆発した訳ではなく、元々いた場所……東神山の森に戻ったのだ。

 役目を終えた使い魔の鴉を使役していた魔法……特殊魔法である使役魔法を、クロウリーが解いたので。


 煙を発生させた爆発は、使役魔法を解除する際、使い魔が空間転移する事により、発生する現象である。

 クロウリーは気楽に、使い魔が空間転移を行う使役魔法を使っているが、普通の魔法使いが使う使役魔法は、空間を普通に移動するだけで、空間転移など行わない。


 大魔法使いである、クロウリーだからこそ、空間転移を行う高度な使役魔法を使い、神山DZPM内から外にいる使い魔を、召喚したり戻したり出来るのだ。


「――交通の便が悪い上に、日当たりの悪い墓場なんか、無料ただでもお断りだ」


 惣左衛門は軽口を叩きながらも、立体映像を確認し、この空間にある危険な存在を、一瞬で確認する。

 立体映像にある赤い部分は、離れた場所にある二つの小さな点だけになっていた。


 その一つがあるのが、クロウリーがいる辺り。

 つまり、赤い光点の一つは、クロウリーという訳だ。


「正面のがクロウリーなら、右前方の方はカリプソか……」


 銀の星教団の残存戦力で、自分にとって危険な相手は、クロウリーとカリプソだけだと、惣左衛門は考えている。

 秘密のアジトを再現した立体映像に、二つの赤い光点があるのなら、それはクロウリーとカリプソに他ならないと、惣左衛門は判断したのだった。


 もう一つの光点があるのは、惣左衛門からだと右前方に見える、四方の神殿の底面にある四隅の一つ。

 護符の壁画がある岩壁の、向かって右下にある隅である。


 惣左衛門は即座に、右前方に目をやる。

 すると、ドラム缶の陰になり、惣左衛門の位置からだと見え難いのだが、二つの人影が視認出来た。


 クロウリー達の動きを警戒しつつも、惣左衛門は素早く、二十メートル程前進。

 すると、惣左衛門と二つの人影の間に、ドラム缶が存在しない位置関係となる。


 ドラム缶の陰ではなくなった、二つの人影が誰なのか、惣左衛門は視認する。

 二つの人影は、椅子に縛り付けられている一刀斎と、片膝立ちの姿勢で、一刀斎に寄り添っている、仮面の魔女……カリプソであった。


 一刀斎の姿を確認出来た事に安堵しつつ、惣左衛門は問いかける。


「一刀斎、無事か?」


 だが、一刀斎からの返事は無い。

 カリプソが手刀にしている右手を、喉元に突き付けて圧迫しているので、一刀斎は声が出せないのである。


「無事だよ、今の所はな」


 返事が出来ない一刀斎の代わりに、クロウリーが惣左衛門の問いに答える。


「――だが、貴様の態度次第で、無事では無くなる事もある」


 クロウリーが右手を上げて、合図を出したのを視認したカリプソは、一刀斎の喉元から右手を外す。

 そして、カリプソから見て右側の地面に立っている、パイプテント用の鉄パイプの一本に右手を伸ばすと、手刀で斬るかの様な動きを見せる。


 すると、余りにも呆気無く、鉄パイプが切断され、切断面から上の部分が地面に落下し、金属音を響かせる。

 軽々と鉄パイプを斬って見せた上で、カリプソは再び、一刀斎の喉元に、右手の手刀を突き付ける。


「カリプソの手刀は、鉄をも引き裂く。貴様の息子の頭を、身体と斬り離す程度の事など、児戯に等しい」


 クロウリーの脅しには言葉を返さず、役目を終えたと判断した、索敵魔法を解除した上で、惣左衛門はカリプソに声をかける。


「カリプソ! 貴様は非戦闘員の子供に手を出すような、道を外れた女じゃ無いと、思っていたんだがな! 俺は貴様の事を、買い被っていたのか?」


 惣左衛門の問いかけに、カリプソは答えず、代わりにクロウリーが答える。


「カリプソは、貴様が昨日……魔法拘置所送りにした、ルドラの娘だ! 例え非戦闘員の子供であっても、貴様の息子である以上、手を出す事を躊躇いはしない!」


 勝ち誇った様に、クロウリーは続ける。


「まさか、貴様の息子がカリプソの教え子だとは、思わなかったがな……」


「切り札は、最後まで秘密にしておくものですよ、クロウリー様」


 カリプソはクロウリーにすら、自分と一刀斎の関係を、昨夜まで教えていなかった。

 カリプソは、北村藤那としての人間関係を、銀の星教団の仲間に、殆ど知らせていないので、一刀斎と関わっている事も、秘密にしていたのである。


 クロウリーの様に、既に正体が露呈し、潜伏生活を続けている魔法使いと違い、正体がばれていない魔法使い達は、普段は一般人同様の生活を営んでいる者達が多い。

 一般人として生活している魔法使い達は、自分達や組織の安全の為、自分の一般人としての生活に関する情報を、殆ど仲間に明かさない。 


 昨夜、一刀斎の拉致計画を提案するまで、本名は当然、凪澤中学校で音楽教師をしていた事すら、カリプソは銀の星教団の仲間に、隠していたのである。

 以前、魔法で藤那に治療を施した事から、本名を知っていたクロウリーですら、凪澤中学校で教師をしている事を、昨夜初めて知らされた程度に、カリプソは個人情報を、徹底して伏せていたのだ。



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