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079 この電話ボックス、人でも食うのか?

「見た目もヤバいが、実態は更にヤバいな」


 神山DZPMの、不条理な光景の中を歩きながら、惣左衛門は呟く。

 見た目の光景も、シュールレアリズムの芸術作品の様に、尋常ではないのだが、索敵魔法が作り出した立体映像が伝える、周囲の実態……危険さも、尋常ではないのだ。


 惣左衛門の左斜め前一メートル程の、胸の高さ辺りには、周囲の空間を精密に再現した立体映像が、浮かんでいるかの様に表示されている。

 惣左衛門が得た索敵能力が表示した、立体映像である。


 索敵範囲は半径百メートル程に落ちているだけでなく、頻繁にノイズが走り、たまに完全に立体映像が消えてしまう。

 惣左衛門程に強力な魔力を持つ、強力な索敵魔法の使い手であっても、安定的に動作しないのだ。


 惣左衛門ではない魔法少女では、安全なルートがあったとしても、索敵魔法が動作不能になり、そのルート自体を見付けられないか、途中で見失ってしまい、死に至るだろう。

 その程度に、索敵魔法の動作を邪魔する何かが、神山DZPMには存在するのである。


 立体映像は殆どが真っ赤に染まり、虫食いリンゴの様な状態だ。

 虫が食い荒らした穴が、安全なルートに相当する。


「リンゴを食い荒らす、虫にでもなった気分だぜ」


 惣左衛門は立体映像を見ながら、愚痴を吐く。

 狭い安全なルートを外れたら、立体映像が赤で示す、「俺の命に危険を及ぼす存在全て」がある場所に入り、命を奪われかねないのである。


「危険な場所より安全な場所の方が、圧倒的に少ないのは、前と同じだが……妙に安定してやがるな」


 不思議そうに、惣左衛門は呟く。

 惣左衛門が以前、神山DZPMを探索した時は、安全な場所が少ない事だけでなく、頻繁に周囲の状況が変わる事にも、苦しめられたのだ。


「危険が無いと、索敵魔法に表示された筈の道を歩いていたら、一瞬で周囲が……全てを溶かす溶解液だらけの沼になったり、何も無い空中から、いきなり何かの『口』だけが、数え切れない程の数現れて、噛み付いてきたり……無茶苦茶なんだよ」


 鉄条網の近くで、この様に語った通りの事態に、惣左衛門と牡丹は襲われたのである。

 ところが、既に数分間も歩いているにも関わらず、今回は周囲の状況変化が起こらず、とても安定しているのが、惣左衛門には不思議だった。


 ムルティ・ムンディの残骸を持つ者が、神山DZPMに入ったせいで、作られた安全なルートの周囲では、そのたぐい状況変化が起こらないのだ。

 惣左衛門には、知る由も無いのだが。


 クロウリーの使い魔である鴉は、時折安全な場所にとまったりしながらも、ゆっくりと低空飛行を続けている。

 立体映像で安全を確認しながら、前方を飛ぶ鴉の後を、惣左衛門は歩き続けている。


 今時珍しい電話ボックスの姿が、惣左衛門の目に飛び込んで来る。

 右前方にある実物の電話ボックスと、立体映像の中に再現されている電話ボックスを、惣左衛門は見比べる。


 見た目は普通の電話ボックスなのだが、立体映像の中で、マッチ箱程のサイズに再現された電話ボックスは、真っ赤に色付いている。


「この電話ボックス、人でも食うのか?」


 何故、この電話ボックスが危険なのか、惣左衛門には分からない。

 好奇心旺盛な惣左衛門は、調べてみたくて仕方が無いのだが、そんな暇は無いし、「好奇心は猫を殺す」という諺も頭に浮かんだので、調べたいという欲望を抑え込んだ。


 そのまま、鴉を追って歩き続けた惣左衛門の前に、マンションの残骸が現れる。

 元々は、十階建ての高層マンションだったのだが、シンザン・ジェノサイドによって崩壊し、二階以上の部分が、完全に消滅してしまい、今では一階の出入口とエントランスホールしか、残されていない。


 自動ドアが粉々になっているので、ドアが開かずとも通り抜けられるマンションの出入口から、中に入った鴉は、エントランスホールの中を飛んで行く。

 惣左衛門も鴉の後を追い、マンションのエントランスホールに足を踏み入れる。


 エントランスホールの床には、大地震の後であるかの様に、崩れ落ちた壁や天井の破片が、至る所に散らばっている。

 天井に大穴が開いているので、太陽光が射し込み、暗くは無いし、空気に淀みも無い。


 至る所が破損しているエントランスホールの先には、戸が開いたままになっているエレベーターがあり、その隣には、階段が設置されている。

 鴉は階段の上を、何も無い筈の上に向って、飛んで行く。惣左衛門も鴉の後を追って、階段を上る。


「上の階は、吹っ飛んでる筈なんだが……何かあるのか?」


 立体映像の中のマンションにも、二階以上は存在していない。

 階段自体は安全なルートなのだが、そのルート自体も途切れているのだ。


 それでも、案内役である鴉が、階段の上を飛んで行くので、惣左衛門としては後に続くしかない。

 惣左衛門は慎重に、階段を上がり続ける。


 階段を上る鴉と惣左衛門は、かってはマンションの二階だった、現在は廃虚の屋根になっている場所に、出る筈だった。

 しかし、鴉と惣左衛門が辿り着いたのは、陽光に照らされた廃虚の屋根では無く、岩壁に覆われた、だだっ広い空間だったのだ。


「どうやら、マンションの階段の空間が、ここに繋がってるみたいだな」


 惣左衛門の推測通り、ここはマンションがあった場所とは、別の所に存在していて、マンションの階段と空間が繋がっているだけなのだ。

 神山DZPMの中では、空間が出鱈目な繋がり方をしている事は、過去の探索時の経験で知っている為、惣左衛門は状況を大雑把にではあるが、正しく把握出来た。


 一応は照明らしき物があるのだが、空間の中は薄暗く、肌を撫でる空気は、ひんやりと冷たい。

 惣左衛門は一瞬で周囲を見回すと、空間全体を視認し把握する。


 一辺が二百メートル程の、完全なる立方体。

 周囲は壁画が描かれた岩壁に囲まれていて、外部に通じていると思われるのは、惣左衛門が上がって来た、中央辺りにある階段だけ。


 そして、護符の様な壁画が描かれた壁面の側には、パイプテントが幾つか並んでいて、その手前に六つ人影が並んでいるのが、視認出来る。

 クロウリーの使い魔に案内された場所にいる人影は、銀の星教団の者達に決っていると、惣左衛門は警戒。


 自分を待ち構えていたかの様に、パイプテントの手前で二メートル程の間隔を空け、横一列に並んでいる、黒いローブを身に纏う男達の顔を、惣左衛門は確かめる。

 七十メートル程は離れているのだが、気の力で人並外れたレベルまで、視力を引き上げられる惣左衛門は、この距離からでも顔を余裕で見分けられる。


 六人の中には惣左衛門にとって、見慣れた細身の男がいた。

 向かって右から三番目にいる、その細身の男に向かって、クロウリーの使い魔の鴉は飛んで行く。




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