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075 神剣と魔法の杖、護符に聖杯という、四つの宝……神器が祀られていたので、四宝(しほう)の神殿

 ひんやりとした空気に肌を撫でられ、一刀斎は意識を取り戻す。

 目を開くと、部活を終えて帰宅する頃の校庭の様に、辺りは薄暗かったので、何時の間にか夕暮れ時になったのかなと、一刀斎は思う。


 目に映ったのは、褐色の岩壁に覆われた、だだっ広い空間。

 岩壁が平らであった為、自然に出来た洞窟や、地下空洞というよりは、人為的に作られた空間の様に、一刀斎には思えた。


 すぐに辺りを見回して、一刀斎は状況を確認しようとする。

 だが、まともに動くのは首から上だけで、身体が上手く動かない。


 自分の身体の状態を確認した一刀斎は、手足を拘束され、木製の椅子に縛り付けられ、座らされている事に気付く。


「目が覚めたみたいね……」


 右上から、聞き慣れた声がする……藤那の声である。

 一刀斎が声のする方に目をやると、ダークスーツを身に纏う、仮面を被った女がいた。


 仮面の口元……唇の左下には、ホクロがある。


「北村……先生?」


 仮面を被った、その魔女の名前を、一刀斎はニュース映像などで見て、知っていた。

 しかし、一刀斎は外見では無く、聞き覚えのある声の主の名を呼んだ。


「それは、ただの本名……世を忍ぶ為の、仮の名前。私の真名しんみょう……魔法使いとしての名前は、クロノ・カリプソ」


 真名とは、魔法使いが名乗る、魔法使いとしての名である。

 アレイスター・M・クロウリーにルドラ、レキウユンやサンジェルマンなどの名称は、全て真名であり、彼等は全員、別の本名を持っている。


「カリプソ……」


 そんな音楽のジャンルがある事を、一刀斎は音楽の授業で習った事があった。

 神話に出て来る、英雄オデッセイウスを惑わした魔女の名前も、カリプソだったという事を、藤那が雑談として話していた事も、一刀斎は思い出した。


 魔法使いの真名は、伝説や神話に出て来るキャラクターの名前や、歴史に名を残した魔法使いや魔女の名前から引用したり、魔法において、重大な意味を持つ言葉を参考にして、名付けられる事が多い。

 他にも、本名をアナグラムで変換して真名とする命名法など、固有の命名法を採用している組織もある。


「先生が、仮面の魔女だったなんてね……。驚いたよ」


 憧れていた藤那が、最も有名な魔法主義革命家の一人だったという、信じたくは無い現実を突き付けられた一刀斎は、ショックを受けながらも、素直な感想を口にする。


「ここは神山DZPMにある、銀の星教団のアジトよ」


 カリプソの言葉を聞いて、一刀斎は驚く。

 藤那がカリプソであった事程ではないが、自分がいる場所が、神山DZPMにあるなどと聞かされて、驚かない者はいないのだ。


 メディアを通じて、神山DZPMの危険性を知らされただけでなく、一刀斎にとっては、家族の惣左衛門と親族の牡丹が、まともに行動すら出来ず、重傷を負った場所でもある、神山DZPMの危険性は、大抵の人よりも、心に深く刻まれていた。


「ここが本当は何なのか、私達にも分からないんだけど、ここでクロウリー様がサンジェルマンと戦った時、サンジェルマンから聞いた話では……」


 カリプソの言う通り、ここはクロウリーとサンジェルマンの、最終決戦の地であったのだ。


「『四宝しほうの神殿』という、異世界の神殿なんだって」


 神山DZPMが発生したのは、禁忌魔法である「この世界と異世界を繋ぐ魔法」の実験を、サンジェルマンと不死連盟が行ったせいだという話は、一刀斎も噂を通じて知っていた。

 シンザン・ジェノサイド以前に、サンジェルマンと交友があった魔法主義革命家が、サンジェルマン自身から聞いた話というのが、噂の出所とされているが、それが事実なのかどうかは不明である。


「神剣と魔法の杖、護符に聖杯という、四つの宝……神器が祀られていたので、四宝しほうの神殿」


 二百メートル程離れた場所にある正面の壁と、右側の壁を、カリプソは指差す。


「四宝の神殿は、一辺が二百メートルの完全な立方体の空間で、四つの神器の壁画が、四方の壁に描かれてるの」


 カリプソの指差した先には、壁画があった。

 正面の壁には聖杯の壁画が、右側の壁には、神剣の壁画が。


「鬼宮君からは見えないだろうけど、後ろの壁には、護符の壁画が描かれていて、左側の壁には、魔法の杖の壁画も描かれてるんだよ」


 一刀斎がいるのは、立方体である四方の神殿の底辺にある、四隅の一つ。

 護符の壁画が描かれた壁を背にして、一刀斎は椅子に座り、身体を拘束されているのだ。


 後ろを振り返れないので、後ろにある護符の壁画を、一刀斎は見る事が出来ない。

 左側の壁が接する程に近いせいで、見上げても全体像を捉えられず、左側の壁に描かれている、魔法の杖の壁画も、一刀斎には見えないも同然の状態。


 正面の壁に描かれた聖杯の壁画と、離れているので全体像が見える、右側の壁に描かれた神剣の壁画は、一刀斎がいる場所から、まともに見る事が出来る。

 故に、正面と右側の壁だけを、カリプソは指差したのである。


 神剣の壁画を見るついでに、四宝の神殿内部を見回した一刀斎の目は、様々な物の存在を捉える。

 カリプソの陰になっていて、見え難かったのだが、一刀斎の右側には、幾つものパイプテントが設置されていた。


 一番近いものでも、一刀斎から五十メートル近く離れた辺りに、パイプテントは設置されている。

 パイプテントがある辺りに、魔法使いらしき黒装束の者達がいるのにも、一刀斎は気付く。


 黒装束の者達を見ながら、一刀斎は自問する。


(銀の星教団の、魔法使い達かな?)


 他にも、食料品のダンボールや木箱、水が入っているらしいドラム缶などが、護符の壁画が描かれた壁の付近の、あちらこちらに置かれていた。

 良く見ると、一刀斎やカリプソがいる辺りにも、以前はパイプテントが設置されていたらしく、カリプソの右側辺りに、鉄パイプが何本か立っている。


 カリプソの他にも、複数の魔法使い達がいる上、生活に必要な物資まである事から、ここがカリプソが言った通り、銀の星教団のアジトとして使われているのは、確かなのだろうと一刀斎は思う。



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