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074 ――じゃ、せっかくの御招待だし、連中のアジトでも、見物してくるとするかね

「――じゃ、せっかくの御招待だし、連中のアジトでも、見物してくるとするかね」


 気楽な口調に戻った惣左衛門に、才蔵が慌てて声をかける。


「罠ですよ、明らかに」


「分かってるさ、それくらい」


 平然とした口調で、惣左衛門は言葉を返す。

 何時も通りの気楽な笑顔ではあるのだが、揺るがぬ決意を感じさせる強い光を、惣左衛門の瞳は宿している。


「――でも、連中のアジトには、息子がいるんだ。親父としちゃ、行かない訳にはいかんだろ」


 そう言われてしまうと、一刀斎の誘拐を防げなかった才蔵としても、言い返す言葉が無い。

 もっとも、既に決意を固めている惣左衛門に、どの様な言葉をかけたところで、止められない事くらい、才蔵には分かっていたのだが。


「ノウビリティ! 我がセフィルよ、索敵能力を得る為の、力となれ!」


 能力魔法発動コマンドの宣言を終え、索敵能力を指定した惣左衛門の足下に、十字の形をした能力魔法陣が現れる。

 セフィルをチャージしたセフィロトの首輪から、セフィルの光線が能力魔法陣に向けて放たれる。


 金色に輝く能力魔法陣は、縮小しつつ惣左衛門の胸元に吸着、索敵魔法が発動する。


「索敵準備! 移動しながらになるから、小さめのだ!」


 惣左衛門が宣言すると、目の前に周囲の状況を表した、立体映像が現れる。

 移動しながら使用するつもりなので、作り出された立体映像は、四畳半の部屋程の大きさのものではなく、直径一メートル程度しかない球形のもの。


 球形の立体映像は、惣左衛門の左前方……一メートル程の辺りに、ヘリウムガスが注入された、風船の様に浮いている。

 目の前に大き過ぎる立体映像があると、移動し難いので、移動しながら索敵を行う場合は、立体映像を小型にした上で、斜め前に配置する場合が多い。


「――やはり索敵範囲が、百分の一くらいに落ちるな。前よりはマシにはなったが」


 立体映像を見ながら、惣左衛門は呟く。

 索敵魔法は通常、索敵範囲を指定しなければ、最大の索敵範囲が立体映像化される。

 現在の惣左衛門の場合は、半径十キロの球形の範囲が、立体映像化される訳だ(ちなみに、内部を見たいと、魔法使用者が望んだ部分は、内部が透けて見える)。


 ところが、今回は違った。

 何の指定もしていないのに、半径百メートル程の範囲しか、立体映像化されていないのである。


 惣左衛門自身は、まだ神山DZPMには、足を踏み入れていない。

 だが、索敵範囲に神山DZPMが入った状態になると、その時点で索敵魔法の索敵範囲は、百分の一程度まで、狭まってしまうのだ。


 一年前、惣左衛門の索敵魔法の索敵範囲は、半径七キロ程度と、今現在の十キロの七割程度だった。

 それ故、索敵範囲が百分の一に落ちるにしても、「前よりはマシ」なのであある。


「索敵対象は、俺の命に危険を及ぼす存在全てだ!」


 惣左衛門が索敵対象を指定すると、神山DZPMの立体映像が、真っ赤に染まる。

 索敵対象が存在する事を示す色は、自由に指定出来るのだが、何も指定しない場合、危険な存在は赤で表示される。


「相変わらず、リンゴやトマトみたいに真っ赤だが、明らかに妙な部分があるな……」


 妙な部分とは、赤に染まる立体映像の中に存在する、命の危険が無い事を示す、赤く染まっていないトンネルの様な部分である。

 明らかに人為的に作られた、安全なルートの様に、惣左衛門には思えた。


「そういえば、カリプソが走っていたのは、この赤くなっていない場所でした」


 才蔵の言葉に、奉侍と新人の警備隊員が頷いたのを視認した後、立体映像から神山DZPMの方に、惣左衛門は目線を移す。

 すると、樹木と電柱が融合した感じの物の、枝らしき部分にとまっている、クロウリーの使い魔の鴉の姿が、惣左衛門の目に映る。


 鴉は立体映像で安全とされる辺りを、ゆっくりと低空飛行していたのだが、惣左衛門が来ないので、樹木と電柱が融合した感じの物の枝にとまり、待っていたのだ。

 無論、その樹木と電柱が融合した感じの物も、立体映像が安全だと示す辺りに立っている。


 鴉がいる先には、カリプソが穴の中に姿を消した、巨大なエメンタールの様な、謎の構造物が存在した。


「――一年前には、こんな安全なルートなんざ、無かった筈だがねぇ?」


 一年前の探索の際、比較的安全な探索ルートを探す為、神山DZPMの外縁部は、索敵魔法を使える魔法少女達が、集団で調査を行った。

 だが、この辺りだけでなく、何処にも安全なルートなど、無かったのである。


「ま、安全なルートがあるなら、利用させて貰うだけの話さ」


 惣左衛門は才蔵を一瞥しつつ、言葉を続ける。


「じゃあ、行って来るよ。規格外犯罪対策局の方には、適当に説明しといてくれ」


 既に背を向けている惣左衛門に、才蔵は声をかける。


「――分かりました。どうぞ、御無事で」


 才蔵の言葉に、左手を軽く振って応えてから、惣左衛門は地を蹴って跳躍。

 気の力を使って高めた跳躍力により、四メートルもの高さがある、三重の鉄条網を、平然と一跳びで跳び越える。


 鉄条網内に入った惣左衛門は、念の為に立体映像で安全を確認しつつ、神山DZPMの中を、早歩きで移動し始める。

 安全らしいルートがあっても、流石に走って移動する気には、惣左衛門はなれないのだ。


 遠ざかって行く惣左衛門の後姿を、才蔵達は心配そうな顔で見送る。

 家族を人質に取られ、独り敵地へと向かう惣左衛門が、窮地に追い込まれるだろう事は、明らかだったので……。



    ×    ×    ×




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