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073 堕ちるとこまで、堕ちたもんだな

 高度な魔法の使い手たる、幹部クラスの魔法使いであっても、圧倒的に数が多い一般人の目から、完全に姿を隠し、潜伏生活を続けるのは難しい。

 大抵の魔法主義革命家団体の場合、市民からの通報を元にした、魔法少女によるアジトの急襲により、魔法使いを倒された数と、テロ事件での戦闘中に、魔法少女に倒された魔法使いの数には、大差が無い。


 アジトを急襲された場合、幹部クラスの強力な魔法使いは、その場から逃れる事は出来ても、すぐに他のアジトに逃げ込む事は出来ない。

 そうすれば、他のアジトまでも、追跡して来る魔法少女に、発見されてしまう可能性が高いので。


 故に、アジトを急襲された、幹部クラスの魔法使いは、魔法少女の追撃を、完全に振り切った確信を持てるまで、他のアジトには逃げ込めないのである。

 テロ事件を行った後、逃走する場合も同じであり、魔法使い達は魔法少女の追撃を、完全に振り切らなければ、アジトに逃げ込む訳にはいかないのだ。


 以前であれば、普通の魔法使いとは違い、幹部クラスの優れた魔法使いであれば、魔法少女による追撃を完全に振り切り、アジトに逃げ込める可能性は、割と高かった。

 だが、戦闘能力だけでなく、索敵能力にも優れる惣左衛門が、魔法少女となって以降、幹部クラスの魔法使いですら、追撃を振り切るのは、著しく困難な状況となった。


 その結果、アジトに逃げ込めもせず、結局は追撃して来る惣左衛門などの魔法少女に、幹部クラスの魔法使いですら討ち取られてしまうのが、ここ暫くの間は有り勝ちなパターンとなっている。

 ところが、その有り勝ちなパターンが当てはまらないのが、銀の星教団なのだ。


 銀の星教団も、過去に多数のアジトを発見され、惣左衛門などの魔法少女達による襲撃を受けている。

 テロ事件を引き起こした後、惣左衛門を中心とした魔法少女達との戦いに負け、逃走する羽目になった事も数多い。


 ところが、銀の星教団の場合は、アジトを急襲された場合であれ、テロ事件を引き起こした後であれ、幹部達が倒されるのは、戦闘中が殆どであり、逃走段階に入った幹部達は、その多くが逃げ遂せてしまっていた。

 銀の星教団の幹部の魔法使い達は、逃走に専念する段階になると、忽然と姿を消してしまい、惣左衛門の索敵魔法ですら、足取りがつかめなくなってしまうのである。


 国会議事堂から逃走した時も、初期段階では惣左衛門の索敵魔法に、クロウリー達は捉えられていた。

 だが、追跡の途中でクロウリー達の反応は消えてしまい、惣左衛門はクロウリー達を、取り逃がしてしまっていた(中級と下級の魔法使いは、十二人捕らえたのだが)。


 様々な過去の事例から、銀の星教団は、日本政府の各機関だけでなく、魔法少女達ですら所在を一切掴めない、上級幹部のみが知る秘密のアジトを持っていると、推測されていた。

 彩多摩県において、索敵魔法で捉えられなくなったケースが、比較的多かった為、規格外犯罪対策局でも彩多摩県を、秘密のアジトの最有力候補地と看做みなしてはいた。


 だが、さすがに神山DZPM内に存在する可能性までは、規格外犯罪対策局も考慮していなかった。

 その秘密のアジトが、どうやら神山DZPM内にあるらしいと、今……ようやく、惣左衛門は気付いたのだ。


「――そりゃ、こんなヤバ過ぎる場所にアジトを持ってりゃ、見付からない訳だよ」


 惣左衛門は驚き半分、呆れ半分といった感じの口調で、感想を漏らす。


「最高レベルの魔法使いでも、ここには入らない筈だったからな。クロウリーですら、サンジェルマンの元に辿り着くまでに、右腕を失ったような場所なんだし」


 クロウリーが神山DZPMで、右腕を失った事は、魔法主義革命家団体の間では、クロウリーの武勇伝として語られる、有名な話となっている。

 捕えた銀の星教団の魔法使いから、規格外犯罪対策局も、その話が事実である確認を取っていた。


「銀の星教団のアジトが、神山DZPMに……。そう考えれば、確かに色々と辻褄が合いそうですね」


 神山DZPMを眺めながら、才蔵は続ける。


「世界最強の魔法少女ですら、まともに探索出来なかった場所に、アジトを置いているなんて話は、にわかには信じ難いですが、カリプソの行動を見る限り、有り得ない話ではないでしょう」


 才蔵の言葉に、奉侍と新人の警備隊員が頷いた直後、神山DZPMの空から、何かが飛来して来た。

 一応は青空の一部なのに、熟した桃の様に色付いている辺りの空から、一羽のからすが惣左衛門達がいる方向に、飛んで来たのである。


 鴉の両目は、燃え盛る炎の様に、赤々とした光を放っている。

 魔法使いが魔法によって、自由に使役する事が出来る動物…‥使い魔の目は、この様に赤々と輝くのだ。


「――クロウリーの使い魔の、お出ましだよ」


 特に驚いた様子もなく、惣左衛門は鴉を見上げながら、そう言い放つ。

 クロウリーが鴉を好んで使い魔にしているのを、惣左衛門は知っていた。


 日本中に生息していて、空を飛べるし頭も良い鴉は、使い魔に適しているので、他にも鴉を使い魔とする魔法使いはいるが、このタイミングで、神山DZPMの方から飛来する、鴉の使い魔となれば、それはクロウリーの使い魔に他ならない。

 一刀斎を誘拐したカリプソが所属し、神山DZPMにアジトを構える、銀の星教団の教主であるクロウリーが、一刀斎誘拐の件に関し、惣左衛門にコンタクトを取る為に寄越した、使い魔の鴉に決っているのだ。


 鴉は四メートル程の高さがある、一番外側の鉄条網の上にとまる。

 赤く輝く目で、鴉は惣左衛門達を見下ろす。


 そんな鴉を見上げ、惣左衛門は一応、確認の言葉を投げかける。


「お前さんは、クロウリーの使い魔なんだろ?」


「察しが良いな、鬼宮惣左衛門!」


 鴉がくちばしを動かし、クロウリーの声で喋り出す。

 クロウリーが使い魔を通して、惣左衛門の問いに答えたのだ。


 くちばしを通して喋るだけでなく、クロウリーは鴉の目を通して、惣左衛門達の様子を見ているし、耳を通して声も聞いている。


「クロウリーの使い魔が、クロウってのは、駄洒落のつもりかい?」


 この場面に至っても、惣左衛門は平然と軽口を叩く。


「――生憎だが、貴様と冗談の言い合いをする気は無い」


「だったら、用件は何だ?」


「貴様の息子を預かっている。息子の命が惜しければ、この鴉の後を追って来い!」


 予想通りの展開だなと、惣左衛門は思う。


「堕ちるとこまで、堕ちたもんだな」


 怒りを押し殺しながら、惣左衛門は冷静に、会話を続ける。


「あのサンジェルマンと不死連盟を処刑した、誇り高き銀の星教団が、故意にシュタイナー協定を破り、民間人の子供を誘拐するとは」


 堕ちた自覚はあるのだろう、クロウリーは答に窮し、すぐには言葉を返せない。

 数秒が過ぎてから、重々しい口調で、クロウリーは再び口を開く。


「――我々には、既に手段を選んでいる余裕など、有りはしない! そして、我々をそこまで追い込んだのは、貴様なのだよ、鬼宮惣左衛門!」


「そりや、そうなんだろうけどさ……。追い込まれたからって、自分の信条を捨てるとか、みっともないって、思わないのか?」


「――使い魔を追って来い。待っているぞ」


 クロウリーは惣左衛門の問いには答えずに、会話を打ち切った。


「堕ちた自覚も、みっともない真似してる自覚も、一応はあるって訳か……」


 呆れた風に肩を竦めつつ、惣左衛門は言葉を吐き捨てる。

 クロウリーが問いに答えず、会話を打ち切った理由を、そうであろうと察したのである。


 惣左衛門は怒りと同時に、少しだけ寂しさを感じていた。

 敵であっても、筋を通して生きている強者だと認めていた相手が、堕ちた真似をするのは、余り気分の良いものでは無いのだ。




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