007 ――相変わらず、逃げ足だけは速い奴等だ!
水のセフィルの奔流が直撃したダメージから、すぐに惣左衛門は回復した。
だが、惣左衛門がいたのは、濃い霧の様な水蒸気の中であった為、状況がどうなっているのか、即座には把握出来なかった。
逆に言えば、クロウリーやカリプソにも、惣左衛門の状態や位置が分からなかったので、惣左衛門を攻撃出来ない状況だった。
カリプソは撤退を前提として、煙幕の如き水蒸気を発生させたので、互いに攻撃し難い状況となったのは、むしろ狙い通りだったのだが。
「ゲフェクト! 我がセフィルよ、風となりて、この邪魔な水蒸気を吹き飛ばせ!」
セフィロトの首輪にある、目に似た紋様の部分から、惣左衛門の足下に出現した現象魔法陣に、セフィルの光線が照射される。
すると、現象魔法陣が巨大な送風機とでも化したかの様に、現象魔法陣の中から、暴風が吹き上がる。
この暴風こそが、魔法の風……風のセフィル。
風のセフィルは惣左衛門の意思通りに動き、衆議院本会議場中を吹き荒れて、大量の水蒸気を巻き込むと、一気に天井の大穴に向かって、吹き上がって行く。
水蒸気と化している水のセフィルが、天井の穴から放出された結果、衆議院本会議場の視界は一気に晴れ、代わりに気圧が下がる。
だが、天井の穴や各所の出入口から、気圧が下がった衆議院本会議場に、空気が流れ込んで来たので、すぐに気圧は正常化する。
外から流れ込んで来た空気の流れに、紺色の髪やブルーのワンピースの裾を揺らしながら、惣左衛門は衆院本会議場を見渡す。
視界は回復したのだが、水蒸気だけでなく、銀の星教団のメンバー達の姿も、完全に消え去っていた。
クロウリー率いる銀の星教団の一党は、既に衆議院本会議場から、逃げ遂せていたのだ。
「――相変わらず、逃げ足だけは速い奴等だ!」
口惜しげに、惣左衛門は言葉を続ける。
「だが、俺の索敵魔法の索敵範囲……半径十キロ圏内からは、まだ出ていない筈!」
惣左衛門は索敵魔法で、クロウリー達を探す事を即決。
「ノウビリティ! 我がセフィルよ、索敵能力を得る為の、力となれ!」
ノウビリティとは、人間に特定の能力を与える魔法……能力魔法の、発動コマンドである。
コマンドの宣言を終え、索敵能力を指定した惣左衛門の足下に、十字の形をした魔法陣……能力魔法陣が現れる。
セフィルをチャージしたセフィロトの首輪の、金色に光り輝き始めた目に似た紋様から、セフィルの光線が能力魔法陣に向けて放たれる。
能力魔法陣は、金色に輝きながら縮小しつつ、惣左衛門の胸元に移動。
二十センチ程の大きさの十字の印となった能力魔法陣は、惣左衛門の胸元に吸着する。
胸元で金色の十字が輝きだせば、能力魔法は完成である。
惣左衛門は、索敵能力を得たのだ。
「索敵準備!」
惣左衛門が索敵準備を宣言すると、惣左衛門の目の前に、精密な3DCGの様な、国会議事堂周辺の立体映像が出現する。
四畳半の部屋程の大きさがある、精密な立体映像は、惣左衛門が索敵能力を使って、表示したものである。
索敵魔法の見た目は、魔法というよりも、むしろ未来を舞台としたSFの映像作品に出て来る、立体映像を利用した索敵装置を思わせる。
見た目だけではなく、音声で操作し、索敵対象や索敵範囲を指定する操作法も、魔法というよりは、SFの方が似合う感じなのだ。
「索敵対象は、セフィル反応のある人間、全て!」
セフィルは、特殊な波動……セフィル波動を発信する性質がある。
つまり、魔法の使用時、魔法使いはセフィル波動を発信している事になる。
魔法を解除した後でも数分の間は、微量のセフィルが身体に残留し続けるので、一度でも魔法を使った魔法使いは、魔法を使うのを止めても、暫くの間……セフィル波動を発信し続けるのである。
魔法を使った直後のクロウリーやカリプソは当然、クロウリーが率いていた戦闘員である魔法使い達も、国会議事堂を占拠する際の戦いにおいて、魔法を使用していたので、セフィル波動を発信せざるを得ない。
惣左衛門は、クロウリー達のセフィル反応を捕捉して、追撃しようとしているのだ。
惣左衛門の索敵対象指示に従い、セフィル波動を発する人間の存在が、立体映像の中で、金色の光点として表示される。
表示された光点は二十数個、国会議事堂を襲撃した銀の星教団のメンバーは、総勢二十数名程度だったので、ほぼ同じである。
「カリース!」
光点の位置と移動方向を把握し、記憶した惣左衛門は、索敵魔法を解除した。
「ノウビリティ! 我がセフィルよ、空を舞う為の力となれ!」
惣左衛門は、能力魔法の発動コマンドを宣言し、飛行能力を指定する。
直後、能力魔法陣が足下に出現し、セフィロトの首輪からセフィルの光線が、能力魔法陣に照射される。
能力魔法陣は縮小しながら、金色の十字となりつつ、惣左衛門の胸に吸着して輝きだす。
飛行能力を得た惣左衛門は、重力を無視するかの様に宙に舞うと、天井の穴から国会議事堂の外へと、飛び去った。
索敵魔法で得た情報を元に、銀の星教団のメンバー達を捕える為に……。
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なろう向けのレイアウトとして改行を増やし、空行を多数入れた為、そのままだと本来の空行部分(場面変更時などの)が、分かり難くなってしまうので、本来の空行部分は、以下の三連の「×」と置き換えてあります。
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この三つの「×」を見かけたら、場面転換などで入る、本来の空行部分だと判断して下さい。