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069 サンジェルマンと不死連盟が引き起こした、魔法主義革命が始って以来、最大最悪の惨事は、「シンザン・ジェノサイド」と呼ばれている

 日本中で魔法主義革命家団体のテロ事件が起こり、膨大な魔法が使用された結果、電波状態は至る所で悪くなっていた。

 そのせいで、惣左衛門が移動の目印としていた、才蔵達の車が発信し続けている信号や、規格外犯罪対策局との通信も途切れがちであった。


 今朝から続いていた、日本中を飛び回りながらの激しい連戦により、魔力や体力の消耗も激しく、惣左衛門の飛行速度は、通常より落ちていた。

 その上、電波障害までもが加わったので、才蔵達の元に辿り着くのは、惣左衛門自身が想定していたよりも、かなり遅れてしまったのだ。


 神山DZPMに近付くにつれ、PEZの影響で、電波状態は更に悪くなり、繋がらない時の方が多いくらいの状態になっている。

 信号や通信が届き難い中、旧神山バイパスがある辺りから、神山DZPMにカリプソと一刀斎が入ったらしい情報が、何とか才蔵から届いたので、惣左衛門は信号が最後に確認された辺りを目指し、飛んで来たのである。


 大抵のDZPMは空から見下ろすと、まるでもやでもかかっているかの様におぼろげであり、はっきりとした姿を見る事が出来ない。

 地上で広範囲に靄がかかっっている感じの所に、神山DZPMはある訳なので、はっきりした姿は見えずとも、空から探し難い訳ではない。


 東神山側の空から神山DZPMに近付いた惣左衛門は、廃墟と化しているPEZを見下ろす。

 そして、神山DZPMに突き刺さる様に伸びている道路を、惣左衛門は眼下に捉える。


「あれが旧神山バイパスだから、カリプソや巽達の車が止まっているのは、あの先か」


 道路の先を目で辿ると、神山DZPMを囲う鉄条網と、その手前に停車している、赤と黒の車が視認出来る。

 PEZはDZPMとは違い、空からでも普通に見える為、カリプソと才蔵達の車は、豆粒大ではあるが、ちゃんと見えるのだ。


 車がある辺りに向かって、惣左衛門は降下を開始。

 滑走路に着陸する飛行機の様に、旧神山バイパスの上を降下し続け、二台の車が停車している辺りに着陸し、惣左衛門は飛行魔法を解除する。


「相変わらず、ヤバイ光景だな……」


 鉄条網の向こう側に広がる、神山DZPMの光景を眺めながら、惣左衛門は呟く。

 空からとは違い、地上からだと神山DZPMの「ヤバイ光景」は、はっきりと目にする事が出来るのだ。


 捻じ曲げられた飴細工の様に、不自然に捻れて歪んだビルや、上下が逆になっている学校の校舎、無数の鋭い棘が生えた、ハリネズミの様な市民ホールに、極彩色で彩られた市民病院ビル……。

 廃虚に並ぶ建築物の残骸の多くは、何処か超現実派の絵画に似て、不条理な雰囲気を醸し出している。


 不条理なのは、この辺りに元から存在していたが、変質し姿を変えたと思われる、建築物だけでは無い。

 廃虚の所々に群生している樹木は、ビルを軽く上回る程に巨大であり、空は所々、紫や緑……オレンジ色に染まっている。


 何も無い空から流れ落ちる滝、空中に浮かぶ島、ピラミッドの様な建物に、巨大な「目」を持つ謎の塔……。

 得体の知れない奇妙な物が、あちらこちらに存在している。


 この異様な光景の廃虚は、かっては神山しんざん町と呼ばれた、人口二万人程の地方都市と、その周辺地域の成れの果てである。

 旧神山町と周辺地域は、六年前……西暦二千二年の五月七日、魔法主義革命家の犯した愚行により、この様に異常過ぎる光景の廃虚と化したのだ。


 魔法伯爵と呼ばれた魔法使い……サンジェルマン・シャンボールは、数多くの魔法書どころか、魔法教典ですら使用を禁じた、禁忌魔法を手に入れた。

 禁忌魔法の魅力の虜となったサンジェルマンは、率いる魔法主義革命家団体……不死連盟ふしれんめいのメンバーと共に、神山町を実験場として、大規模な禁忌魔法の実験を行った。


 実験された禁忌魔法とは、この世界と異世界を繋ぐ魔法であったと推測されている。

 この禁忌魔法の使用により、旧神山町と周辺地域の空間は歪められ、幾つもの異世界に通じる穴が開いてしまった。


 空間が強引に歪められた衝撃と、異世界から流入した「何か」により、旧神山町と周辺地域の住民、総数三万四千人の尊い命が奪われた。

 サンジェルマンと不死連盟が引き起こした、魔法主義革命が始って以来、最大最悪の惨事は、「シンザン・ジェノサイド」と呼ばれている。


 この大惨事の主犯、サンジェルマンと不死連盟のメンバー達は、世界的な非難を浴びた。

 サンジェルマン達の愚行によって、魔法主義革命家達の評判は地に堕ち、世界中で無差別大量殺人者の同類だと、見なされる事になったのだ。


 その結果、サンジェルマンを除いた、世界中の主要な魔法主義革命家達の代表が集結し、自分達の汚名をそそぐべく、二つの事項を決定した。

 その一つが、魔法主義革命の為の活動において、極力……罪の無い人々を傷つけず、命を奪わない為の活動指針である、シュタイナー協定の作成と締結だった。


 シュタイナー協定が生まれる前から、大抵の魔法主義革命家団体は、民間人の殺傷は避けていたのだが、この時に協定として明文化されたのだ。

 ちなみに、シュタイナー協定には、禁忌魔法の使用禁止条項も、盛り込まれている。


 そして、もう一つの決定事項が、サンジェルマンと不死連盟のメンバー達を、自分達の同志ではなく敵と看做みなし、処刑する事だった。

 魔法主義革命家達は、魔法使いにとって、消せない汚点を残した者達を、魔法主義革命家達自身の手で、裁く事を決めたのだ。




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