表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

67/124

067 我がセフィルよ、吹き荒ぶ風となり、我に従え!

 カリプソも一人で、ティターニアと呼ばれる、人型の魔法駆動巨像を作り出せる。

 ティターニアは、魔法主義革命家団体側で使用される、標準的な魔法駆動巨像であるティターンの中で、女性型の物の事だ。


 ティターンはギリシャ神話やローマ神話に出て来る、巨大な身体を持つ神々の事であり、ティターニアは、ティターンの娘達という意味である。

 ティターンやティターニアは、シンプルな魔法駆動巨像なのだが、少人数による運用が可能で機動性が高く、魔法の呪文による改造が容易であり、最もメジャーな魔法駆動巨像といえる。


 見た目のバリエーションは様々で、カリプソが一人で作り出す場合は、身長十八メートルの、若い女性風のティターニアとなる。

 ペプロスと呼ばれる、古代ギリシャ風の女性の衣服を身に纏う、美麗で巨大な鋼の女神が、カリプソの魔法駆動巨像という訳だ。


 ただし、白大蛇を出現させようとしている柊に対し、カリプソはティターンを出現させようとはしない。

 超高速詠唱法で呪文を唱え、カリプソが足元に出現させているのは、星型の現象魔法陣。


 カリプソの胸元には、金色に輝くセフィルの光球が出現。


「我がセフィルよ、吹き荒ぶ風となり、我に従え!」


 そう言い放ちながら、カリプソはセフィルの光球を右手で掴むと、現象魔法陣に叩き付ける。

 直後、現象魔法陣から強烈な暴風……風のセフィルが出現し、カリプソの身体に纏わり付く。


 現象魔法で発生させた現象は、纏魔を使える魔法使いや魔法少女の場合、言葉で指定せずとも望むだけで、自動的に纏魔状態になる(望まなければならない)。

 纏魔を使えない魔法使いや魔法少女の場合は、身体の周囲を漂う感じで存在する為、不完全で非効率とはいえ、ある程度は防御手段にはなるのだが、打撃を強化する効果は皆無であり、飛ばして攻撃する事しか出来ない。


 単純に比較すれば、現象魔法より創造魔法の方が、魔法としては高度。

 創造魔法の中でも最上位といえる、魔法駆動巨像を作り出す魔法を使う相手に、風の現象魔法による纏魔で相対すれば、普通は不利となる。


 それにも関わらず、白大蛇を出現させようとしている柊に対し、カリプソが風のセフィルの纏魔を行ったのには、明確な理由がある。

 魔法駆動巨像を作り出す創造魔法は、高度過ぎる魔法であるが故に、負荷が重過ぎる為、深手を負った今の柊には、制御し切れる訳が無いと、カリプソは読んだのだ。


 カリプソの読みは正さを証明するかの様に、柊の足元の創造魔法陣が、床に落とした皿が割れるかの様に崩壊を開始。

 同時に、既に創造魔法陣から姿を現していた、白大蛇の頭部も、粉々に砕け散って、金色に輝くセフィルの粒子群となり、大気に溶けて消滅し始める。


 白大蛇が消滅したので、その後方……創造魔方陣の端にいた柊の姿が、カリプソの目に映る。

 柊は片膝をついて、左脇腹を押えていた。


 傷口を押える左手は血に染まり、蒼褪あおざめた顔は、苦痛に歪んでいる。

 柊が限界を迎えているのは明らかであり、限界を迎えたからこそ、制御不能となった創造魔法が解除され、白大蛇と創造魔方陣は消滅したのだ。


 立ち上がって身構えると、柊は声を絞り出して、現象魔法の発動コマンドを宣言しようとする。


「――ゲフェ……」


 だが、台風を遙かに上回る暴風に襲われてしまい、柊は宣言を終えられない。

 柊は台風の突風に飛ばされる傘の様に、強烈な魔法の風によって、百数十メートル程先まで、吹っ飛ばされてしまう。


 カリプソが身に纏う風のセフィルの半分程を、一気に柊に向けて放ったのだ。

 暴風と化した風のセフィルは、柊の身体だけではなく、砕かれたアスファルトの破片など、戦いのせいで壊れた、路上や道路脇の様々な物を、吹き飛ばしてしまった。


 吹き飛ばされた先の路上で、仰向けに倒れたまま、柊の身体は動かない。

 ただでさえ、雷撃でダメージを負っている上に、暴風に吹き飛ばされるという形で、追い討ちをかけられた柊は、完全に意識を失ったのだ。


 カリプソと柊の勝負は、ここに決着した。

 柊が朝から続く連戦で、消耗していなければ、別の結果で終わったかもしれないが、互角と評されていた両者の戦いは、カリプソの勝利で終わったのである。


 倒れている柊の元に、駆け付けた警察官達が、柊を保護して、手際よく搬送する光景が、カリプソの目に映る。

 横道に停車していて、無事だったパトカーの中に、柊を担ぎ込むと、パトカーは横道を走り出す。


 勝負がついた状態で、逃げ去る敵を追撃する様な真似を、カリプソは好まない。

 既に、かなりの時間をロスしてしまっていた上に、大量の魔力を消費してしまっていた為、カリプソ自身も、すぐにでもこの場を後にしたかったので、逃げ去るパトカーに構いなどしない。


 カリプソは車に戻り、ブラック・メイデンを外すと、眠ったままの一刀斎が無事である事を確認してから、車をスタートさせる。

 既に国道254号の前方に、カリプソの赤いライブの進行を、遮るものは無い。


 魔法の戦闘により、国道254号の路面は、大地震の後の様に荒れ果てていた。

 そのオフロードの様に荒れた路上を、赤いライブは揺れながら通り抜けると、道路脇や横道に隠れている警察官達を無視して、走り去って行く。


 その少し後、才蔵達の黒いセダンが、荒れ果てた路上を走り抜けると、カリプソのライブの後を追い、走り去って行く。

 カリプソが攻撃したのは、前方のパトカーだけだったので、後方にいた警備隊の車は、無事だったのだ(柊とカリプソの戦闘時は、巻き込まれない様に、遥か後方に退避し、戦いの様子を窺っていた)。


 カリプソの赤いライブと、その後に続く才蔵達の乗る黒いセダンは、国道254号を北北西に向かって走り続ける。

 二台の車が進む先には、今は封鎖されている、神山DZPMがある。


 かっては人口が二万に達しようとしていた地方都市、神山町しんざんまちと近隣地域の成れの果てである、神山しんざんDZPMディズピムが……。



    ×    ×    ×




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ