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066 退けと言われて退くような、みっとも無い真似が出来るかってぇのよ!

「――長引けば、不利か」


 劣勢に立たされた柊は、早目に決着をつけなければ、自分が追い込まれるだろう事を自覚し、口惜しげに呟いた。

 そして、カリプソの雷刃鴛鴦刀による攻撃のタイミングを見切り、攻撃が僅かに途切れる間合いに、雷刃の薙刀で正面を薙ぎ払い、カリプソとの間合いを取る。


 一気に勝負をつけられるが、放つ前に僅かな隙がある大技を繰り出す為、柊はカリプソの攻撃を、一度完全に断ち切ったのだ。

 そして、攻撃が断ち切られている間に、柊は雷刃の薙刀を、バトンの様に正面で回転させる。


 膨大な量の雷のセフィルを乗せ、回転運動によって加速させた薙刀の雷刃を、柊は一気にカリプソに向けて振り下ろす。

 斬撃の威力を上乗せする為の回転運動に費やす時間こそが、この大技を放つ前の、僅かな隙という訳だ。


 凄まじい出力の雷のセフィルを纏った、超高速の斬撃が、カリプソに襲い掛かる。

 鬼伝大蛇流の薙刀の技……車輪斬しゃりんざんに、魔法による雷撃を加えた、魔法少女としての柊の決め技、雷撃車輪斬らいげきしゃりんざんである。


 カリプソは左手の雷刃鴦刀で、雷撃車輪斬を受け止める。

 無論、片手だけで受け止められる程、雷撃車輪斬は甘い技では無い。受け止めきれぬ雷のセフィルは、容赦なくカリプソや、周囲の道路へと襲い掛かる。


 雷撃のみで、カリプソが身に纏う雷のセフィルによる防御……魔甲は、その殆どが失われた。

 シドリ製の戦闘服による防御力のお陰で、カリプソは何とか倒されずに済んだといえる状況。


 カリプソと柊の周囲の路面を覆うアスファルトは、半経十メートル以上の範囲に渡り、雷撃で砕け散り、焦げ茶色の土が露出してしまった。

 それ程に、雷撃車輪斬の威力は高いのだ……完全な魔力や体力で放たれた訳では無い、本来の威力とは程遠いにも関わらず。


 当然、雷撃車輪斬を受け止めた雷刃鴦刀が、無事で済む訳も無い。

 瞬く間に、雷刃鴦刀には亀裂が走り、砕け始める。


 しかし、カリプソ自身、雷撃車輪斬を雷刃鴦刀だけで受け止められるとは、思っていなかった。

 ほんの一瞬、雷撃車輪斬を受け止める役目だけしか、雷刃鴦刀には望んでいなかったのである。


 雷刃の薙刀を、雷刃鴦刀が受け止めている僅かな間に、カリプソは右手の雷刃鴛刀で、柊の胴体を狙って、鋭い突きを放つ。

 雷を纏った鋭い雷刃鴛刀の切っ先が、柊に襲い掛かる。


 カリプソの、攻撃を受けながらの攻撃が、柊の身体を貫こうとした直前、カリプソの意図に気付いた柊は、薙刀の柄の部分を無理矢理傾け、柄でカリプソの突きを払う。

 雷刃鴛刀の切っ先が、僅かに柊の胴体をかすめる。


 魔甲で防御していても、大ダメージを避けられないだろう、胴体への直撃を、柊は何とか避けた。

 だが、雷刃鴛刀の切っ先が纏う雷のセフィルを、身体に浴びてしまい、柊は悲鳴を上げながら、魔甲の防御の殆どを失ってしまう。


 柊は追撃を受けぬ様に後方に跳躍し、二十メートル程の間合いを取る。

 その上で、雷刃の薙刀を構えようとするが、雷刃の薙刀の状態を見て、柊は口惜しげに呟く。


「――駄目か」


 大技を出している最中に、無理な傾け方をしてしまった雷刃の薙刀には、重すぎる負荷がかかってしまい、全体に亀裂が走ってしまっていた。

 既に武器としては、使い物にならない状態である。


 武器として使い物にならないのは、カリプソが手にしている雷刃鴛鴦刀も同じだった。

 雷撃車輪斬を受け止めた雷刃鴦刀は、砕け散り……消滅し始めていた。


 二本で対をなす雷刃鴛鴦刀は、一本が消滅すれば、もう一本も程無く消滅してしまう。

 雷刃鴦刀が消滅し始めたので、雷刃鴛刀も消滅し始めていた。


「カリース!」


 使い物にならない武器を手にしていても、意味が無いと判断した柊は、創造魔法を解除し、雷刃の薙刀を消滅させる。

 カリプソも解除呪文を詠唱し、雷刃鴛鴦刀を消滅させる。


 両者は共に武器を失い、素手に戻ったが、既に両者の状態は、互角では無かった。

 柊は身体に、相当なダメージを負っていたのだ。


 胴体への直撃こそ避けたのだが、雷刃鴛刀の刺撃は、柊の脇腹を掠めていた。

 雷撃の方は魔甲で相殺出来たのだが、雷刃鴛刀の刀身が掠めた事によるダメージは、魔甲では防ぎ切れず、柊は左脇腹を斬られてしまっていた。


 巫女服の袴は赤いので、血は目立たないのだが、上衣の方は別だ。

 柊が身に纏う、白い上衣の左脇腹辺りが、真っ赤に染まっている。


 経絡を流れる気を操作し、即座に傷口を塞いだので、既に出血は止まっている。

 気を操る鬼伝流の武術家は、気の流れを操作して傷口を塞ぎ、止血する事が出来るのだ。


 無論、一時しのぎの、応急処置でしかない。

 柊の顔は苦痛で歪み、肌には脂汗が浮いている。


「――既に勝負は着いた! 退け!」


「退けと言われて退くような、みっとも無い真似が出来るかってぇのよ!」


 柊は身構えつつ、鋭い声を上げる。


「ソウリエイション! 我がセフィルよ、鋼の大蛇となりて、我に従え!」


 通常よりも遙かに巨大な、円形の創造魔法陣が、柊の足元に現れ、右手首にはめられた開耶の腕輪が、魔力をセフィルヘと変換してチャージし、黄金色の光を放つ。

 そして、開耶の腕輪からセフィルの光線が、創造魔法陣に照射される。


 創造魔法陣の中から、白い巨大な鋼鉄の蛇の頭部が、姿を現す。

 柊は魔法駆動巨像……白大蛇しろおろちを、創造魔法で作り出そうとしているのだ(魔法駆動巨像を出現させる為の創造魔方陣なので、通常のよりも遙かに巨大)。


 柊は榊の黒大蛇と同じ魔法で、鋼のセフィルの巨大な大蛇を作り出せるのだが、色は白いので白大蛇となる。

 基本的な性能は黒大蛇と同じだが、口から鋼のセフィルの塊を、大砲の様に吐き出す、遠距離攻撃能力を持つ分、黒大蛇より強い(ちなみに、鋼のセフィルの塊を放つと、白大蛇は縮む)。



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