064 今のは威嚇だ! もし道を開けないなら、次の一撃で、あなた方を残滅する!
(警察官達には当たらない様に、気を付けないとな……)
カリプソは、前方を塞ぐパトカーだけに狙いを定め、右手に持った水妖鞭を振るう。
水のセフィルで出来た鞭は、一気に百五十メートル以上の長さに細長く伸び、パトカーの車体に巻き付く。
カリプソが水妖鞭を引き絞ると、水の鞭が巻き付いた部分が輪切りにされ、パトカーは真っ二つに両断される。
セフィル製の武器による攻撃を防ぐ事は、この世界の通常の物質では不可能なのだ。
自分を狙うだろう銃弾の流れ弾が当たらないように、車から離れた上で、カリプソは水妖鞭を振るい続け、次々とパトカーを破壊する。
警官達はカリプソに向けて拳銃を発射し、応戦するが、銃弾は水妖鞭とダークスーツに受け止められ、カリプソを傷つける事は出来ない。
一分もかからずに、カリプソは前方を塞いでいたパトカーを、全て破壊し尽くしてしまう。
拳銃による反撃も、カリプソには通用せず、警官達は為す術を失い、じりじりと後退し続ける。
「今のは威嚇だ! もし道を開けないなら、次の一撃で、あなた方を残滅する!」
警察官達に、カリプソは鋭い口調で警告を発する。
「――て、撤退! 道を開けるんだ!」
カリプソの目論見通り、威嚇攻撃は見事な効果を発揮し、指揮官は撤退の指示を出した。
警察官達は蜘蛛の子を散らす様に、封鎖地点から撤退する。
(それで良い……)
勝って当たり前の相手を、必要以上に傷つけるつもりが無いカリプソは、封鎖が解かれた事に、安堵する。
カリプソは解除呪文を超高速詠唱して、水妖鞭を消滅させると、続け様に風の魔法の呪文を、超高速詠唱する。
出現した現象魔法陣に、セフィルを叩き付けながら、カリプソは叫ぶ。
「セフィルよ、風と成りて、我に従え!」
直後、現象魔法陣の上で、カリプソを中心として、空気の渦巻きが発生する。
渦巻く風の風速は次第に強まっていき、カリプソの周囲は、台風の暴風域に入った時のような状態になる。セフィルに風の属性を与え終えた現象魔法陣は、砕け散って消滅する。
カリプソは、人の姿が消えた前方に向けて、強烈な風のセフィルを放つ。
魔法の暴風が、カリプソの前方にある障害物……パトカーの残骸や、封鎖用の障害物などを、薙ぎ払う様に吹き飛ばした。
「これで、車でも通れるかな」
行く手を阻む障害物を、除き終えたカリプソは、車に戻ろうとする。
しかし、車に戻る前に、カリプソは何者かに呼び止められる。先程まで、パトカーの残骸が並んでいた辺りの……空中から。
「おいおい、まだ車に戻るには早過ぎるぜ、仮面の魔女さんよぉ!」
カリプソが空を見上げると、高さ五十メートル程の所に浮かんでいる、巫女姿の魔法少女の姿が、目に映る。
「鬼宮……柊!」
何時の間にか姿を現した魔法少女の名を、カリプソは叫ぶ。
「群摩でのテロを片付けてから、大急ぎで飛んで来たんだが……。どうやら間に合った様だ。一刀斎は、その車の中か?」
胸に十字の印が輝いている柊は、カリプソの車の進路を塞ぐかの様に、着地する。
着地と同時に、魔法の解除コマンドを唱え、柊は胸の十字を消す。
「だったら、どうする?」
「取り戻すに決まってんだろ! ソウリエイション! 我がセフィルよ、雷刃の薙刀となり、我に従え!」
柊の足下に創造魔法陣が現れ、柊のマジックオーナメントである開耶の腕輪が、柊の魔力をセフィルヘと変換してチャージし、黄金色に輝く。
右手にはめられている、小さな勾玉を繋ぎ合わせた形状の開耶の腕輪から、収束されたセフィルの光線が、創造魔法陣に照射される。
創造魔法陣の中から、黒くて長い柄の先に、刃先が広く反り返った刀が付いている薙刀が、姿を現す。
只の薙刀では無い。刃の部分が雷のセフィルを纏っている、雷属性の魔法武器……雷刃の薙刀である。
槍と大刀の機能を合わせ持つかの様な武器であり、雷のセフィルによる攻撃も可能な、この雷刃の薙刀を、柊は近接戦闘用の武器として愛用している。
榊同様に、鬼伝大蛇流の使い手である柊は、本来は鞭が最も得意な武器なのだが、どういう訳だか鞭の系統の魔法武器が、開耶の腕輪との相性が悪く、鞭の魔法武器が使えない。
榊は鞭程ではないが、槍や薙刀などの長柄の武器も、割と得意としていた。
それ故、規格外犯罪対策局が解析を終えていた、魔法武器を作り出す魔法の中から、使用する魔法武器として、この雷刃の薙刀を選んだのだった。
柊を見据えながら、カリプソは言い放つ。
「日本ナンバー2の魔法少女、鬼宮柊に雷刃の薙刀か……。相手にとって、不足は無い!」
武術の実力だけでなく、魔法少女としての戦闘能力に限れば、柊は榊を数段上回る。
柊は魔法少女の中でも、惣左衛門に次ぐレベルの実力者でもある。
魔法戦闘能力値はともかく、戦闘センスだけなら、教主であるクロウリーすら上回ると、惣左衛門が評したカリプソにとって、柊は言葉通り「不足は無い」相手と言える。
ちなみに、現時点での魔法戦闘能力値自体は、柊の方がカリプソより高いのだが、カリプソは飛行能力のせいで、大きく数値を減らされている様なものなので、地上戦となれば、どちらが勝つのかは分からない。
空中戦となれば、柊が勝つだろうが、今回は地上にいる一刀斎の争奪戦なので、必然的に地上戦となってしまう。
(水妖鞭は、雷撃能力との相性が悪過ぎるから、使えないな)
水の属性のセフィルは、雷……電気の属性のセフィルに電気分解され、打ち負けてしまう場合があり、不利なのである。
それ故、カリプソは水妖鞭を消滅させ、他の愛用している魔法武器を、創造魔法で造り出す事にした。