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063 こういう時、飛ぶのが得意だったら、鬼宮君を抱き抱えて、飛んで行くんだけど……苦手なのよね、飛ぶの

 このシドリで作られる服により、魔法使いが得られるメリットは、防御能力だけではない。

 顔認識妨害能力も、大きなメリットであり、この能力は魔法少女側は、一部しか保有していない。


 顔認識妨害能力とは、人に見られたりカメラで撮影された場合、本来の顔を正確に認識出来なくしてしまう能力の事だ。

 シドリ製の着衣を身に纏っている魔法使いの顔は、本人が望めば、魔力が解放されていない人間や、カメラなどの機械類に対し、顔認識妨害能力を発揮して、自分の顔を正確に認識出来なくしてしまえるのである。


 この能力は、テロ活動の為に人前に姿を晒す魔法使い達が、正体を隠す為には、とても便利である。

 ただし、魔力が解放されている相手には、この能力は効果が無い為、魔法少女には本当の顔を認識されてしまうので、完全に隠し切れる訳ではない。


 その為、仮面やマスク、ゴーグルやサングラスで、テロ活動中は顔を隠している魔法使いは多い。

 カリプソのブラック・メイデン程ではないにしろ、マジックブースターには顔を隠せる物も多いのだ。


 顔認識妨害能力は、連続で長時間使い続けると、能力が停止したり、長距離からでも探知される、強力なセフィル波動を発してしまう欠点がある。

 故に、基本的にはテロ活動中、人前に顔を曝す場合のみ使用し、長時間の連続使用は避けなければならない。


 銀の星教団の場合、シドリで作られたオーソドックスな黒いローブを、戦闘服としている魔法使いが多い。

 だが、武術が得意で纏魔を使える、カリプソなどの一部の魔法使い達は、身体を動かし難いローブを好まず、シドリで出来ている、ゆったりとしたダークスーツを使用する者が多い。


 こういった魔法使い用の戦闘服には、様々なバリエーションが存在する。

 銀の星教団以外の団体でも、武術や格闘技を得意とする、纏魔を使える魔法使いは、動き易さを優先した戦闘服を、愛用している(蓬莱仙幇の功夫服タイプの戦闘服や、レキウユン達の迷彩模様の戦闘服など)。


 ちなみに、シドリの名の由来は、機織や織物の神とされる、天羽槌雄神あめのはづちのおのかみという日本の神が、天岩戸に閉じ篭った天照神山を誘い出す為、織ったと伝えられている、織物……倭文布シドリである。

 日本の繊維メーカーの研究員であった魔法使いが開発し、シドリと命名した。


 研究開発が進むにつれ、シドリ自体に様々なバリエーションが生まれた為、シドリで作り出せる戦闘服のバリエーションも、増え続けている。

 そのせいで、シドリ製の戦闘服のデザインを、ユニフォームの様に揃える、魔法主義革命家団体が増加中だ。


「ちょっと、待ってて」


 戦闘服を身に纏い終えたカリプソは、眠ったままの一刀斎に声をかけてから、ドアを開けて車の外に出る。

 姿を現したカリプソを見て、警官隊や警備隊のメンバー達はざわめく。


 突如、銃声が響き渡る。

 発砲命令は出ていないのだが、魔法主義革命家団体の幹部クラスの上級魔法使いと、初めて対峙した警察官の一人が、緊張の余り、誤って発砲してしまったのだ。


 避けられる銃弾を避けもせず、カリプソはジャケットの左裾の辺りで、銃弾を受け止める。

 銃弾は小銭でも落としたかの様な音を立てて、カリプソの足元に落ちる。


 穴が開くどころか、傷一つつかなかったジャケットの裾を、ほこりを払う風な動きで、カリプソは軽く叩いて見せる。

 銃弾など自分には通じないとでも、言わんばかりの素振りで。


「馬鹿野郎! 誰が発砲を許可した! 車の方に当たったらどうする?」


 指揮官が、発砲した警察官を叱りつける声が、カリプソの耳にまで届く。


「――今ので分ったと思うが、あなた方の使う武器は、私には通用しない! 下手に撃つと、大事な人質を傷つける事になる。大人しく武器を収め、封鎖を解除しなさい!」


 毅然とした口調で、カリプソは警官達に話し掛ける。

 滑舌が良い、音楽教師らしい声で。


「そんな事、出来る訳が無いだろうが!」


(それは、そうよね……)


 警察の現場指揮官の返答を聞いて、カリプソは苦笑する。

 威嚇攻撃も無しに封鎖を解く程、物わかりの良い連中なら、最初から封鎖などする訳が無いと、カリプソは思う。


「こういう時、飛ぶのが得意だったら、鬼宮君を抱き抱えて、飛んで行くんだけど……苦手なのよね、飛ぶの」


 カリプソは、嘆息する。

 強力な魔力と多彩な魔法に加え、高度な武術を操るカリプソにとって、唯一の弱点と言えるのが、飛行能力の弱さだった。


 魔法には、魔法使いや魔法少女との相性というものがある。

 呪文を覚えたり登録したりしても、魔法使いや魔法少女との相性が悪い魔法は、使えなかったり、効果が低かったりするのである。


 カリプソの場合、相性が悪くて効果が低い魔法が、飛行能力関連の魔法なのだ。

 飛べない訳では無いのだが、連続飛行時間が数分と短い上に、単体での飛行しか出来ないという制限が、カリプソの飛行魔法には存在する。


 単体での飛行しか出来ない……つまり、他人や重たい荷物を持って、飛行する事が出来ないカリプソには、一刀斎を抱えたまま、空を飛ぶ事は出来ない。

 それが出来無いから、わざわざ車を使って、一刀斎を拉致したのである。


 ちなみに、カリプソとは対照的に、飛行魔法と相性が良いのが惣左衛門だ。

 超音速飛行が可能なだけでなく、異常なまでに強力なアーマーアビリティを誇るのだから。


「仕方が無い……」


 カリプソは、呪文の超高速詠唱を開始する。

 程なく、地面に円形の創造魔法陣が出現し、カリプソの胸元に、光り輝くセフィルの塊が発生する。


「セフィルよ、我が敵を滅ぼす、水の鞭となれ!」


 鋭い声と共に、カリプソはセフィルの塊を右手で掴み、創造魔法陣に投入する。

 直後、創造魔法陣の中から、大量の水のセフィルが噴出し、太さ五センチ、長さが八メートル程の長大な鞭に、姿を変える。


 カリプソが造り出したのは、水妖鞭すいようべんと呼ばれる、魔法の鞭である。

 柄の部分のみは、鋼のセフィルで出来ているが、鞭の本体部分は変幻自在の形を為す、水のセフィルで作られている水妖鞭は、通常の鞭とは違い、造り手の意のままに、長さを変化させる事が出来る。


 意のままとはいっても、伸ばせる長さには限度があり、最長で二百メートル程までしか伸ばせないのだが。




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