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062 北村藤那……いや、魔女カリプソ! 無駄な抵抗は止め、即座に人質を解放して、投降しろ!

「私達の行き先、先読みされたみたいね……」


 スモークフィルムが貼られたフロントガラス越しに、目の前を封鎖する警察の姿を見て、藤那は呟いた。

 百五十メートル程先には、十台以上のパトカーが並び、国道254号は完全に封鎖されていた。


 国道254号に接続する横道にも、パトカーが停車して道を塞いでいる。

 それだけでなく、路上には棘でタイヤをパンクさせて、強制的に停車させる道路封鎖用の道具である、スパイクベルトが設置され、自動車が通り抜けられぬ状態になっている。


 封鎖されているのは、前方と横道だけではない。

 後方は才蔵達の車に加え、何時の間にか現れた、五台程のパトカーが道を塞いでいる。


 藤那の車は、国道254号で挟撃されているのである。

 前後も横道も、完全に封鎖されてしまったので、藤那の赤いライブは停車を余儀無くされたのだ。


 前方、パトカーを盾としている四十人程の警察官達は、藤那の車に銃を向け、威嚇を続ける。

 無論、只の銃器が魔法使いには通用しない事など、誰もが分っている。魔法少女が到着するまで、少しでも時間を稼ごうとしているだけなのだ。


 車内に一刀斎がいる現状、その安全を考慮すると、ライブを狙撃して破壊し、逃走の足を止める手段は、選択し難い。


「北村藤那……いや、魔女カリプソ! 無駄な抵抗は止め、即座に人質を解放して、投降しろ!」


 前方を封鎖する警察官達の指揮官が、拡声器を使い、藤那に投降を呼び掛ける。

 藤那とカリプソが同一人物であると、惣左衛門から報告を受けた規格外犯罪対策局は、様々な情報分析の結果、惣左衛門の報告が事実であるという結論に達した。


 故に、その情報が警察にも、伝わっているのである。


「私がカリプソだという事まで、知られたみたいね……予想より早いな」


 一刀斎が、警備隊の監視下から離れる凪澤中学校内において、一刀斎の拉致を強行する決意を固めた時に、自分の正体がばれるのを、藤那は覚悟していた。

 音楽教師の北村藤那としての生活を、捨て去る代償を支払っても、一刀斎の拉致は成功させなければならないと、藤那は判断したのだ。


 このまま、惣左衛門の存在を放置すれば、銀の星教団が壊滅し、クロウリーが捕らえられるのも、時間の問題である。

 クロウリーが捕らえられ、ケマの書が破壊されれば、ケマの書によって魔力を解放された、銀の星教団の魔法使い達は、魔力を封印され、魔法を失ってしまう。


 魔法が使えなくなれば、上級魔法使いであるルドラ……藤那の父である北村三蔵きたむらさんぞうの、記憶にプロテクトをかける魔法も、効力を失う。

 そうなれば、記憶を読む魔法が使える一部の魔法少女……榊などによって、三蔵の記憶が調査され、藤那が魔女カリプソである事は、露見してしまうのだ。


 つまり、一刀斎を拉致して、惣左衛門に魔法少女を辞めさせなければ、藤那は近い内に、魔法を失った上で、カリプソとして逮捕される事になるのである。

 魔法と教師としての生活、両方を失うよりも、教師としての生活だけを失う事を、藤那は選択したのだ。


 魔法を失えば、惣左衛門への復讐も果たせないのだから、藤那は当然の選択をしたのだと言える。


「教師の生活も、割と気に入ってたんだ。鬼宮君にも、出会えたしね……」


 藤那は、助手席で眠っている一刀斎の頬を、左手で軽く撫でた後、一刀斎の膝の上に置いたバッグを開き、中から黒い仮面を取り出す。

 ブラック・メイデンと呼ばれる、仮面型のマジックブースターを。


 処女である女性だけが装着出来る事から、この仮面型のマジックブースターは、ブラック・メイデン……黒き処女と呼ばれている。

 ブラック・メイデンの様に、使用する者を限定するタイブのマジックブースターは、魔法の増幅効果が通常の物より、高い傾向がある。


 レベルAの魔力所有者であり、上級魔法使いである藤那に、レベルSの魔力を持つ、大魔法使いに匹敵する能力を、ブラック・メイデンは与えてくれるのだ。


「だけど……私には教師より、魔女の方が似合ってるのよ。戦いの中に身を置き続ける、魔女としての生活の方が」


 自嘲気味に呟きながら、藤那はブラック・メイデンを被り、魔女カリプソとなる。

 マスクド・ウイッチとして恐れられている、銀の星教団の上級幹部……魔女カリプソに。


 カリプソは、後部シートに置いてあった、黒いジャケットを手に取ると、素早く袖を通す。

 元々、黒いスラックスを穿いていたカリプソは、マニッシュなダークスーツ姿となる。


 大抵の魔法使いは戦闘時、魔力が解放されている人間が纏うと、魔法を使わずとも、強力な防御能力を発揮する、特殊な素材……シドリを使用して作られている、戦闘服を身に纏う。

 シドリは何らかの方法で、魔力が解放されている人間の魔力を、常に僅かに何等かのセフィルへと変換し、視認出来ぬ程に薄いセフィルを纏うので、シドリ製の戦闘服は、魔法ではない攻撃であれば、全て防げると言われている。


 シドリ製の戦闘服は、服に覆われている部分だけでなく、覆われていない頭部や手などに、微量のセフィルを付着させ、纏わせる魔膜ままく効果までも発揮する(呼吸に必要な空気などは通す)。

 無論、纏魔やアーマーアビリティ、魔甲などと比べると、問題にならない程、防御能力は低いのだが。


 発生させるセフィルの量は、極僅かでしかない。

 その為、かなり接近しなければ、魔法少女達の索敵魔法にすら、シドリは探知される事は無い。


 ちなみに、シドリを製造する技術は、現在は魔法主義革命家側にしか存在しない。

 ただし、魔法少女のフォーマルスタイルには、布に覆われている部分も、肌が露出している部分も、シドリ製の戦闘服と同等以上の防御能力がある為、必要が無いとも言える。




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