061 鬼宮惣左衛門と鬼宮牡丹でも、まともに探索出来ず、重傷負って退散したっていう、世界で一番危険な場所ですよね、神山DZPMって
彩多摩県凪澤市に向って、惣左衛門が飛んでいる頃、凪澤市の市街地では、激しいカーチェイスが繰り広げられていた。
赤い一台のトールワゴンを、二台の黒いセダンが追い掛けているのだ。
赤いトールワゴンは藤那の車で、黒いセダンが警備隊の車である。
途中で数台の車が、追跡に加わったのだが、二台のセダンを残して、全て振り切られてしまっていた。
三台の車が繰り広げる、激し過ぎるカーチェイスに、他の車はついていけなかったのだ。
「あれは違法改造してますね、確実に……」
黒い二台のセダンの内、先行する方の運転手、奉侍が呟く。
「ただの軽自動車に、出せる速さじゃ無いですよ」
赤いトールワゴンと黒いセダンは、スピードにおいて互角である。
市販のセダンをベースにしてはいるが、特別なチューンナップが施された、才蔵達が乗る特別仕様車は、様々な装備を積みながらでも、時速二百キロ以上の最高速度を誇る。
藤那の赤いトールワゴン……ライブは、若い女性に人気がある、手頃な価格の可愛い軽自動車である。
間違っても、スポーツカーの様な、ハイスピードが出せる車種では無い。
違法改造によるチューンナップを施さなければ、才蔵達のセダンと、スピードで五分の勝負が、ライブに出来る筈が無いのだ。
「案外、魔法を使ってるのかもしれませんね。車のスピードを速くする魔法」
後部座席に座る部下の一人が、そんな軽口を叩いた。
「――そんな魔法は、聞いた事が無いな」
助手席に座っている才蔵の言葉は、素っ気無い。
実際、車のスピードを速くする魔法というのは、現時点では発見されていない。
「車も速いが、運転手のテクも、まともじゃ無いですね。俺と同レベルです、低目に見積もっても」
藤那のドライピングテクニックに、奉侍は感心する。
奉侍は国際A級ライセンスの持ち主であり、高度なドライビングテクニックを誇る。
その奉侍が、自分と同レベルと表現するのだから、藤那のドライビングテクニックは、かなり高い事になる。
赤いライブは滑るような動きで、次々と先行する車を追い抜いて行く。
黒いセダンも後に続くが、才蔵達が乗っていない後方の車が、次第に引き離されていく。
「宇田川は、ここまでか……。あいつ腕落ちたな、トレーニング怠け過ぎなんだよ」
引き離されて行く車を、バックミラーで一瞥しながら、奉侍は悪態を吐く。
カーチェイスから脱落しつつある車の運転手が、奉侍の後輩の宇田川飛鳥という男なのである。
程なく、飛鳥が運転する車は、バックミラーにも映らなくなり、カーチェイスを繰り広げる車は、二台になる。
「道路封鎖が遅れていやがる。ある程度先読みして封鎖しないと、間に合わないか……」
口惜しげに、才蔵は呟く。
規格外犯罪対策局を通して、才蔵は予測される逃走ルートの道路封鎖を、地元警察に依頼していたのだが、藤那のライブの逃走スピードが速過ぎて、封鎖が間に合わないのだ。
「このままだと、254号に出るな」
助手席にいる才蔵は、カーナビを操作しつつ、モニターのマップを確認する。
254号とは、今現在カーチェイスが行われている県道と繋がる、国道254号の事だ。
才蔵はカーナビで、国道254号の沿道付近にある、魔法主義革命家達が目的地にしそうな存在、関わりがありそうな存在を、探し出そうとする。
そして、魔法主義革命家達と、深く関わりがある存在を、才蔵は一つだけ見付け出す。
「――たまにだが、DZPMに逃げ込む、魔法主義革命家連中がいるよな。確か去年も、宮子島DZPMに、逃げ込んだ奴等がいた筈だ」
才蔵の呟きに、奉侍が応じる。
「確かに、逃亡中の魔法使いがDZPMに逃げ込む事は、たまにありますけど、この辺りのDZPMといえば、神山のだけでしょう?」
「ああ、254号を右折して、四十キロも走れば、神山DZPMだ」
才蔵が見付け出した存在とは、その神山DZPMであった。
「確かにDZPMに逃げ込まれたら、ただの人間の俺達じゃ、お手上げですけど、いくら魔法主義革命家団体の魔法使いだろうが、あそこだけは近寄りませんよ! 他のDZPMとは、ヤバさの次元が違うんで、逃亡に利用出来る様なとこじゃないですって!」
「――だと良いんだが、今回の誘拐を実行した可能性が一番高いのは、銀の星教団だ。神山DZPMとは因縁があり、生還した記録が残っている、クロウリーが率いる……」
「クロウリーでも、あの時だけでしょう、神山DZPMに入ったのは。しかも、死に掛けていたそうですし」
奉侍の言葉を、後部座席の新人が受け継ぐ。
「鬼宮惣左衛門と鬼宮牡丹でも、まともに探索出来ず、重傷負って退散したっていう、世界で一番危険な場所ですよね、神山DZPMって」
一般には公開されていない、神山DZPMに関する情報を、新人は口にする。
規格外犯罪対策局の警備隊に配備された後、研修で教えられた、安全保障上の機密情報の一つだ。
「――危険な場所だが、魔法主義者連中……しかも、クロウリーに深く関わる場所だ。一応、警戒しておいた方が良い」
無線機を手に取り、スイッチを入れて、才蔵はICとの通信を始める。
「逃走車両は、国道254号に向かっている。神山DZPMに逃げ込む可能性を考慮し、その手前での254号の封鎖を要請する! 東京方面の封鎖は後回しで良い! 群摩方面が優先だ!」
才蔵は強い口調で、付け加える。
「県道の封鎖が、全然間に合っていない! 逃走車両は速い、急がなければ県道同様、封鎖が間に合わんぞ!」
国道254号の道路封鎖……交通規制要請は、即座にICから彩多摩県警に伝達された。
そして、国道254号の封鎖予定地点に、最も近い場所にいた、手の空いたばかりの魔法少女は、ICから無線連絡を受け、封鎖予定地点への急行を要請された。
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